行動を起こす源──。それが原動力。

世間からは「なんで?」と思われることでも、本人に聞くときちんと理由がある。そんな個人の「原動力」に迫ります。

「いまでこそ言いたいことを言えるけど、小さいころは本当にシャイで、どっちかっていうとモブキャラみたいだった(笑)」

──モブキャラって(笑)。

「幼稚園のときはインターナショナルスクールに入って、『自分らしくありなさい』『個性を大切にしなさい』っていう教育を受けてた。でも、公立の小学校に入ったら、とたんに規則に縛られるようになって、カルチャーショックを受けちゃったんだよね。いじめられたりもしたなあ。女の子って順番にいじめていくじゃん?」

──あー、わかるわあ。

「言いたいこと言えないからあれが二周くるパターン(笑)。本当に学校行きたくなかった。でも負けたくないって思って行ってたけどね。小学校時代は暗黒期(笑)」

──口にはしないけど、胸に秘めてた思いはあったんだね。そこからどうやって変わっていったの?

「小3のときに家のテレビにMTVチャンネルがついたの。それから洋楽に興味を持って。ちょうど私が10歳のころに、クリスティーナ・アギレラが『Stripped』っていうアルバムを出したのね。『強くあれ』っていうメッセージの曲で、衣装も露出してセクシーなんだけど別に媚びてるわけじゃなくて、自分のために脱いでて、『あ、そういうのアリなんだ!』って思った」

──小学生にとっては新しい発見だよね。

「あと、小3くらいのときに変な人からいたずらされたことがあって」

──え、どういうこと?

「エレベーターに乗ってたら、30代くらいの男性がひとり乗ってきたの。でも悪い人って思わなかったから、普通に開けてあげたのね。そしたら『スカートのなか見せて』って言われて。よく聞こえなかったから『え?』って聞き返したらいきなりチューされた」

──うわぁ、怖い! 最低だねその人。

「結局犯人は捕まらなかったんだけど。そのときに"女として見られる"ってこういうことなんだなって」

──自分の「性」を意識するようになったんだ。

「そう。やっぱりそういう事件があってから、まわりの人には『スボン履きなさい』とか言われた。みんなは親切心で言ってくれてたけどね。でも、アギレラとか見てて、自分の格好のせいじゃないって思った。痴漢とかレイプも『そんな格好してるからされるんだ』なんて言う人がいるけど、絶対にそうじゃない。そこでフェミニズムっていうものに気づいたんだ」

「それで、いじめられてたり、阻害されたり、女の子であるがゆえに悩んでいる子を、私が洋楽に励まされたように私も励ませたらいいな、と思って音楽の道を目指しはじめたの。それからはオーディション受けたりしてた。本格的に曲作りを始めたのは高校生からだね」

──自分で曲を作れるのって強みだね。A.Y.Aちゃんの曲にはやっぱりフェミニズムの要素が含まれてるの?

「そうだね。メロディのなかに言葉をはめるっていうのは難しいから、言いたいことを全部詰めこめるわけじゃないけど」

──そういうフェミニズムの姿勢を出そうってなったときに、事務所とかレーベルからは何も言われない?

「いまのレーベルからは何も言われない。でも、メジャーなレーベルでそういうテーマを打ち出したいってなっても上の人はぽかーん、みたいなことあるよ。昔、高校生のころ、メジャーレーベルの新人開発部にいたことがあって。ひとりの担当者が何組かのアーティストをみるって感じだったのね」

──うん。

「で、その担当者は私ともうひとり同じ歳の男の子をみてくれてたんだけど、私には『高校卒業したらあなたに何が残ると思う? 若いうちに何かしなきゃ』って感じで見た目のことばっかり言ってきたんだけど、もうひとりの男の子には『いまは高校生だから25歳くらいの深みが増してきたころにデビューしたほうがいいと思う』とか言ってて。男の子には質を求めるのに、私には若さだけなんだ...って、もうミソジニーだよね」

──男女で求めるものがそんなに露骨に違うんだ。

「そうなの。でも、若いうちになんて言うけど、気にするのは売り出すほうで聴く人は歳なんて気にしなくない? むしろ女性は、若いうちは女性差別に気づかなくても、社会人になって就職、出産とか経験してから、初めて世間の不平等に気づくと思うんだよね。産休とれないとか」

──社会に出て、初めて世のなかの制度がわかりはじめるよね。

「大人になって大事なことや不平等に気づいて、やっと声をあげようとしている。でも、そんな女性のための歌がいま日本にはないよね。海外だったらフェミニストアイコンのアーティストがいっぱいいるでしょ? ビヨンセとかマドンナとか。そういう人が日本にいるとは思わない。言いづらいっていうのもあると思うけど。フェミニズム意識を持っている人があんまりいないんじゃないかなって思うんだよね。私は戦うアーティストでいたい」

──たしかに、海外には全面的に自分の思想を押し出すアーティストがたくさんいるよね。

「フェミニズムって掘り下げていくと、女性・男性だけじゃなくて、社会のシステムとかヒューマニズムにまで言及することだからね。だから結局、社会学とかヒューマニズムに関心や知識がないと、フェミニズムを意識することってないんだよね。でも、そういう知識のない人にこそ必要なことだと思う」

──A.Y.Aちゃんは普段からそういうことを考えてる?

「うん、考えてる。いま海外を中心にフェミニズムって巻き起こってるけど、思い返せば小さいころからつねに母がそういうことを教えてくれてたんだよね。母は普通の専業主婦なんだけど、思想はフェミニズム。幼稚園をインターナショナルスクールにしたのは、母が好きなバンド『THE POLICE』の歌詞がわかればいいな、と思って入れたんだって(笑)」

──いまはアーティスト活動やってるの?

「やってるやってる。いまはインディーズのレーベルにいて、今年はミックステープとコラボ曲を2作出そうかなって思ってる」

──そういうコラボするときって、自分から発案するの?

「アーティスト同士で『やろうよ!』って流れになるときもあるし、レーベルの人から話がくるときもあるし、アーティストからオファーがくることもある。私はけっこう仲良くなった人とコラボするんだけど、アーティストってシャイな人多いから打ち解けるまでに時間がかかって実現するのは半年後ってことも全然ある(笑)」

──シャイな人多いんだ。意外。

「コミュニケーションが苦手だから音楽で表現する、って感じの人が多いからね」

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撮影・取材・文/グリッティ編集部

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