SF作家じゃない人も混ざってるけど気にしない。
ハリウッドがちょっと深いSFスリラーネタが欲しいときに頼りにするのが、SF作家フィリップ・K・ディックの作品。『ブレードランナー』、『トータル・リコール』、『マイノリティ・リポート』はどれも大ヒットし、『トータル・リコール』はリメイク版も公開されました。
また、長編小説『去年を待ちながら』を原作とする映画の製作も現在進行中。今後映画化できそうな作品もまだまだ残っていて、ハリウッドにとってはネタの宝庫のようです。しかし、ハリウッドが次のフィリップ・K・ディックを探すとしたら?
今回は米Kotaku姉妹サイトのio9がピックアップした、映画化できそうな小説をたくさん書いている作家たちをご紹介します。 ...とその前に、映画化されたディック作品の特徴を考えてみましょう。まずSFものには違いないけど、多くの作品が未来の地球を舞台にしていること。そしてディックの作品でもどちらかというとスリラーに分類される話が選ばれていること。彼が多作だったことも、ハリウッドには嬉しいポイントのひとつでした。 以上の特徴を備えていそうなSF作家は誰だと思いますか? 詳細は以下で。
※以下、日本語版がある作品は邦題表記、そうでない作品は原題表記でカッコ内に日本語の意味を併記します。
シオドア・スタージョン
スタージョンは長編は6本と数少ないものの、13の短編を残しました。短編にはフィリップ・K・ディック作品にも劣らない奇想天外な世界を描いたものも多数。特に評価が高い作品は私たちが住む身近な世界に何か1つ変わったもの(超能力が存在する等)を付け加えた世界を舞台にしており、長編『夢みる宝石』や『人間以上』はパラノイア的な要素もはらんでいます。スタージョンを近未来SFの巨匠と呼ぶ人も多いのです。
ルーディ・ラッカー
スタージョンよりもっと変わった話がいいならルーディ・ラッカー。彼が描くのは現実世界からさらに2歩も3歩も離れた不気味な世界。特に、実在する人間そっくりに作られたロボットたちと、彼らが人間に反抗して月に築いた世界が登場する長編『ソフトウェア』は、ディック風SF旅行が幻覚のせいで違う次元に突っ込んでしまったような感じ。ラッカーは短編も多い上、長編も映画化したら大成功しそうなのがいくつもあるそう。特に『Mathematicians in Love(恋に落ちた数学者)』は映画向きのようです。
村上春樹
SF作家じゃない!という声が聞こえてきそうですが、米サイトio9は数年前にも村上春樹をフィリップ・K・ディックの後継者候補に挙げています。
「深い意味を考えさせられる、風変わりな映画を何本も作るのにぴったりなディック風ストーリーテラーを探しているなら、ムラカミ以外にいない。彼の小説の多くに描かれるのは、ミステリアスな事件と幻想的なしかけ、もうひとつの世界のかたちである。」でも日本人からすると、ハリウッド映画になるのは...?
ジェイムズ・ティプトリー・Jr
ジェイムズ・ティプトリー・Jr、本名アリス・シェルドンはCIAに在籍したこともある女性のSF作家。人間性の限界を見つめる作品や、パラノイア的またはディストピア的視点で未来を描いた作品を数多く残しました。女性に対する暴力が病的に広まっていく『The Screwfly Solution(寄生バエの退治法)』は、丁寧に書かれたディック風スリラー。そして『The Girl Who Was Plugged In(接続された少女)』は、自殺願望のある少女が脳を持たない美しい少女の体を遠隔操作してスターに仕立て上げるストーリー。ほかにも映画化が期待できそうな作品がいくつもあります。
チャールズ・ストロス
海外のSFファンはストロスの『Glasshouse(ガラスの温室)』の映画化を何年も待ち望んでいるとか。でも同作以外にもハリウッドの好きそうなアクション・アドベンチャーにピッタリの作品があるそうです。たとえば近年人気の『Laundry Files(ランドリー・ファイル)』シリーズは、ラヴクラフト的未来をテーマにしたスパイ・スリラー(!?)。また、超近未来のサイバー文化と監視社会を描く『Halting State(停止状態)』シリーズもあります。
ニール・スティーヴンスン
『スノウ・クラッシュ』や『ダイヤモンド・エイジ』でサイバーパンクを完全なものにしたスティーヴンスン。最新作の『REAMDE(ソフトウェアに付随するファイル「ReadMe」のもじり)』で、今度は完璧なスリラーを世に出したとも言われています。また、おじのJ・フレデリック・ジョージとの共著『Interface(インターフェース)』も強烈なアクション・アドベンチャー大作になりそうです。
モーリーン・F・マクヒュー
彼女の最新短篇集『After The Apocalypse(世界の終わりのあと)』も暗くねじれた未来の姿をたっぷり見せてくれますが、『China Mountain Zhang(主人公の中国名「張中山」を英語で表したもの)』ほか、映画化できそうな作品はまだまだあります。また代替現実ゲームのパイオニアでもあるマクヒューなら、それをテーマにした映画の原案を作ることもできそうです。
ジョン・ブラナー
ブラナーは近未来ディストピアの巨匠として『Stand on Zanzibar(ザンジバルに立つ)』などの作品で有名になったほか、『衝撃波を乗り切れ』といった後のサイバーパンクにつながる作品でも知られています。海外ファンには彼を「英国のフィリップ・K・ディック」と呼ぶ人もいるほど。実はあまり知られていない作品ほど、よりディック風だったりするそうです。
ウィリアム・ギブスン
映画化候補にたぶん誰もが思い浮かべる作家がギブスン。代表作『ニューロマンサー』はすでに映画監督ヴィンチェンゾ・ナタリ(『キューブ』ほか)による映画化の準備が現在進められています。これがもし成功したら、その後いくつものギブスン作品がスクリーンに登場することになりそうです。イマイチだった映画『JM』(1995年、原作『記憶屋ジョニィ』)を忘れるためにも、それを望んでいる人は多い?
ナンシー・クレス
クレスも近未来にフォーカスし、特定のテクノロジーの変化が私たちの未来にどう影響するかを描いた作品が多い作家の一人。人間を人質に大暴れする人工知能の話から遺伝子差別の話まで、幅広いテーマを扱います。映画の味付けに重要な不気味さや恐怖といった要素もちゃんと備えているので、ハリウッドも安心でしょう。
ジョナサン・レセム
ジョナサン・レセムは自身のキャリアの多くをフィリップ・K・ディックへの賛美とも言うべき作品に費やしてきた作家。短編集『The Wall of the Sky, the Wall of the Eye(空の壁、目の壁)』にあるような初期の作品には特にディックの影響を感じます。しかし『銃、ときどき音楽』のように、素晴らしいハードボイルドアクションに化ける可能性を持つ作品も。
ロバート・シルヴァーバーグ
米国ではシルヴァーバーグの昔の小説が近年まとめて再発行され、徐々に力を失っていくテレパシー能力者を描いた『内死』(1972年)などの作品の魅力が見直されつつあります。シルヴァーバーグもほかの古株のSF作家と同じく多作で、長年に渡り、ひねりの効いた多数の短編を発表してきました。
オクティヴィア・E・バトラー
人間とアウトサイダーであるポスト・ヒューマンまたはトランスヒューマンとの関係を描いたものが多いバトラー作品ですが、なかには近未来のディストピアや大災害後の世界を舞台にした作品も。そして作品に共通する大きなテーマは、不思議な力を持つ人々と、その人々が「普通の人間」に対してどのような責任を果たしていくか。扱う映画クリエイターの解釈によっては、非常にディック的な世界が広がる可能性もあります。(画像:ウェイン・バーロウによる『Wild Seed(野生の種)』表紙絵)。
コリイ・ドクトロウ
貨幣経済がなくなった後の奇妙な世界から近未来「対テロ戦争」のホラーストーリーまでを描くドクトロウ。『Someone Comes to Town, Someone Leaves Town(街に来る者、街を去る者)』は、ディックの『暗闇のスキャナー』を映画化した『スキャナー・ダークリー』のような新しいタイプの映画にできるかもしれません。
あの日本人作家の名前も! 次にハリウッドが映画化を連発しそうなSF作家15人[Kotaku Japan]
Science Fiction Authors Who Could be Hollywood's Next Philip K. Dick [io9]
(トップ画像:ジョン・ブラナー作『テレパシスト』米国版表紙絵)
(さんみやゆうな)