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【馬】山中伸弥教授の騒動は、全科学者とイノベーションへの重篤な挑戦
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【馬】山中伸弥教授の騒動は、全科学者とイノベーションへの重篤な挑戦

2014-04-30 23:30
    いつもとちょっと違う水曜、この記事は【馬車目線】(?)でお送りします。

     山中伸弥教授の14年前の論文について騒動が起きています。

     若い科学者には、この騒動を見て、「ああ、もっとちゃんと実験ノートつけなきゃ」と再び気持ちを引き締めている人もいるかもしれません。

     しかし、こんな騒動まで起きてしまうということは、もっと深刻な問題があります。

     これは、イノベーションに対する重篤な挑戦です。

     実験ノート一つをとっても、過剰な運用が期待されています。先日笹井芳樹さんは記者会見で「将来の自分が分かるように書くようにと指導している」と現実的な運用方法をコメントをされていました。しかし、世間では科学者なら誰が読んでも全て分かるような緻密なものをイメージしてしまっています。
     しかし、実験など論文に使えるようなものは、10に一つ、その中で将来にわたって意味を持つようなものは万に一つでしょう。それら全ての実験の記録に必要以上の手間をかけてしまっては、科学者としての成功から何歩も下がってしまいます。

     なぜなら、イノベーションの元となる発見をするには、実験を数打つ必要があります。実験の記録や保存に膨大な時間をかける代わりに実験の数を増やした方が発見の確率は上がります。

     さらに、発見というのは、かなりの頻度で偶然が伴います。なにかは忘れましたが、ある物質は学生がやった実験の記録を読み間違え、誤って触媒を10倍の量入れたことで見つかったみたいな話は無数にあります。私の直接の知りあいにも、クリーンルームに入る時、部品を一つ忘れたけど、クリーンルームの出入りにはすごく手間がかかるので、もういいやとその部品を省いて実験したら、重大な発見をした人がいます。わざと作るわけにはいかないのですが、発見には「隙き」も一つの要素です。

     つまり、イノベーションにおいて、石橋を過剰に叩いて渡るようなアプローチは阻害要因です。将来社会で揚げ足を取られる可能性があっても、効率よく発見をするためには毅然と「これ以上の手間は省く」という勇気が必要です。

     しかし、それでは、10年後山中先生のように面倒な横やりが入るかもしれません。社会の構造に大きな問題があるからです。

     一番大きな問題は、先日から「ネオ事なかれ主義」で考えているように、研究が国の税金で行われていることです。国の税金で行われている以上国民誰でも意見を言えます。内容を知る人が概ね1万人を超えてくると、絶対に許せないと考える人が出てきます。税金を使う場合、こういう人にも説明責任を果たす必要があるため、運営が非常に煩雑になります。国の行う中小企業の支援策には、国民への説明責任を果たすためとは言えあまりの煩雑さに、途中で支援を辞退するという例が後を断たないものがあります。

     この問題は研究者にとって深刻な問題です。もし自身の研究がすべて税金で行われているとしたら、あなたは、研究活動のすべてについて国民全員への説明責任を問われることになりかねません。これは現実的に不可能です。ですからいつでも誰かによって足をすくわれる状況に置かれているのです。こんな状況で落ち着いて研究などやってられません。

     したがって、研究者は、いろんな手段を使って、税金以外の資金を使った研究活動を組み込んでおくべきです。ポートフォリオに税金以外のリソースが少しでも含まれれば、足をすくわれそうになったとき、様々な防衛手段を働かせることができます。

     個人で対策するとしたら次のようなことが考えられます。

     ・大学など自身の組織の資金構造を良く理解する。最近であれば、大学の自主財源による研究費もあるでしょう。そのような研究費を自身の研究に組み込みます。

     ・共同研究を活用する。民間の企業との共同研究を自身の研究に組み込みます。

     ・民間の支援を活用する。財団・公益法人・民間企業など、様々な組織からの支援を自身の研究に組み込みます。

     ・個人の研究をする。休日に自分のリソースを使ってなにか研究をします。生命科学だと難しいかもしれませんが、以前、車での通勤が退屈だった科学者が、通勤中車がどれくらい近づくと飛び立つかという記録を取り続け、速度に関係なくある距離で反応することがわかったみたいな話がありました。なんだって研究になります。

     ・ニコニコ学会などを活用する。そういった自主研究は、ニコニコ学会や、ニコニコ動画やyoutubeや自身のホームページなど、今までの伝統的な学会発表以外のオルタネイティブなメディアで発表ができます。

     ・クラウドファンディングを活用する。個人の研究を進めるためにクラウドファンディングが活用できるかもしれません。仮にそのような資金で研究するとすれば、管理コストばかりに手間をかけるくらいなら、成果を出した方が喜ばれることがはっきりしています。このような資金で研究の経験を積むことは、税金でバランスの良い研究をするのにも役立つでしょう。

     ・論文以外の実績を作る。詳しくは次回に取り上げますが、この件のもう一つの大きな問題は、研究者の実績が論文に偏り過ぎているからです。この状況は急速に崩れつつあります。その流れに合わせて、論文以外の実績を作りましょう。

     さて、これは科学全体の問題でもあります。科学者達がもっともイノベーティブに研究活動をするためには、 
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