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【考察】ファンタジーとホラーとヘヴィメタルの深く濃い関係とは?
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【考察】ファンタジーとホラーとヘヴィメタルの深く濃い関係とは?

2013-08-05 22:30
    ヘヴィメタル ハントレス ジル・ジャナス


    全国666万人のメタラーの皆さま......以外の方々にも知って欲しいデス! 

    ロック・ミュージックが好きなら当たり前にご存知かと思いますが、実はハード・ロックやヘヴィメタルという音楽は、一口にコレとくくれないほどいろんなジャンルに細分化されています。

    かつて最先端だったメタルは最早クラシック・メタルと呼ばれていますし、速さが特徴のスラッシュ・メタルスピード・メタル、重さと勢いのパワーメタル、それに宗教的要素の強いクリスチャン・メタルもあれば、反対に破滅の歌詞が並ぶドゥーム・メタルデスメタルといった対極のモノまで、スタイルはホントに多種多様なんDeath。

    やはりメタルという名称を聞くと、ドクロや悪魔、毒蛇や鮮血といった黒魔術的なイメージがパっと頭に思い浮かぶのではないかと思われますが、実際、どうしてそんな関係性が濃く、深くなってしまったのでしょうか? 

    今回は、io9記者が「メイハム・フェスティヴァル」に潜入して、その辺を調査してきたリポートを読んで、メタラーの訳者が考察していきたいと思います。以下へどうぞ!
     


    【大きな画像や動画はこちら】

     
    ジャケットにはドラゴンと戦っている姿が描かれるイングヴェイ・マルムスティーンさんに、ステージ上では口から真っ赤な血を吐くKISSのジーン・シモンズさん、生きた屍娘をテーマにした歌がある「ホワイトゾンビ」、全身ゴツいコスプレで身を固めたエイリアンのGWARなどなど、ファンタジーやホラー、またはSF的要素がふんだんに見られるキワモノのヘヴィメタル。

    1950年代でもすでに、人殺しや惨劇をテーマにした楽曲が多く歌われていたそうですが、最初に自分自身をホラーをテーマとしたパフォーマーは、イギリスのスクリーミング・ロード・サッチさんだと言われています。豹の毛皮に2本の角を生やして歌った『ボルネオの獣人』や、医者が持つバッグとナイフを片手に歌った『ジャック・ザ・リッパー』。そしてドラキュラのコスプレで棺桶から登場したりと、かなりオカルト要素をパフォーマンスの要としていた方です。

    しかも、彼は政治活動に打って出て、30年近くも自分の党で党首として、様々な法案を提言したり、ラジオ局を作ったりしており、音楽も政治活動だとして行なっていた、かなりエキセントリックな人生を歩んだ偉人。そのパフォーマンスの様子がコチラ。



    やはりこうしたファンタジーかつオカルティックなテイストは、アメリカ人よりもイギリス人のほうが元々持ち合わせていたのか、そののち1969年にレッド・ツェッペリンは『ランブル・オン』という曲で、『指輪物語』のゴクリについて歌ったり、ギタリストのジミー・ペイジさんは黒魔術に傾倒していたり......と世間で噂されていたほど(後に本人は否定)。

    メタル界の小さな巨人、オジー・オズボーンさんも元々はブラック・サバスというバンドが出発点で、コンセプトは「人を怖がらせる音楽を作る」というモノでした。

    デビュー・アルバムの『Black Sabbath』(黒い安息日)は、水車小屋の前で撮られた写真に女性の幽霊がハッキリと写った心霊写真(と言われている)だったり、1970年2月の「13日の金曜日」にリリースされたりと、オカルトずくめだったりします。

    楽曲はルシファーなどの悪魔について歌われ、なかにはラヴクラフトの小説『Behind the Wall of Sleep』をモチーフにしたり、またしても『指輪物語』のガンダルフをテーマとした歌も書いています。後にオジーさんは生きた鳩や死んだコウモリをステージ上で噛み千切ったというパフォーマンスで、益々神格化されて行くコトになるのです。

    そして1970年代に出た楽曲から、2013年の今日に至るまで、メタル独特の攻撃性と反逆性を持ったディストーション・サウンドがどういうワケか、ダークなイメージと親和性を深め続けて行ったのです。

    さて、前述でio9記者が行ったと書いた「メイハム・フェスティバル」ですが、実際にパフォーマンスを観て、さらにいくつかのバンドにインタビューしてみたところ、ふたつの仮説が出てきたそうです。


    仮説その1:劇場型ステージ、パフォーマンス

    ヘヴィメタル ロブ・ゾンビ メイハム・フェスティヴァル

    やはり炎を見ると燃えますね


    何百人ものオーディエンスを前に演奏した時に、最前列から最後列まですべてのファンに自分を印象づけるには、自ずとハデな衣装やパフォーマンスが必要となってきます。

    弾ける火花や舞い上がる炎、客席に照射されるレーザーポインターや空を舞う演出などなど。「アイアンメイデン」のステージでは、イメージ・キャラクターのエディ・ザ・ヘッドの巨大な着ぐるみが動きまわったりもします。

    L.A.のドジャース・スタジアムで行われた「KISS」のコンサートでは、観客に3Dメガネが配られ、ステージ上の3Dモニターから映像が飛び出して視える......なんて凝ったモノまでありました。

    かつてミック・ジャガーさんは、大きなスタジアムで歌う時にブルー・ジーンズでステージに上がっても、良いショウになるなんて思ってはいけない、とおっしゃったそうです。

    これは同様に、楽曲の中で歌われる世界観もリアルなモノにする必要が出てきます。暗闇の歌であれば、より暗黒な世界へと変貌し、心のうちに秘められた小悪魔は、ステージ上で本物のデーモンと化すのです。

    ちなみにですが、歌のテーマはさて置き、これを具現化している日本の歌い手さんは、紅白歌合戦で年々衣装がゴツくトランスフォームしていった小林幸子さんや、漁船の先頭やドラゴンの頭の上で歌う北島三郎さんなどが、全く同じ動機でああなっていったのだと考えられます。

    同じノリで、スウェーデンでメロディック・デスメタルを演奏している「アモン・アマース」というバンドは、北欧神話やヴァイキングについて歌うコトが多いためか、ステージに海賊船を上陸させています。



    どうでしょう? サブちゃんほどのギミックはありませんが、目指しているトコロはかなり近いんじゃないでしょうか? 

    2011年に結成された「Thrown into Exile」は、ホラーやファンタジーではなく終末論的な世界観を歌うバンドです。ヴォーカルを務めるエヴァン・セイドリッツさんは、小さい頃から両親の持っていたレコードを聴いて育ち、いつかはシンガーとなり、エンターテイナーとなり、ステージイチバン前で歌うパフォーマーになりたいと思っていたのだそうです。いわく......

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    本当に良い楽曲が時を超えて受け継がれてきたのでしょうね。イカした曲を作るコトができれば、新しいファンは一生それを聴き続けるでしょう。しかも、ステージ上でのパフォーマンスが良ければ良いほど、その楽曲に命が吹き込まれるんですよ。ロックン・ロールやメタルにガイドやルールなんて必要ありません。自分の顔にメイクを施したかったら、やればいいんです。

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    と、インタビューに答えて下さいました。

    代わって「ハントレス」というバンドのシンガーで、ジル・ジャナスさんという女性がいらっしゃいます。カノジョは全身黒ずくめで、まるでどこかの異教徒みたいな出で立ちで登場するのです。


    ヘヴィメタル ハントレス ジル・ジャナス

    太モモも出し惜しみしません


    長く流れるブロンド・ヘアーに青い眼、大きなムネを強調する衣装も多く、その美しさは、まるで氷の女王。キャラクター作りもシッカリできている彼女ですので、そのステージ・パフォーマンスもかなり劇場型エンターテイメントに徹せられています。



    こんなに華奢で美しい方なのに、アホみたいにパワフルな声量とデス声、時に『指輪物語』のナズグルを思い起こさせるような叫び声まで操ります。10歳からオペラを歌っていたということで、歌唱力も群を抜いていますね。ヴィジュアル面では、まるでヘヴィメタル的なコスプレを観ているようで、ステージも非常に興味深い、人を惹き付けるアーティストとなっています。


    ヘヴィメタル ハントレス ジル・ジャナスメタル界に居ようが居まいが、彼女を一目観た男性諸君は、奴隷となって一生を棒に振っても構わないと思うことでしょう。このカリスマ性はやはりステージ上で発揮されてこそですよね。

    不思議な事にインパクト面でも、ダークなイメージがあると、かなり印象的になりますよね。仮にジルさんがお花畑でアイドル・ソングなんて歌っていても、コレほどのインパクトはないでしょう。

    かたや、破れた網タイツに黒いパンツ&スタッズ・ベルト、そして上半身はシリコン・オッパイに黒いビニールテープでバッテンをしてB地区を隠しただけ......というモーレツなエロインパクトを放つシンガーが2人もいるのが、「ブッチャー・ベイビーズ」というバンドです。


    ヘヴィメタル ブッチャー・ベイビーズ

    この写真はオッパイ出ていませんが......。


    ヘヴィメタル ブッチャー・ベイビーズ彼らがテーマにしているホラー的表現は、「オカルト系ではなく鮮血や内蔵といったゴア&スプラッター方面からのアプローチなのだ。」とブロンド・ヘアの美女ヘイディ・シェパードさんは語ります。

    何よりも、自分たちが恐ろしいと思うモノに影響を受けているのだとか。オフィシャル・ミュージック・ビデオでもキャミソールからオッパイが出ていますので、チェックしてみましょう。



    ヘヴィメタル ブッチャー・ベイビーズ女性ヴォーカルが2人もいて、どっちもトップレス血まみれなので、もうチープなアングラSM系ポルノか? ってなヴィジュアルですが、音楽的にもしっかりしているとなれば、いまだかつてない強烈なインパクトのバンドが誕生したコトになります。

    ヘイディさんが発する犬笛のような高音と、黒髪のカーラ・ハーヴェィさんのデス声によるツイン・ヴォーカルも、見事なコントラストです。

    しかも! バンドのメンバーはスプラッター専門の特殊効果&小道具担当スタッフも仲間としているというから、ドレだけパフォーマンスに(まさに)心血注いでいるのかが解ります。ちなみにステージの後で血糊を掃除するのが結構大変なんだとか......。

    とまぁ、「ハントレス」は究極の美女が、そして「ブッチャー・ベイビーズ」は血まみれのオッパイねーちゃんたちがバンドの顔としてやっているのですが、例として挙げるにはちょっと極端だったかもしれません。

    そもそもエンターテイメントの世界において商業的な成功に性的なアピールを使うのは、大昔からの常套手段でもありますし......。

    「メイハム・フェスティヴァル」に登場したロブ・ゾンビさんもまた、オカルト趣向が非常に強い方。今ではそのテイストと才能をもって、映画まで作ってしまうマルチ・アーティストとしても活躍しています。

    彼はもう、商業的にどう動いたらウマくやっていけるか、ちゃんとセルフ・プロデュースもマーケティングも心得ており、一生死ぬまで聴き続けるくらいコアなファンたちを抱えていると言っても過言ではないでしょう。これもまた、甘い言葉を並べただけのポップスとかを歌っていたら、ここまでの成功はなかったハズです。


    ヘヴィメタル ロブ・ゾンビ メイハム・フェスティヴァル

    ステージにもこだわりがあるロブ・ゾンビさん


    仮説2:現実逃避とカタルシス

    エンターテイメントとは、観客に非日常を味わってもらう特殊で空想的な芸能ですよね。

    「アモン・アマース」は、トールキン小説に影響を受けて、指輪を捨てに行った滅びの山「アモン・アマルス」からバンド名を付けています。曲作りも、あたかも映画の脚本を書くように努めている......とバンド・メンバーが言うほどです。

    たとえば、楽曲のタイトルは「北の戦士」、「宇宙の破壊者」、「雷神の黄昏」という、いかにも壮大な物語が始まりそうなモノばかり。

    ホラー系のメタルは現実逃避とはちょっと違うと考えられます。どちらかと言うと、一旦自分が軽くダークサイドに堕ちてから、現実世界がどんなに明るく楽しいかを実感できる、感情の浄化......つまりカタルシスの役割があると見て良いかと思います。

    特に精神状態が厨二病をこじらせる前後にあると、反社会的でダークでタブーな世界に憧れを持つモノです。そういう面で一番身近な必要悪がデス系やブラック系のメタル音楽なのかもしれません。

    「ブッチャー・ベイビーズ」のメンバーも、ライヴを観に来るお客さんの中には、今すぐにでも逮捕されちゃうんじゃないか? ってな極悪ヅラした人たちを見かけるとおっしゃっています。そんなお客さんは、絶対にロック系のオーディエンスでしか見つけられませんよね。

    その点、ロブ・ゾンビさんはクラシックでミステリアスなホラー映画などからインスパイアーされた楽曲やPVばかりで、恐怖感のないライトなエンターテイメント・ホラーを提供しているのもまた、コア過ぎない層にも受け入れられている要因かと思われます。

    日本でもたとえば、「筋肉少女帯」の大槻ケンヂさんが持つ独特なファンタジーの世界を歌にした楽曲が聴けますし、「人間椅子」はその名の通り、江戸川乱歩の世界から大きく影響を受けています。

    文学的な歌と出身地・青森で育まれた北国の空気感が見事な融合を遂げており、ドチラも聴き手は現実逃避が楽しめる音楽性となっています。


    ヘヴィメタル ロブ・ゾンビ メイハム・フェスティヴァル

    巨大な着ぐるみもまた非現実的かつインパクト大! 


    さてメタルのジャンルには、ゴシック・メタルというのも在ります。独特の様式美を持つゴシックもまた、難しい音楽理論や美しい旋律、超絶技巧が必要となるメタルの持つ様式美との親和性が非常に高いのです。

    甘ったるい恋愛歌ばかりのポップ・ミュージックであれば、人間が持つ闇の部分や社会への怒りなどを表現する事はありません。ですが、アグレッシヴな音楽性のメタルであれば、悪魔崇拝や人肉嗜食(カニバリズム)も暗いマイナーコードと高揚感を煽るスピード、そして現実逃避向きの複雑な変調などに乗せて表現ができるのです。

    それに悪魔崇拝や社会への怒りなんて、クラシックでもジャズでもポップスでも民謡でもカントリーでも、どー考えてもぜんっぜん似合いませんよね。音楽ジャンルを消去法で考えてみたとしても、やっぱりダークなテーマはハード・ロックとヘヴィメタルしかないでしょう。

    最後に、記事のコメント欄にあった、最強のコメントをご紹介します。

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    HAVEAPEANUT:この御方。『ドラキュラ』、ドゥークー卿、サルマン(を演じただけでなく)ヘヴィメタル・ミュージックでリード・シンガーを務めているよ。しかもカレは御年91歳

    ヘヴィメタル クリストファー・リー


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    おぉぉ...確かに! 怪優クリストファー・リー御大こそがヘヴィメタルなのかもしれませんね! 



    What's the connection between heavy metal music, horror and fantasy?[io9]

    (岡本玄介)

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