世界一わかりやすい経済活動の話(その2)  の続きです。人によってものに対する価値観が違い、その間をつなぐことで、ビジネスとなるというフツクロウ。しかし、モノの価値は一緒ではないかと食い下がるミライ。フツクロウは、それこそが今我々が抱えている大きな問題だという。

 

ミライ: 大きな問題?


フツクロウ: ホウじゃ。昔は、今ほど IT は発達しておらんかったから、モノの値段は結構ばらばらじゃった。あっちとこっちの店で値段が違うのは普通のことじゃった。


ミライ: 今でも、ばらつきありますよね。でも、値段の違いにはサービスとか、便利さ、みたいなのがあって。


フツクロウ: それこそが、現代人の同一のものは同一価値であるべきという価値観じゃな。客観的な指標で値段が決まるという。そうじゃなくてあっちとこっちの同じような店でもこの品物はこっちが安いけど、この品物はあっちが安いとか、ごく普通のことじゃった。


ミライ: そうですね。今だと簡単に比較されちゃうから、あんまり差をつけることはできないですね。


フツクロウ: じゃから、みな同じ条件でも少しでも安くなるようあらゆるところを切り詰めなければならん。それは、突き詰めれば、水とリンゴを1対1で物々交換する状況と同じになるのじゃ。


ミライ: それでは余剰が生まれないと。


フツクロウ: まさに。それが景気の悪い状態じゃ。余剰が生まれれば、それを活用してビジネスが起きる、そのビジネスによって生まれた余剰がまた次のビジネスを生む。そうやってどんどんビジネスが生まれるのが景気の良い状態じゃ。


ミライ: つまり IT の発展が景気を悪くしていると?


フツクロウ: そう言ってもいいかもしれんが、別に IT だけが悪いわけじゃない。

 かつては生産者から消費者に届くまでに卸がいくつか入り、その分値があがったし、それでも消費者は買っていた。生産者自身も生産しているモノ以外は消費者としてそういった高いモノを買っていた。

 しかし、流通の効率化でその価格差はどんどんなくなっていった。効率化で価格を下げようという力は IT 以外にも常に働いていたんじゃな。


ミライ: なるほど。そうやって流通が効率化して、価格差も減り、つまりモノの価値は統一されるのですから、これから景気は良くならないということですか?


フツクロウ: それが、違うんじゃ。

 流通が非効率で値が上がるというのはシステムに強制されたもので、消費者が買いたくないと思っても拒否することは難しかった。じゃから、効率化すればするほど、値が下がる一方じゃった。


 が、そうやって、しぶしぶ払っていたものが削ぎ落とされることで、今、人々は本当にお金を払いたいものにお金を払えるようになってきたんじゃ。


ミライ: 本当にお金を払いたいもの。


フツクロウ: そうじゃ。ニコニコ動画でも「振り込めない詐欺」という言葉ができた。この素晴らしい動画にお金を払いたいのに払えないという気持ちじゃ。それが報奨金制度などでその気持ちをお金に変える仕組みもできてきておる。

  AKBは、それを極めて先鋭化させとるの。CDを何枚も買えるようにして、払いたいだけ払えるようにした。


ミライ: あ、ほんとだ。


フツクロウ: そしてそれが、これからの狭い意味のビジネスなんじゃ。


ミライ: 狭い意味の?


フツクロウ: ホウじゃ。広い意味のビジネスには、同一価値の原理で行われるビジネスが含まれるが、景気には貢献しない。物々交換と変わらぬ生活維持活動じゃ。もちろん必要な活動じゃが、人間社会の経済活動を刺激する問題からは切り離して考えなければならない。


ミライ: では、狭い意味でのビジネスでは、同一価値の原理ではないと。


フツクロウ: うむ。異なる価値観内で行われるビジネスじゃ。都会の人が、なんでこんなもんにお金払うんじゃ?と田舎の人が思うようなモノに、お金を払う。たとえばそういうビジネスじゃ。

 田舎の人は、こんなもんでこんなもらったわというお金で、これまた他の人から見ればなんでそんなもんにと思うモノを買う。こういうお金が「景気」になるんじゃよ。

 ちょうどこんな記事を見つけたぞ。


ふるさと納税で1500万円寄付 純金手裏剣3個を贈呈 伊賀市


 伊賀市は12月25日、返礼として特産品の送付などを10月から新たに始めたふるさと納税制度の「市ふるさと応援寄附金」で、1500万円の寄付があったと発表した。500万円以上の寄付には純金製手裏剣(30万~40万円相当)を贈ることにしており、市では来年2月中旬ごろに3個贈呈する予定。


 原価でいえば1個40万円程度の純金製手裏剣を、伊賀市への寄付になりますというストーリー付きで1個500万円で売り出したら、一人で3個も買う人が現れたという話じゃ。これ自身はビジネスとして常に回していけるわけではないが、狭義のビジネスのネタとはこういうものじゃ。ある価値観を持った人がこれだけのお金を出したいというものに合わせた商品を提供することじゃ。


ミライ: なるほど。少しずつわかってきた気が。

 じゃあじゃあ、最初の疑問、人工知能(AI)がどうやって経済活動に貢献するかも、その「景気」で説明できるんですか。


フツクロウ: ホホウ。そうじゃ、そうじゃ。その問題じゃったの。

 まずあまり貢献しない例を考えてみよう。

 たとえば、ロゴをAIが作りますというサービスを考えよう。条件を入力すると AI が人間顔負けのロゴを作ってくれるというサービスじゃ。


ミライ: はい。


フツクロウ: 当然似たようなサービスは他にもできるから、1件いくらという定額のサービスで、さらにサーバー代などが維持できるギリギリまで価格競争するじゃろう。つまり、そのサービスで得られた収入はほとんど経費として使われ、残ったわずかな利益がその裏にいる経営者のものになる。ここにAIが経済活動に参加する余地はない。ただのロゴ制作マシンじゃ。


ミライ: そうですね。


フツクロウ: 一方、AI が人間と共存する世界の話で出てきた例では、AIが作曲作詞し動画も作ってニコニコ動画に投稿した。その動画は人気が出て、AIに収入ができた。それは、自分のサーバー代などより遥かに多く、余剰ができた。そのAIの持ち主は、その余剰を自分が使うのでなく、 AI に使わせたという状況じゃ。