今年は4年に1度のオリンピック・イヤー。夏のロンドンオリンピックは大いに盛り上がりました。皆さんご承知の通り、東京都は2020年開催のオリンピックの開催地に立候補し、現在招致運動を展開中です。2013年9月に開催地が決定されるということですから、招致合戦も残すところ1年を切りました。

 さて、このオリンピックにもタバコ問題がからんでいることを皆さんはご存じでしょうか?

 IOC(国際オリンピック委員会)は、1988年以降、オリンピックでの禁煙方針を採択し、会場の禁煙化とともにタバコ産業のスポンサーシップを拒否してきました。そして、2010年7月に、WHO(世界保健機構)とIOCは健康的なライフスタイルとタバコのないオリンピックを目指す合意文書にも調印しています。

 その内容は、オリンピックはスポーツの祭典であるから、健康的な環境の下で実施されなければならない。そのためには心臓病、ガン、糖尿病などの生活習慣病のリスクを減らすべきであり、「タバコフリー・オリンピック」を目指そうということです。したがって、オリンピック開催都市はスモークフリーの環境を整備しなければならないのです。

 実際、バルセロナ、アトランタ、シドニー、アテネ、北京、ロンドンという歴代開催都市には、すべて罰則付きの受動喫煙防止法または条例が整備されています。2016年に開催するリオデジャネイロも同様です。世界一のタバコ生産量と喫煙率を誇る(?)あの中国ですら、北京オリンピック開催のために、北京市に受動喫煙防止条例を制定したのは記憶に新しいところです。

 WHOは、タバコフリー・オリンピックの実現のために、中国政府並びに北京市組織委員会に対して全面的な支援を展開し、その結果、北京市禁煙条例が制定されたのです。

 さらに、2020年の開催に向けて東京とともに立候補招致運動を展開しているライバル都市のイスタンブール、マドリッドにも、受動喫煙防止法が制定されています。つまり、今や世界中のどの国も、どの大都市もWHOのタバコ規制枠組条約に則り、タバコ対策を進め受動喫煙防止の法的措置を実行しているといっても過言ではないのです。オリンピック開催都市の決定権をもつIOC委員会の委員の出身国の内、83%の国々に受動喫煙防止法または条例が存在しています。日本は、ロシアや北朝鮮、アフリカ諸国と並んでタバコ規制の後進国であり少数派なのです。

 こうした国際状況を踏まえると、受動喫煙防条例が整備されていないことが、東京にオリンピックを招致する運動の中で弱点になってしまうのではないかと、私は危惧しています。

 もちろん、受動喫煙防止条例が東京オリンピックを招致の絶対条件だとまで言うつもりはありません。しかし、IOCとWHOが協定を結び「タバコフリー・オリンピック」を目指している以上、受動喫煙防止条例の制定は必要条件なのです。

 いうまでもなくオリンピックはスポーツの祭典であり、世界の人々に勇気と感動を与えてくれる国際的な一大イベントです。その開催は世界の平和と繁栄に繋がっていきます。東京オリンピックが開催できれば、日本の青少年にも大きな夢と希望を与えてくれることは間違いありませんし、東京のみならず日本の経済社会の発展に大きく寄与するでしょう。その実現を図るには厳しい招致合戦を勝ち抜かなければなりませんし、そのために必要な万全の準備を怠ってはなりません。

 東京が2020年のオリンピック開催を勝ち取るためには、WHOやIOCが求めている国際基準の受動喫煙防止条例を制定しなければなりません。そして、その実現は東京オリンピック招致にとどまらず、東京都民、オリンピック選手や関係者、国内外からの観戦客など全ての人々に健康をもたらし、東京という国際都市の生活環境の向上に繋がっていくのです。

 東京都は、是非とも来年9月の開催地決定の前に、受動喫煙防止条例の制定を宣言し、2020年までに条例制定を実現しなければなりません。私はその先頭に立つ覚悟です。東京オリンピック招致のためにも、東京都民の健康のためにも、今こそ勇気ある決断が求められています。