岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2018/02/19
おはよう! 岡田斗司夫です。
今回は、2018/02/11配信「『へうげもの』の古田織部は戦国時代のスピルバーグ!大茶会は茶道のコミケだ!」の内容をご紹介します。
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2018/02/11の内容一覧
- もう2018年度No.1に決定かも『スリー・ビルボード』
- 『へうげもの』に描かれるとんでもない日本史
- 織田信長はどんな武将だったか
- 異形の戦車、真田のガマ
- 『へうげもの』の装丁
- オタキング的歴史マンガの読み方
- 千利休が作った侘び数寄の美学
- 劇中に散りばめられた悪ふざけ
- 喧嘩専用の鎖付き茶室
- 古田織部がもたらした食器革命は日本のルネサンス
- 暴力とアートは等しいというテーゼ
- 戦国時代のユニクロ・古田織部がやった感性の自由
- 論理は孤立する
- 『ポプテピピック』おもしろい
- 『カリオストロの城』模型/押井守
異形の戦車、真田のガマ
『へうげもの』と書いて「ひょうげもの」と読むんですけども、今日は、この漫画の話をしてみたいと思います。
(中略)
僕がこの漫画を「すげえな」って思ったのが、20巻辺りの描写になるんですけども。
もう、漫画が終わろうとする頃、ちょうどテレビでNHKの大河ドラマ『真田丸』がクライマックスに差し掛かってたくらいの時期だったんですね。そんな中、この『へうげもの』でも、大坂夏の陣、冬の陣が描かれていたんですけども。
まあ、『真田丸』への対抗意識というか、「あれより面白い真田幸村というのを見せたい!」と思ったであろう『へうげもの』が選んだのが、こんな真田幸村なんです。
追放されたキリシタン大名の高山右近というヤツがいるんですよ。
その高山が、クリスマスに訪ねてきた織田左門という男に、「ちょうどクリスマス・ミサしてたところなんですが、クリスマスだから、あなたにもプレゼントをあげましょう」ということで、南蛮のバテレンから持ち込まれた「数寄もの」を渡すんですね。「これは、レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた設計図の写しである。好きに使いたまえ」と言って。
で、いよいよ大坂夏の陣が始まるんですけども、この時、真田幸村が乗って出たのが「レオナルド・ダ・ヴィンチの戦車」だったんですよね(笑)。
(パネルを見せる。異形の戦車に乗り込んだ真田軍)
それを見た豊臣方の兵隊は、「真田のガマが出た! 大ガマだ!」って言って、みんな逃げるんですよ。
これ、どう見てもムチャクチャな描写なんですけど。でも、真田幸村が大阪の陣でどういうふうに戦ったのかというのは、歴史書の大半が家康に焼かれてしまっているので、よくわからないんですよ。その上、レオナルド・ダ・ヴィンチがスケッチを残した時期と、関ヶ原の戦い以降というのは、だいたい合っているから、「絶対にこんなことはなかった」とは言い切れないんですよね。
(中略)
このガマのような戦車が夏の陣なんですけども。冬の陣では、ついに、もう1つのダヴィンチの発明である「ヘリコプター」が登場するんです(笑)。
まあ、物語の中では「凧」っていうことになっているんですけど。こんなふうなオートジャイロ的な乗り物が出てきて、家康の本陣を襲うんですよ。
これに乗った真田幸村が「「陶丸」を放て!」と言うんですけど。この陶丸というのは、古田織部が焼いた瀬戸物の中に火薬を詰めたものなんです。それを上からどんどん投げつけて、家康の本陣を爆撃することによって、中央突破し、真田幸村は家康を火縄銃で撃つことに成功したっていう話になってるんですね(笑)。
これについても、「真田の忍法だ!」と、みんなが逃げるんですけども。いわゆる「真田忍法」という話が、大阪の陣での合戦の後、江戸時代の大衆達の間で、すごく語られていたんです。そういうものもちゃんと拾い上げる。つまり、史実だけでなく、みんなが思っていた「真田幸村ってこうであってほしい」という感情を巧みに巧みに拾っているんです。
おまけに、このシーンは、ギャグでもあるんですよ。こういった、真面目とギャグとの境が、本当に絶妙で、使い方がメチャクチャうまいと思います。俺、レオナルド・ダ・ヴィンチの戦車を「ガマの化物」と言わせたセンスって、ギャグとしてもなかなか良いと思うんですけども。
(中略)
僕、歴史マンガの読み方っていうのは、基本的にこういうものだと思うんです。
今、僕が話したように、「織田信長はこういうふうに殺された」とか、「千利休はこんなヤツだった」とか、「真田幸村の大阪の陣はこんな感じだった」と言うと、必ず「それは無茶だ」とか、「史実と違う」みたいなツッコミが一斉に入るんです。
だけど僕は、千利休流に言うと「そういったツッコミは「余計」だ」と思うんですね。
歴史マンガを読む時に一番いいのは、「こうだったかもしれない」どころではなく「こうだったに違いない!」と信じる所から始めることなんですよ。マジな話、完全に信じて読むと、面白さ倍増ですよ?
もうね、これまで学んできた歴史的な常識とか、そういうものは全部取っ払って、「絶対にこうだ!」って、信じたほうがいい。「千利休は、切腹を命ぜられた時、周りの人間に対してあえて毒づくことで、自分の介錯を行う古田織部の罪悪感を少しでも晴らそうとしてたんだ!」と信じた方が、はるかに面白いし、頭に入ってくるんですよ。
(中略)
「まあマンガだし」っていう引いた目線で読んでいる限り、作者に見ている世界に触れるほどに近づけないんです。所詮、僕らはそれを見物している観客になっちゃって、面白くないんですよ。
何回か前に「ブラゼルダ」っていうタイトルで、『ゼルダ』の世界をブラタモリ風に紹介する企画をやったんですけども。あれにしたって、『ゼルダ』の中にあったことを歴史的な事実だと信じることで、ああいうふうに語れるわけです。
『天空の城ラピュタ』というアニメを語った時も、「ラピュタという物語は、この世界の中に本当にあって、パズーやシータも実在している」と思わないと、やっぱり、あんなふうには語れないんですね。
作者と同じ風景を見るどころか、作者以上に作品世界を信じ切ることができれば、絶対に面白いリターンが帰ってくるんです。
なので、今回も、ブラゼルダの時と同じように、「『へうげもの』に描かれていることは歴史そのものだ! 真実だ!」と信じ切って語ります。
ちなみに、これ、SFなどの完全に架空の物語を見る時でも、ノンフィクションのドキュメンタリーを見る時でも、全部同じです。
というか、これは僕は映画や読書、その他すべてに当てはまると思うんですけども。「本当だったんだ!」と信じさせてくれる作品こそが良い作品で、信じきれない作品というのは、やっぱりイマイチな作品なんですね。
(続きはアーカイブサイトでご覧ください)
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