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【コラム】人生は残機ゼロ 第1回:80年代ナムコ黄金期と早すぎた『イシターの復活』後編
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【コラム】人生は残機ゼロ 第1回:80年代ナムコ黄金期と早すぎた『イシターの復活』後編

2012-12-10 00:01
    コラム イシターの復活 後編


    前編はコチラ

    さて本題の『イシターの復活』は、1986年に登場した『ドルアーガ』の続編。前作でドルアーガを倒したあと、メチャクチャになった塔の最上階から、黄金騎士のギルガメッシュ(ギル)と恋人の巫女さんカイが地上に帰ろうとするゲームです。遠藤さんが創ったバビロニアン4部作(他は『カイの冒険』と『ブルークリスタルロッド』)の中では時間的には3番目ですね。
     

     


    このゲーム、コンパネ(操作するパネル)をパッと見たとたん「何じゃこりゃあー!」ですよ。2本のレバーにボタンがふたつ。それぞれカイとギルを動かすレバーが1本ずつ、カイの使う魔法を選ぶボタンと、魔法を発射するボタン。つまりギルを動かしながら、カイの魔法を敵の種類に応じて選びつつ使えってこと。

    えっと人類には脳が一つしかないんで、右手と左手とで別々のことを考えなきゃいけないマルチタスクは無理! なんでこんな複雑な操作にしたのか、前に遠藤さんご本人に聞いたところ「いやー2人で遊ぶデートゲームのつもりで作ったんだけど、ゲーセンに来る男子には彼女がいなくてね!」だそうです。ゴメンねいなくて...。


    コラム イシターの復活 後編


    そんなイレギュラーな(?)1人プレイも、ちゃんと想定済み。基本的にはカイだけでフロアを歩き回り、次の出口を見つけたら「コールギル!」という魔法で召喚。いっぺんに2人を操作しなくて楽ちんですが、これってギルはカイのヒモ、もといオプション扱いなんじゃ......。

    操作は慣れれば何とかなる。が、「イシター」が問題作といわれたゆえんは、カイとギルが冒険する塔の構造にあります。しっちゃかめっちゃかに時空が乱れたせいか、いくつかある各階の出口がドコにつながってるのか分からない。ゴールに近づくどころか前のフロアに戻るぐらいはラッキーで、下手すると歯が立たない敵に囲まれて即死するロシアンルーレットです。


    コラム イシターの復活 後編01


    そして画期的なパスワード方式。ゲームオーバーになると出てくるパスワードを書き留め、次のプレイでそれを入力すると、前の続きから始められる。ドラクエの復活の呪文と同じ発想ですが、コインを入れるごとに「1回こっきり」だったゲーセンでやったのが新しかった。ひいては、後のメモリーカードやe-AMUSEMENT PASS(アーケードゲームのデータを記録しておくカード)のご先祖様でもあります。ナムコ系のお店だと、パスワード専用シートを配ったりしてました。

    『ドルアーガ』のRPG要素を『イシター』も受け継いでいて、モンスターを倒すとギルもカイも成長します。が、フツーに遊ぶと宿屋もなく、基本的にHPやMPを回復する方法がない(回復できるフロアも中にはあるけど)。ゲームオーバーになってから経験値を計算して、そこでレベルアップを記録したパスワードがやっと手に入る

    強くなって新たな呪文を覚え、全快したキャラが使えるのは次回から。絶対にワンコインではクリアできないし、いつになったら終わるのかも分からない。コンティニュー前提、ゲーセンに通ってくれのデザインなんです。

    ヒドイっちゃひどい。でも、抜け道はある。他人の育てたパスワードをコッソリと...またしても「盗み見」するものとされるもののイタチごっこの始まり。『ゼビウス』では隠しキャラ、『ドルアーガ』では宝箱の出し方、『イシター』では各フロアのマップやルートといった情報が大事になり、ゲームの攻略本やその発展型としてのゲーム情報誌が成長する環境が作られた。ゲーセンでもノートが置かれて、コミュニケーションが活発になったいい面もいっぱいあります。けど、不信感の募るギスギスした雰囲気にもなったわけですよ。

    そういう僕も「情報」を活用しました。『マイコンベーシックマガジン』や『ゲーメスト』で情報を集めもしましたが、切り札は友情。というか、『イシター』をやりこんだ友達のお世話になりまして。その人のカイにくっついていくギルを遊ばせてさせてもらったり、最強パスワードを分けてもらったり。はい、寄生プレイヤーですね。

    僕も褒められたもんじゃありませんが、ここに『イシター』最大の弱点がある。パスワードはデジタル的に保護されてない「ただの文字」ですから、紙とエンピツでコピーし放題。それに攻略が進めば秘密も丸裸にされ、地道にプレイしてる人もどんどん強いデータを育てるので、数ヶ月もすれば『イシター』は、ワンコインで何時間でも遊べるゲームになってしまいました。どんどん置いてる店が減ったのも、そういうことでしょう。

    キャラのデータを育てられれば、プレイヤーも愛着が湧いてお金をどんどんつぎ込んでくれるんじゃないの? 遠藤さんの発想は凄まじく正しくて、家庭用RPGはますますやり込み性を深めましたし、オンラインRPGやソーシャルゲームも「データへの執着」を拠り所にするビジネスであります。『イシター』はそういう時代が大転換する境目にあって、僕らはいいものを見せてもらったし、最先端を突っ走るパイオニアはワリに合わないよねってことですね。


    画像:バンダイナムコゲームス YouTube公式チャンネル
    (PS) THE RETURN OF ISHTAR 2 coin all clear 1/3[YouTube]

    (多根清史)

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    RSSブログ情報:http://www.kotaku.jp/2012/12/tane_ac_02.html
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