※このエントリーは2010年2月に公開した、故・飯野賢治さんの取材記事です。飯野さんの思考・視点を改めて伝えたいと思い、再度掲載いたします。(Kotaku JAPAN編集部)
どうもこんにちは、オレ的ゲーム速報の Jin115です。
第2回目は、なんとかつてゲーム業界を騒がせた飯野賢治さんにお会いして来ました。最近のお仕事の内容や、ゲームの今後について色々と聞いてきましたYO!
―早速ですが、何故今回はKotaku JAPANさんと僕の取材に応じて頂けたんでしょうか?
飯野:なんとなく(笑)。
昔話ばかりになっちゃうんで取材はだいたい断わってるんだけど、なんとなくタイミング的にいいかなっと、特に深い意味は無いです。
―今はどんなお仕事をなさってるんですか?
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飯野:今、立ち上げている仕事は言えないんですが、企画やプロデュース、ディレクションの仕事です。アイデアを考えたり、チームを率いてみたり。製品やサービスができたら言えるんだけど、過去のことには、あまり興味ないしなあ(笑)。
ゲーム業界を一時期離れてから、もう10年程経つんですけど、ビデオゲームの開発で重要な「コンシューマー視点」というものが、商用サービスの企画や設計においても役立つんですよね。
例えば、どこかに端末を作りましょうとか、自動販売機を置きましょうというとき、コンシューマーの視点になって「こう作るとわかりやすい」とか「こうなると楽しい」とか、そういう風な企画をする人は珍しいわけです。
飯野:わかりやすい例で言うと...指定席の券売機でチケットを買ったとき、画面に「領収書」のボタンが出てくるんですが、押しても青く光るだけで、そのボタン自体が消えないから、何度も押す人がいるんです。
これがゲーム屋さんなら、「領収書」ボタンは押したら消えて、「領収書が発行されます」とか表示を切り替えるべきだ、って当たり前のように気づくんです。
ビデオゲームというのは、当たり前ですが、基本的にすべてインタラクティブですから、ゲーム屋さんはインターフェイスを作るスキルが高いんです。
ゲーム機でゲームを作るのと同じ感覚で、自販機や自動改札機を使ったサービスなんかも企画、設計しましたね。
僕はいまだに「ゲームクリエイター」を名乗ってるんですけど、ビデオゲームだけじゃなくって、遊びとしてのゲームを作ってるんですよ。遊びというものがすごく好き。遊びをサービスに入れると、人が楽しめたり、ハマったり付加価値を感じてくれるんです。
飯野:たとえば「ガチャガチャ(カプセルトイ)」って、はじめから中身が分かっていたら買わないじゃないですか。あれはガチャガチャとやって、何かが出てくるのが楽しいわけで。
金魚なんかも3匹100円で売ってたら買わない。けれど「金魚すくい」なら、1匹も取れないかもしれないけどやってしまう。あれは遊びにお金を払っているんですよね。遊びを通して、浴衣姿の女の子とコミュニケーションするのが楽しかったりね。
ビデオゲームも同じで、『ドラクエ』を遊んだ後に、学校で友達と喋ったり、会社の同僚と喋ったり、ネットでコミニュケーションしたりするのは楽しいですよね。
単純にゲームが面白いという事以上に、ゲームを通して他人とコミュニケーションをすることでより楽しめるようになるんです。そういう事の価値を、より世の中に入れていくような仕事をしています。
―失礼ですけど、最近あまり表に名前が出て来ませんよね?
飯野:名前を出さないという条件で仕事を受けている事も多いんです。なんか嫌じゃないですか。全然関係無いサービスで、いちいち「飯野賢治」の名前が出て来たら(笑)。
「名前があったほうがいいな」と思う場合は名前を出しますが、自分が使う側になった場合、必要ないと思った物には名前を出さないようにしているんです。ゲームやiPhoneのアプリなんかは、無責任になっちゃうんで名前を出しますけどね。
―そういえばiPhoneでゲームを出してましたよね。
飯野:体験版なんかも入れると5~6本出してますね。『newtonica(ニュートニカ)』『newtonica player』『newtonica2』『newtonica2 lite』『newtonica resort』あと『one-dot enemies』。
―『one-dot enemies』は初耳でした。
飯野:『one-dot enemies』は、当初、名前を出さないでどこまでいけるか試してみたかったんです。『newtonica』の経験もあったので、プログラマーと2人で 1週間くらいで作りました。おかげさまで、10万ダウンロード以上いきました。でも逆に上手く行き過ぎたんで、「名前の価値って無いのかな」ってちょっと思っちゃったり(笑)。
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one-dot enemies
1ドットしかないエネミー(敵)を、指でひたすらプチプチつぶしていく。つぶしたエネミーはカウントされ、全世界で何匹倒されたかが記録されている(2010年2月時点で5500万匹ほど)。EDGE OnlineのiPhoneトップ50ゲームで3位に選ばれ、「iPhoneにおけるテトリス」と評された。
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―今後、ゲーム業界で大きな仕事をする事はありそうですか?
飯野:うーん、大きなというか、いつかパブリッシャーまでやることはあるのかなあとは考えたりします。ゲームの企画開発だけをやっていても...。販売戦略やマーケティング、ユーザーとのコミニュケーションまでやるべきなんですよね。
僕が90年代後半にやってきた事は、マーケティングも含めての活動だと思ってて。ゲームの作家が前に出て、インタビューを受けたりするスタイルは当時まだ少なかったんです。自分なりにあれは良いアイデアだったなと思っています。そのように、いまの時代なりの作品を届けるアイデアとか戦略というのはあるはずで、そういうのも込みでやってみたいですね。
そもそも、何本も同じようなゲームを作っていくクリエイターじゃないから、ファンが育つとかそのゲームのコアなユーザーが出来るとかいうのもあまり無いんです。『newtonica』は1と2でゲームが全然違うし、『Dの食卓』と『Dの食卓2』の両方をやった人は分かると思うんですが、どこが2やねんと(笑)。
そんな感じなんで、ゲームをちゃんと作るならパブリッシャーまで含めてやらないといけないと分かっているので、どこかでタイミングがあれば考えるかもしれません。
―Twitterにだいぶハマっているようですね。
飯野:Twitterはブログ以来の衝撃です! Twitterはゲームの要素があるようにも思えるのね。フォロワーが増えたとか減ったとか、リプライを貰ったとか、リツイートされたとかね。ゲーム感覚。
Twitterの良い所は、現実ありきな所だと思います。誰かが外に行って「月が綺麗」だとか「あそこの食事が美味しい」とか、リアルな生活と直接結びついているのが面白いんだと思います。
Twitterのせいでブログも、ほとんど見なくなってしまいましたね。ただ、PCを立ち上げたら、先にメーラーを立ち上げてからTwitterを立ち上げることだけは肝に銘じてます(笑)。
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飯野賢治(いいの けんじ)さん:
東京出身。小学生のころからパソコンでゲームを制作するようになり、ゲームクリエイターの道へ。現在はfyto(フロムイエロートゥオレンジ)を率い、さまざまなサービス・インタフェース、ゲームなどの企画・制作を手がける。
代表作:
Dの食卓、エネミー・ゼロ、リアルサウンド~風のリグレット~、newtonica、きみとぼくと立体。などなど。
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(Jin115)
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