1970年に公開された映画『ワーテルロー』は、イタリアとソ連の合作で、「ワーテルローの戦い」を描いた、豪華キャスト、信じられない数のエキストラを使った作品。しかし、映画史に残るほど労力を注いで製作した作品にも関わらず、この映画の存在はほとんど忘れ去られてしまっているようです。
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そこで今回は米Kotakuのルーク・プランケット記者が語る、『ワーテルロー』というスケールのドデカい戦争映画の魅力をお届けします。
『ワーテルロー』は単なる数ある戦争映画の中の1本と思われがちですが、舞台裏を知ると、戦闘シーンのスケールのデカさに圧倒され、「映画」以上のものがあると感じます。
ストーリーはワーテルローの戦いだけでなく、ナポレオンの百日天下をベースにしています。上映時間は2時間程度(ソ連のオリジナル全長版は240分)ですが、その中にダンスや会話、多くの戦闘シーンが盛り込まれています。
ほぼ全てのシーンが、現実とは思えない贅沢さ。巨大な城に数百人(時には千人、一万人と言われている)のエキストラ、馬鹿げた数の人工照明、マイケル・ベイ監督も真っ青の爆発数です。当然、ここまでやれば制作費だって信じられない額になります。
全て本物の兵隊
今の時代で『ワーテルロー』に匹敵する作品を作ろうとしたら、製作費は法外な額になるでしょう。しかし、1960年代であっても、伝統的な映画の作り方をしようとしたのであれば不可能な話だったのです。当然、スタジオとしてもそんな人数やエフェクトや道具を揃えるのは無理な話でした。そこで、プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスは、昔ながらの方法を取らないことで映画化を実現させようとしたのです。
まず、彼は冷戦の最中にも関わらずソ連に足を運びました。少し長くなりますが、ラウレンティスがどれくらい大それたことをしたのか? というのを理解してもらうために、冷戦を軽くおさらいします。
第二次世界大戦後に、アメリカを盟主とする資本主義・自由主義陣営(カナダ、イギリス、フランス、イタリア、日本、イタリア、オーストラリア等)とソビエト連邦を盟主とする共産主義・社会主義陣営(ドイツ、中国、イラク等)との世界を二分した対立構造が冷戦です。1945年に始まり、1989年までの44年間続き、その間、アメリカ側(西ヨーロッパに資本主義陣営が多かったため西側と呼ばれる)とソビエト側(同様の理由で東側と呼ばれる)それぞれの軍事や外交、経済を始め、文化やスポーツ、航空技術や宇宙開発といったものにまで多大なる影響がありました。そして、この2つの陣営間のやりとりは制限されており、経済的にも人的にも情報の交流も少なかったのです。
『ワーテルロー』が公開されたのは1970年。製作時期は1960年代後半。当時は、冷戦も緊張緩和され始めていましたが、それでも少し前まではお互いを「仮想敵国」と想定し、戦争に場合の勝利のために、勢力拡大に努め、軍備拡張にも精を出していたのです。そして、共に核兵器を開発し、宇宙開発で競い合っていました。
そんな冷戦という世界中が緊迫いている状況で、西側のプロダクションでイギリス人とアメリカ人の俳優を起用する『ワーテルロー』を作ろうと、イタリア人のラウレンティスは東側のソ連へ行き、ソ連のセルゲーイ・フョードロヴィチ・ボンダルチューク監督に交渉したのです。そして、見事、ボンダルチュークを監督に迎えることとなり、『ワーテルロー』をソビエト連邦で撮影するだけでなく、ロシア人とロシアの備品や設備を低価格で使用させてもらうことに成功したのでした。
この命知らずな行動があったからこそ、赤軍は騎兵軍や訓練されたエンジニアを含む、1万5000人の兵士をエキストラとして起用することが可能になったのです。
こんなにも多くの人を思い通りすることで、ボンダルチューク監督は「セット」を神々しく見せています。撮影はウージュホロドというウクライナの街近くの農場で行われ、ベルギーで実際に行われたように見せるため、エンジニアが5マイル程の道を作り、数千本の木を植え、農家のレプリカを戦場の真ん中に建設し、ブルドーザーで丘をふたつ削ったのです。
それだけでなく、ボンダルチューク監督は実際の軍を使って戦わせました。前述の通り、1万5000人のソビエト連邦の兵隊(「戦場」の横に設置されたテントで寝泊まりしていた)がエキストラとして起用され、ナポレオンの兵士同様に数ヶ月間の訓練も受けています。また、このうちの2000人は、撮影されながらマスケット銃を装弾し撃つという強化特訓が課せられました。それだけでなく、この訓練の間に、ナポレオンのようなヒゲを伸ばすようにと命じられたのです。
ここまでも、『ワーテルロー』のバトルシーンがどれくらいの労力をかけて撮影されたものだということが理解してもらえたのではないでしょうか? では、本作の中でも特に素晴らしい戦闘シーケンスを2つご紹介します。
『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』でロヒアリムの戦いに鳥肌が立った人は、動画の2分あたりからのイギリス軍の戦いをスローで見ることをお勧めします。なお、ピーター・ジャクソン監督は『ワーテルロー』の大ファンです。
次にフランス軍の戦いです。
数千人という兵士、至る所で起こる爆発や煙、落馬 (約50人もの訓練されたサーカスライダーが落馬用に雇用されている)、バグパイプ...それらが1つの画面に映し出されています。
この大規模な戦闘シーケンスは、ヘリコプターに乗せられたものや、本作のために特別に作られたレールに乗せられたものといった、5台のカメラを使って同時に撮影されています。そして、それらのカメラには事前に特別訓練を受けた兵士たちによる、実際にマスケットに装弾し撃つ様子も収められているのです。
これが今の時代の映画だったら、当然のように全てをVFXで表現するでしょう。しかし、最も近いのではないかと考えられるジャクソンの『王の帰還』でさえ、『ワーテルロー』の転倒する馬や転げ落ちる兵士といったリアルさには及ばないのです。
『ワーテルロー』ほどの映画は、今後も生まれることはないと考えられます。それは、エキストラや丘を切り崩したといった途方もないダイナミックさだけでなく、予算面においても言えることです。
本作は1970年当時の価格で大凡350万ドル(日本のWikipediaには$250万ドルと記載)と言われており、映画史の中で最も高額な製作費とされています。しかし、これがソ連で撮影されていなければ、軽く2倍から3倍の金額になっており、「映画にそんな金額かかるなんて聞いたことない」と言いたくなるくらいの額になっています。
今、この記事を読んで『ワーテルロー』に強い興味を抱いた人は多いかと思います。当然、訳者もその一人。改めてじっくり鑑賞しなくてはと感じましたが、ここで米Kotakuのルーク・プランケット記者はこんなコメントもしています。
「『ワーテルロー』は最も優れた映画という訳ではありません。人々がこの映画の存在を記憶から消し去ってしまっていたのも、それが原因でしょう。」
ダビングの悪さ、そしてバトルとナポレオンの登場のシーン以外は退屈と感じる人が多いようです。しかし、これほどリアルで壮大で豪華なバトルを描いた作品は、この映画をおいて他に無いのは間違いありません。
[via Kotaku]
ワーテルローの戦い[Wikipedia]
ワーテルロー (映画)[Wikipedia]
(中川真知子)
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