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#1 「古希は70歳! 古希は70歳!」



「リンゴ送る」

母親からのメールは極めて短い文章だった。

「リンゴ届いた。ありがとう」

数日後に送った自分からのメールも同じように短くしておいた。
もうすぐ古希を迎える彼女の作法に倣って。

ちなみに、LINEをおぼえられない母親のおかげで、ぼくはいまだにキャリアメールを契約し続けている。
ここさえなんとかできれば格安スマホに替えることもできるんだけど、「フリーメイソンアドレスはすべて迷惑なんとかに移動されちゃう。お願いだからいままでどおりにしておくれよ。変わらないという価値に気づいてくれよ。アンコール・ワットだってすげーだろ」とメソメソ泣かれてしまってはしょうがない。
何度言ってもフリーメールという単語がおぼえられないのもまた年のせいだろう。

「日本語教えて」

リンゴからの日本語。
韻の踏み方はなかなかなものだが、意味が分からない。

「mixiの日記をレベルアップしたい」

……まだmixiやってたんだ。

10年以上前、母親にパソコンをプレゼントした。
そして、mixiに招待すると瞬く間にハマり、生活の一部としてぼく以上に楽しんでいた。

まだ、mixi……やってたんだ……。
ちょっと感慨深いものを感じながら、返事をする。

「じゃあ書きかけのものでもいいから送ってよ。それを添削しながら教えるのがいいと思う」

「やだ。恥ずかしい」

「えー。……そしたらいままでの日記をこっちでピックアップして添削するとか」

「それもやだ。プライドが許さない」

「……。どんな形式がお望みなの?」

「授業みたいにして」

「メールで?」

「うん」

正直死ぬほどめんどくさかったけど、引き受けることにした。
きっと……さみしいんだと思う。
どんな理由であれ、息子からの定期的な連絡が欲しかったんだと思う。

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良くない例:丘の上の黄色の扉の装飾が美しい

→「の」がたくさん出てきて読みづらい。言い換えましょう

良い例:丘の上にある黄色い扉には豪華な装飾が施されている

→補足すると、長い文章は「、」や「。」で分割するのも1つの手です
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こんな感じの例題を毎日1つずつ出して解説していった。極めて真面目に。
(↑長い文章を分割した例)

「アンタ、まだミニオンゴッド打ってんの?」

「それ、いま関係ないだろ。あと、黄色い生物混ざっちゃってるから」

2週間ほど経ち、そろそろ教える内容に困りだした頃、母親のmixiに日記がアップされた。

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「ファイさんと家庭菜園」

数ヶ月前に来日した宇宙人、ファイさんと電話でお話ししたよ!

ファイさんは、「もうすぐ大きな災害が起こる。未然に防ぐよう行動しているが、上手くいくかわからない。なにより活動資金が足りないのだ」とおっしゃっています。

正義の宇宙人ファイさんが困っているのは非常に心苦しい。

私にはお金がありません。
しかし、土地があります。

なので、災害が発生しても困らないように畑を耕すことに。
いざというときにはファイさんや周りの方にもお配りするつもり。

いつでもレタスを育てられる水耕栽培にも挑戦します!

待っててね、ファイさん!! チュ!

(注:文章の一部を改変しています)
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