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エキゾチックで抽象的な「イスラム美術」を取り入れたゲームの光と影
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エキゾチックで抽象的な「イスラム美術」を取り入れたゲームの光と影

2014-05-20 01:00
    今回の美術のお時間は、異文化がゲームの世界観に与えるデザイン性についてです。

    【大きな画像や動画はこちら】

    西洋とも東洋ともつかない異国情緒と、優雅で歴史的な重みも感じられるイスラム圏の美術。広がる砂漠と、厳しい戒律の宗教から生まれたこのアートは、テレビゲームのデザインに影響を与えています。

    パっと思いつくのはやはり、『プリンス・オブ・ペルシャ』と『風ノ旅ビト』でしょうかね。どちらも一風変わった味わいを持つゲームです。

    今回は、英Kotakuにて「『イスラム美術』がテレビゲームのデザインにどう影響を与えたか」について書かれたコラムをご紹介したいと思います。

    ゲーム開発者たちのコメントが、現代社会と政治と芸術などの複雑な関係についても言及しており、興味深いものとなっています。




    イスラムのアートというのは、とても厳しい決まり事のなかで作られるのだそうです。あちらの教義によりますと、人間や動物だけでなく木々や植物などの存在は神に対する罪だと考えられているそうで、イスラム圏で伝統的に描かれるアートは、鮮やかな色や形、それに刺激的なパターンなどといった抽象的な表現で、人間の内面を表現しているのだそうです。

    イスラム美術にインスパイアされたパズルゲーム『ミュージック・オブ・ザ・スフィアー』を開発された、クリエイターのハミッシュ・トッドさんいわく...。

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    人や動物を描写できないなんて、大きくて難しい制約に思えますよね。でもそのおかげで、幾何学的で洗練されたものが生み出される文化へと押し上げられたんですよ。


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    ということで生まれたのが、こちらのゲーム『ミュージック・オブ・ザ・スフィア』です。トレイラー動画しか公開されていないようですが、イスラム建築の構造を巧みに取り入れた感じです。



    投石というシンプルな形式ですが、ステージは複雑な構造をしており、建築物の輪郭線に添わせて石を投げ、天使を退治(!?)していくようです。

    どのような順番で、どこに石を投げればクリア出来るのか、脳ミソをフル回転させてジックリ考えないと先に進めなさそうです。「これはイスラム美術そのものにも言えることですよ。よーく考えると、答えが導き出され、驚きの体験となるんです。」とトッドさん。

    イスラムのアートは、あちらの書道やペインティングだけでなく、建造物や陶磁器などで、それが確認できます。下の写真は、イランのシェイク・ロトフォラー・モスク。


    アート デザイン イスラム美術

    独特の美的感覚が良いですねぇ。


    そして、これまた幾何学的なパズルゲームを開発しているという、イラン人ゲーム・デザイナーのマーディ・バーラミさんは、こうおっしゃっています。

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    全てにおいて、幾何学模様とパターンは重要なんです。物質的な形状を描写するよりも、物事の意味や要素を表現しようとしているんです。


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    精神世界的な表現と言えば良いのでしょうかね。トッドさんもバーラミさんも、イスラム美術のエッセンスはゲーム・デザインに大いに影響を与えることが可能である...とおっしゃいます。

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    完成されてから何百年が経った今でも、イスラム美術の抽象的な形状は興味深く、美しいと感じますよね。それに、数学的にも意味深いものですし。


    もしかしたら、私たちも同じようにゲームをデザインできるかもしれませんよね。


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    ということで、こちらがバーラミさんによるパズルゲーム『Engare』のティーザー・トレイラー。トッドさんのゲームより、もっと明らかにイスラム美術しております。



    バーラミさんが高校生の時に、幾何学の授業からインスパイアーされて作られたというこのゲーム。物体の動かし方を見つけ出し、示されたお手本の通りに形を作り上げていくのだそうです。

    説明するのは難しいようですが、イスラム美術の美しい柄を見せるのがゲームの趣旨なのでやってみると簡単なんですって。思いもしなかった形が出来上がり、ちょっとした感動が味わえるのも、イスラム美術とパズルゲームが見事に融合したからこそ、です。

    現在トッドさんも、このバーラミさんの『Engare』開発のお手伝いをしており、おふたりともイスラム美術の素晴らしいパターンをテーマに使ったからこそ、ステージのデザインが上手く行ったと確信しておられます。

    最近、中東のゲーム業界は急成長と遂げており、イランだけでも2012年には95社のスタジオが設立されたのだそうです。とはいえ、中東文化をモチーフにしたゲームというのはそんなに見かけないのですが。

    しかしそれには、イランならではの複雑な事情があるようなんです。

    今の時代、ゲーム作りの間口は広くなっているものの、作品を世に公開するには障害がいくつもあり、商標登録の関係もあり、西洋の有名パブリッシャーたちはイランから追い出されてしまっているのだそうです。

    そして何よりも、やはり政治情勢的に政府の意に反するようなゲームを作れば、自らの命を危険に晒すことになりかねないのです。なので中東のディベロッパーたちは、西洋文化的なデザインを使い、中東文化を暗喩的に表現するしかないのだそうです。

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    自分が受けた影響をブチ壊してしまうなんて、難しくて出来やしません。なのでその他のゲームを真似て作る方が簡単なんです...ゲームでお金を生み出したい場合は特にね。


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    と、トッドさんは現実の苦悩を口にされています。


    アート デザイン イスラム美術

    美しいモスクの内部


    政治が孤立すると言うことは、ディベロッパーたちも自分たちの文化がどれほど素晴らしいのかを、世界に知ってもらう機会を失ってしまうことでもあります。

    というのも、バーラミさんは、1年ほどオランダに留学していた経験があり、改めて自分の国の文化を外から客観的に見ることが出来たとおっしゃいます。

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    留学は、文化的な違いを理解するのにとても役に立ちましたよ。生まれ育った場所にずっと居たのでは、自国の文化とその他の世界との違いに気付くのは難しいことですからね。


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    それに、イラン国外ではイスラム美術から影響を受けたデザインを作ってはいけない、というルールもありませんし。

    西洋文化では、中東の争いばかりをメディアで流すばかりで、あんまりポジティブな魅力を伝える報道がないため、人々はイスラム美術についてほとんど馴染みがない、というのもまた別の問題だったりします。これにはバーラミさんも、かなり頭の痛いところだそうで...。

    反対に、西洋文化のゲームでもたとえば『リトルビッグプラネット』で、歌の中にコーランについての歌詞があったため、それを取り除く時間が必要となり、発売が遅れてしまったという事例が2008年にありました。

    2012年にも『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア2』で、風呂場の壁にムハンマドの予言がペイントされていた部分を取り下げるようなこともありました。

    またイスラム圏の外でも2007年に、イギリスの教会がソニーに対して訴訟を起こしています。それは『RESISTANCE〜人類没落の日〜』の作中、マンチェスター大聖堂にソックリな建物の中で銃撃戦が行われるというシーンが在ったためなのだそうです。その画像が下のものになります。


    アート デザイン イスラム美術

    マンチェスター大聖堂...らしき場所


    「宗教」が絡むと非常に繊細な問題となってしまうので、これらの様に一つ一つは小さく、すでに解決済みの問題だとしても、人々の印象として中東であれば何でもかんでも問題がありそうに思えてしまうのです。

    大々的にリリースしているわけではない『ミュージック・オブ・ザ・スフィアー』ですら、Steamのページは9.11アメリカ同時多発テロ事件に関連した悪意のあるコメントが書き込まれてしまったほどです。

    バーラミさんもトッドさんも、西洋のディベロッパーたちにはそういったネガティブな印象から他所の国のイメージを決めつけないで欲しいと願って止みません。そして他国文化への充分な気遣いと尊敬があれば、そういったことは起こらないのではないか、と考えています。

    トッドさんは全くもって信心深いイスラム教徒ではありません。ですが彼が持つイスラム美術への想いは、尊敬と情熱に満ち溢れているとおっしゃいます。もしもゲーム内で他国の文化を表現する時には、責任をもって敬意を表するよう、気を付けているそうです。

    と、これらはゲーム業界での話でしたが、ではもしもそれが、美術や建築業界の話だったとしたら? おそらく上記のような問題が起こった時には、もっと物事が深刻化するかもしれません。ゲームより俄然、影響力があるかもしれないからです。

    イスラム美術は人々の深い所に影響し、高い次元で考えさせる様式のものではりますが、それをテレビゲームに応用した時に、どのように人々の心に影響を与えるか? というのが、ずっと皆が持つ課題だとトッドさんはおっしゃいます。そんなことが出来るゲームは、ほんの一握りだとも。

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    新しいアートの形式を生み出すのは、すごく大変なことなのです。深い部分で人々に深い影響を与えられるのは、非常に難しいことなんです。


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    それこそがイスラム美術の真髄なのですが、なかなかテレビゲームで表現するのは簡単ではなさそうですね。

    『プリンス・オブ・ペルシャ』は、イスラム美術のテイストが見られる、数少ないビッグ・タイトルなのですが、ゲームの内容はアクションがメインなので、イスラム美術的なものはただの舞台として描かれているだけ、真髄の部分には全然触れてもいないのが少々ザンネンなところでしょうか? 


    アート デザイン イスラム美術

    壁や床などの背景では、凝ったアートが観られますが...。


    一方、『風ノ旅ビト』では登場人物の着ているコスチューム・デザインが、ムスリムのヒジャブを思わせますし、出てくる建造物も、寺院やモスクにインスパイアーされているのが伝わって来ます。

    そのほか、抽象的な模様なども見受けられるだけでなく、死生観や死後の世界を考えさせるきっかけにもなり得ます。


    アート デザイン イスラム美術 風ノ旅ビト

    悠久の砂漠が浪漫あふれる『風ノ旅ビト』


    何世紀にも渡り、受け継がれてきたイスラム美術の真髄ですが、たとえば『風ノ旅ビト』のように巧く取り入れれば、メタファーとしてゲーム・デザインに活用できるのです。

    バーラミさんの目指すところは、実はすごくシンプルです。

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    ただ興味深いものを作りたい。願わくば、他のゲームが違う国の文化や科学、芸術から影響を与えられて作られたらステキですよね。


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    そうですね、きっと本当は難しいことではないのでしょうけれども...哀しいかな色々なものが複雑に絡み合って、それを難しくさせているのではないか? と感じます。

    コタクジャパン読者の皆さんは、どうお思いになりましたでしょうか? 


    Flickr:American_Rugbier
    Flickr:DavidStanleyTravel
    How Islamic Art Can Influence Game Design[Kotaku]

    岡本玄介

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    RSSブログ情報:http://www.kotaku.jp/2014/05/how-islamic-art-can-influence-game-design.html
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