実在の人物をモデルにした映画や伝記映画を見ると、その人物をわかりやすく理解できますが、多くの作品には「映画というエンターテインメントの形にするため」の事実とは異なるアレンジが加えられています。
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しかも、時には大きく変更されることも......。
そこで今回はLooperがピックアップした、事実とは大幅に異なる内容の実在の人物を描いた映画を見ていきましょう。以下、ネタバレがあるのでご注意ください。
■『アマデウス』(1984年)
19世紀間近、努力を積み重ねて宮廷音楽家の地位を手に入れたアントニオ・サリエリは、天真爛漫で音楽の才能に恵まれたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトに深い嫉妬心を抱き、絶望。そして、真綿で首を絞めるようにジワジワとモーツァルトを追い詰め、ついには命を奪ってしまいます。
このストーリーは、長くささやかれてきた「才能をうらやんだサリエリがモーツァルトを毒殺した」といううわさがもとになっていますが、歴史家たちはそれを否定しています。
2人がライバル関係にあったことは事実のようですが、関係は良好で、ともに仕事をしたこともあったのです。事実、2015年11月にはチェコのプラハでモーツァルトとサリエリの共作曲が発見されています。
■『ビューティフル・マインド』(2001年)
劇中、天才数学者のジョン・ナッシュは大学院の頃から統合失調症の幻覚に悩んでいたとされていますが、実際に幻覚を見るようになったのは数年後。
映画のビジュアルをより効果的にするためにアレンジされたのです。
■『英国王のスピーチ』(2010年)
吃音に悩むジョージ6世が、国民に向けるスピーチのために言語療法士を雇い訓練する姿が感動的に描かれた本作は、史実の出来事を数年間にまとめて描かれており、よりドラマティックさを演出するためにジョージ6世の周囲の人物をより敵対的に設定しています。
また、言語療法士を雇ってプロの助けを借りたのは事実ですが、それは第二次世界大戦中ではなく、その10年以上前だったそうです。
■『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)
Facebookの創設者マーク・ザッカーバーグをモデルにした作品。マークがFacebookを作るまで、そして創設者を巡る裁判の様子が描かれています。
本作の誇張された部分はザッカーバーグ本人いわく、彼が劇中で着用している衣装以外全てとのこと(実際にウィンクルボス兄弟には訴訟されていますが......)
■『ブレイブハート』(1995年)
スコットランド独立のために立ち上がったウィリアム・ウォレスの生涯を描いた作品。
作中、ウィリアムはフランス王女イザベラと恋愛関係にあり、ウォレスが処刑された時には妊娠していたとありますが、実際のイザベラのこの時の年齢は9歳で、まだフランスに滞在していました。2人に面識はなかったとされています。
■『アンタッチャブル』(1987年)
禁酒法時代のシカゴを舞台とした、ギャングのボスのアル・カポネとアメリカ財務省捜査官の戦いを描いた大ヒット作。
ショーン・コネリーが演じる老警察官のジム・マローンは実在する人物ではありません。この役はFBI捜査官のマーティ・ラハートという人物をもとに作られたキャラクターであり、ネスとは同年代だったのです。
■『ドアーズ』(1991年)
1971年に27歳でこの世を去った、アメリカのロックバンド「ドアーズ」のボーカル、ジム・モリソンの半生をつづった作品。
作中、モリソンはドラッグとアルコールに溺れた人物のように描かれていますが、バンド仲間の証言によるとこれは事実とは異なるそうです。
■『ザ・ハリケーン』(1999年)
殺人罪で逮捕され、約20年間投獄されていた黒人ボクサーのルービン・"ハリケーン"・カーター。
しかし、この背後には人種への偏見を持つ警察官の差し金が......。数年後、カーターの自叙伝が出版され、感銘を受けた人たちがカーターを救うべく立ち上がります。
弁護士の並々ならぬ努力の結果、自由を手にしたカーターですが、映画では3人のカナダ人が大活躍したように描かれています。この3人はもともと9人いたのを集約させて作られた設定です。
■『パッチ・アダムス』(1998年)
常にジョークを連発し、人を和ませることで患者の心と体を癒やす実在の精神科医パッチ・アダムスの若き日を描いた作品。
パッチ・アダムス先生本人は本作の内容を気に入りませんでした。本作はアダムス氏が力を入れているチャリティーなどに関してはほとんど触れておらず、単なるふざけた医者と誤解されるように描かれているのが理由とのことです。
■『ポカホンタス』(1995年)
インディアンの娘ポカホンタスがイギリスから来たジョン・スミスとひかれあい、最後は彼の命を救うという実話をもとにした作品と言われていますが、歴史的に見ると、ジョン・スミスがアメリカに上陸した時、ポカホンタスは若干10歳。
女性は心の成長が早く、初恋の経験も低年齢とは言われているので、年上の男性に淡い恋心を抱く程度はあるかもしれませんが、2人が恋愛関係にあったと考えるのは無理があると考えられています。
■『マリー・アントワネット』(2006年)
母マリア・テレジアの命令により、フランス王室に嫁ぐことになったマリー・アントワネットですが、伴侶となったルイ16世との間になかなか子どもを授かりません。そして、不妊症と陰口を叩かれたマリーは散財に走り、ある男性と恋に落ち――。
マリー・アントワネットという実在の人物をもとにした、壮大なフィクションと考えていい作品ですが、ポイントはそこではありません。
ルイ16世との間に夫婦生活がなかったとありますが、彼が包茎だったというのは有名な話です。
■『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)
アメリカのコンプトンで生まれた世界で最も危険なヒップホップグループ「N.W.A. 」の結成から成功、挫折と名誉への代償、そして偏見や裏切り、権力との戦いといったものを描いた大ヒット作。
本作はイージー・イーにスポットが当てられた内容のため、ドクター・ドレーの暴力にまみれた生活が表立って描かれていません。
彼は関わった多くの女性に激しい暴行を加えていたことで知られ、中でも1991年にN.W.Aに否定的なコメントをした女性ジャーナリストのデニース・ディー・バーンズを暴行したのは有名です。
ドクター・ドレーを語る上でこういった暴力行為は避けて通ることはできないにも関わらず、映画の中では語られませんでした。
■『アレキサンダー』(2004年)
24歳という若さでエジプトの王となったアレキサンダー大王の生涯を描いた作品。
オリバー・ストーン監督はアレキサンダー大王の生涯を1本の映画にまとめようとしたため、複数の出来事や人物を組み合わせてしまい、事実とは異なる内容となっています。
事実検証系が好きな方は「事実に忠実とは言えないかもしれない実話ベースの映画」も併せてどうぞ。
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(中川真知子)
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