ニコプロで世羅りさプロデュース興行第4弾『ラストデスマッチ』(2017年11月14日、後楽園ホール)を放送したところ、かなり評判が良かった。
蛍光灯や画鋲を使った女子プロレスラーのデスマッチという、賛否わかれる内容なのは放送する前から分かっていたにも関わらず、タイムシフト予約の数も、当日の視聴数や書き込まれたコメントの数も悪くなかった。
そして詳細については割愛するが、スタジオトーク部分で世羅りさがなかなかの衝撃発言をしていたにも関わらず、番組ラストでおこなった満足度アンケートでは「とても良かった」が100%だった。これはもう世羅がこれまで何度も「やりたい」と言い続けてきたデスマッチに対し、どれだけ本気で、覚悟を決めて挑んだことなのかを身体を張って証明した結果だろう。
タイムシフトが12月11日(月)まで視聴できるので、ぜひ見ていただきたい。しかも中継後のスタジオトーク部分もご覧いただければ、世羅のデスマッチに対する想いが分かっていただけるはずだ。
確かに引きカメの映像でも、思わず目をそむけたくなるようなシーンもあった。だが、それよりもやりたかったデスマッチを限界までやり抜く世羅の姿は、プロレスラーとして輝いていた。もちろん世羅が輝くのはデスマッチだけじゃない。いまやアイスリボンのシングルとタッグの二冠王者だ。
いまのアイスリボンは所属選手もかなり増えたが、道場マッチをベースにしてビッグマッチや地方大会も定期的に開催。新人も着実に育て、充実していることがよく分かる。しかも最近では例えピンチに陥ったとしても、それを乗り切るだけの力があることも証明された。
藤本つかさの抜群のリーダーシップのもと、皆が一丸となって「プロレスでハッピー、アイスリボン」を作り上げよう・大きくしていこうとしている。だが、プロレスというのは不思議なもので、全員が同じ方向を向いているよりも、異端児が出て来て波風を立てたほうが面白くなるのだ。
世羅が最初に「デスマッチをやりたい」と発言した際、ものすごい反対にあった。「プロレスでハッピー」を掲げるアイスリボンだけに拒否反応が出て当然だ。それだけに世羅は退団することも考えたというが、プロデュース興行第1弾での“人毛デスマッチ”が終わった際、「私は退団なんかしません! アイスリボンでやっていくと決めています。一生アイスリボンに骨を埋める覚悟です」と宣言した。
自分のやりたいことが出来ないのなら団体を出るという方向ではなく、一生アイスリボンでやっていくけど、自分のやりたいこともやりたい。そのためにトップに立つという方向に考えたのだろう。世羅はその後たまにプロデュース興行を開催して、ジワジワと自分のやりたいデスマッチに近づけつつ、アイスリボンではエースとして団体を牽引するまでになった。
ちょうど12日にウエイトリフティング全国大会で3度優勝している、尾崎妹加の挑戦を受けたICE×∞王座7度目の防衛戦が放送されるので、エース世羅の姿もぜひ見ていただきたい。
だが、これだけ大所帯で勢いのあるアイスリボンのエースとなれば、ストレスやプレッシャーもあるだろう。ケガをしたり、体調を崩すこともあるだろう。実際、世羅は今夏かなり体調の悪い状態でニコプロのコメンタリーをやったことがあった。当然「休んでいい」「やめておこう」という提案はしたが、本人が「やります」と言って、番組内で体調のことを言うことなく最後までコメンタリーをやり遂げた。責任感が強い選手だということはよく分かった。
その後、入院もしたという世羅は、ある日突然プロレスが出来なくなってしまうかもしれないことを実感したという。さらに引退した豊田真奈美さんの助言もあって、「やりたいことはやれるときにやらないとダメ」だと思ったそうだ。
だから「これを最後にする」という前提で、自分のやりたいデスマッチを11.14『ラストデスマッチ』に詰め込んだ。あれほど反対された蛍光灯もとんでもない数使ったし、頭部には画鋲や竹串まで突き刺された。それだけやって、すべてをやり切ったと思えた世羅だが、「満足した」でも「もう二度とやらない」でもなく「楽しかった」と言った。
人間、楽しかったことはまたやりたくなるものだけに、今後もしかしたらまた物議を醸すようなことがあるかもしれない。そう考えるとやはり世羅はアイスリボンの中では、なかなかの異端児だ。
まだ26歳で、舞台で女優の仕事もやっているし、グラビアをやることもある。しかも将来のことを考えると、デスマッチで身体が傷だらけになるのは……と思わず心配になるが、世羅本人はあっけらかんと「まあ、どうにかなりますよ」と笑った。画鋲や竹串が刺さり大流血した頭部はいまやすっかり綺麗になっており、回復力という部分でもデスマッチファイター向けなのかもしれない。
世羅りさの場合「女優もやっているのに」とか「女子なんだから」というのはあまり関係ない。「デスマッチでもプロレスでもハッピー、アイスリボン」とまで言う心底プロレスラーの世羅を止めるには、リング上で倒すしかなさそうだ。
文●佐瀬順一
文●佐瀬順一