次の電王戦のコンピュータ側は Ponanza に決定し、人間側の挑戦者を決める叡王戦は本戦が始まり 21日にはついに羽生三冠が登場します。

 羽生三冠といえば、故米長永世棋聖の著書『われ敗れたり』で、

もしも、どうしてもコンピュータと対局しないといけない、という状況になったらどういう条件で、どのように準備をするのか。
という米長さんの問いに対し、
人間と戦うすべての棋戦を欠場します。そして、一年かけて、対戦相手であるコンビュータを研究し、 対策を立てます。自分なりにやるべきことをやった上で、対戦したいと思います
と答えたそうです。

 その羽生さんが叡王戦にエントリー。エントリーするからには本気でしょう。

 そう思って今期を見ると電王戦に標準を絞っているとしか思えない戦績です。

 なんと来年電王戦と被っている名人戦では、 1-4 で名人を譲っています。

 その後電王戦とは関係ない棋聖、王位、王座ではタイトルを防衛。

 しかし、叡王戦が佳境となる今行われている竜王戦では、決勝トーナメントどころかランキング戦で緒戦敗退。

 同じく電王戦と時期の被る棋王戦もトーナメントでとっくに敗退。

 名人戦と王将戦の挑戦者決定はリーグ戦が始まっているところで今後どうなるか。

 羽生さんがコンピュータと戦うのを観れるとすれば、これが最初で最後のチャンスの可能性が高く、羽生さんが見事叡王戦を勝ち抜いてほしいものです。それは周りの棋士も同じだと思うので、まともに叡王戦で勝ちにいく人がいるのかかなり疑問なのですが・・・。


 さて、そんな次の電王戦で果たして人間が勝つことができるのか、最後の望みをかけるものではありますが、もうそこから先、人間がコンピュータに勝てることはないことでしょう。

 そんな将棋は今後どうなるでしょうか。

 この分野ではチェスが先に行ってるのですが、あまり参考になりません。なぜなら、チェスでは双方きちんと指すとほとんど引き分けになってしまうからです。

 しかし、将棋では滅多に引き分けになりません。いやもしかして、やがて双方最善を尽くすと引き分けになるのかもしれませんが、今の所まだその兆しは見えていません。コンピュータ同士が戦った電王トーナメントでも引き分けはごくわずかです。

 とすると、今後コンピュータの計算能力が何年か分増えたところで、角換わりなど代表的な戦型でとりあえず先手が勝つ必勝手順が生まれることでしょう(とりあえず先手としますがもしかしたら後手かもしれません)。最後まで示される定跡です。もちろん後手はそれでは困りますので、どこかで手順を変えなければなりませんが、普通に考えられる変化ではどれもあまりうまくいかないように見えることで、ひとまず必勝手順とみなされるわけです。

 疑惑の渦中にある三浦九段がコンピュータに負けた将棋などはまさにその片鱗ではないでしょうか。この将棋で三浦九段は先手でありながら一手も悪手を指さなかったとされているのに負けたのです。

 「人間対コンピュータ将棋」頂上決戦の真実【後編】一手も悪手を指さなかった三浦八段は、なぜ敗れたのか  

 そういう手順ができてしまった場合、プロの対局はどうなるでしょうか。

 主要な戦型では、その最後まで示された定跡をどれだけ深く暗記しているかの勝負に変わるでしょう。本筋やそこからの簡単な変化はすべて先手の勝ちになるわけですから、まず先手としてはこれはすべて知っていて当然。それに対して後手は様々な揺さぶりをかけるわけですが、半端な揺さぶりではすべて定跡で負けてしまいます。いかに先手のミスを誘うかということになります。

 あるいは、後手は積極的に主流でない戦型への変化を求めていくようになります。先日行われた竜王戦第1局もかなりの急戦でした。これは先手から仕掛けたもので、あっけなく先手が負けるのですが。

 いわゆる主要戦型では、早晩答えが出てしまうであろう将棋。そんな中で、人間の棋士達がどんな挑戦を始めるのか。羽生三冠が指摘したようにたとえば桂馬の動きを変えることかもしれませんし、故米長永世棋聖が対コンピュータで採用した6二玉のような手が流行りだすかもしれません。

 とはいえコンピュータのが強いと明らかになった競技で、今の七大棋戦がそのまま続いていくとも思えません。天才同士で究極の棋譜を目指すという至上命題は、もうありません。一つの大きな魅力を失ったのです。

 電王戦のようなコンピュータのかかわる棋戦が増え、伝統的な棋戦のいくつかは姿を変えるかなくなっていくのではないでしょうか。


《ワンポイントミライ》(

ミライ: ここからは、三浦九段疑惑に触れざるをえまい。

フツクロウ: まホウじゃな。