YNA#31 「気づかないまま進むもの、それは病とスピードラーニング」


熱中症になった。

医者に行ったわけじゃないけど、それしか考えられないからぼくの中ではそういうことになっている。

2週間前のこと。
友だちとキャンプへ行こうと土曜の仕事終わりに準備してさ、群馬だか長野だかの山に着いたのが朝の3時くらい。
携帯の電波がまったく入らないキャンプ場だったからリアルなところはわからないけど天気予報によると最低気温15℃。
めちゃくちゃ寒かった。完全に冬。

15℃になるよーってのはグループLINEで共有してあったから、みんなそれなりの装備をしていたんだけど、多少ナメていたのは否めないよね。言っても夏だし、と。

ぼくは、フリースにゴアテックス(風)のシャカシャカ持って行って、それでも「冷えるわしばれるわー」ってジャスミンティーをウォッカで割ったものをずっと飲んでた。
正直ダウン持ってくるべきだった。あと毛布。

なにより悲惨だったのがアゴ。その名のとおりシャクレててポケーっとしたぼくの10コ下のヤツなんだけど、なにを考えてんのか半袖短パンで来てたんだよね。
で、「さみーさみー帰りてー」って震えてんの。
おまえ、そのアゴに脳みそ詰まってねーのか、と。なんのためのアゴなんだ、と。叩き割ってもアゴミソ出てこねーのかよ、だせえな、と。

そして、ぼくはこういうときけっこう多めに荷物用意する性格で。
きっとそんなやつもいるだろうと余分に持ってたノースフェイスのシャカシャカを渡してさ、「これあげるよ。もう10年近く使ってるからお下がり」って。

ちょっといい話でしょ。
でも、アゴの「さみーさみー」は一向に止まることがなかった。「足元の方から冷えるんだよう」とのことだった。

だからさ、日が出てきたら穿き替えようと思ってた短パン渡して、「2重にしたら少しは暖かくなるんじゃね?」って。
まあ、なるわけねーけど。膝から下、バリバリ肌出てんだから。

そんな極寒の時間を過ごしてようやく日の出。
するとさ、やっぱ太陽って偉大なんよね。徐々に暖かくなってくるんだよ。
各々日なたに椅子移動してさ、梨とかブドウ食いながら「いやー、太陽サイコーだねえ」なんつって。

でもこれが良くなかった。
一時の心地よさを優先するあまり、夏の日差しを甘くみていた。

それから何時間経ったのかよくわからないけど、いつのまにか寝てたっぽい。いや、いま思うと気絶してた。

友だちに起こされて、「もう帰るよ」と言われたのがおそらく昼の11時くらい。
ふらふらと車までついていって、座った瞬間また気絶した。
荷物の片付けはみんなが全部やってくれたらしい。

ぼくは東京までの3時間くらいまったく起きることができなかった。
なーんかおっかしいなぁ……とは思ってたけど、まさか熱中症だとは気づかなかった。
だって夜あんな寒かったし、汗もぜんぜんかかなかったから。
昼近くなってもそんな暑いわけじゃなく、Tシャツの上からシャカシャカ着てたもんな。もしかしたらぼくの体温調節がおかしくなってたのかもわかんないけど。

で、東京着いてみんなで銭湯に行ったのよ。
そこにサウナがあったから4セットでしっかり整えて、「はー、気持ち良すぎでしょ」なんて気軽に言ってたけど、これ熱中症の処置としては最悪だったかもしれない。とにかく冷やさなきゃならないらしいから。
でも、このときもまだ気づいてなかったんだよ。

そのあとみんなで和食を食べてたら、ロングが「俺、熱中症だったかもしんねえ」って告白してきた。ロングってのは長髪だから単純にそう付けた仮名ね。ちなみに、いつもどっかしら怪我してる。そういう星の下に生まれてる。

彼がどんな感じで午前中過ごしてたかはよく覚えてないけど、それでようやく自覚した。
「あーーーー、自分もそうだったのかも」。
こんな頭痛するほど酒飲んではいないし、あの気絶も考えてみりゃありえない。

なるほどねーなんて言いながらウニ食った。ファミレスだけどけっこう美味かった。

食べ終わって、車出してくれたヤツがみんなを送り届けてくれた。
自宅に着いて判明したのが――ぼくがほぼすべての荷物をキャンプ場に忘れている事実。


リュック丸ごと置いてきた。
ポケットの中の物と椅子以外、全滅。