岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2018/08/29
おはよう! 岡田斗司夫です。
今回は、2018/08/12配信「『ハウルの動く城』は、宮崎駿にとって“初の恋愛映画”であり、ジブリにとって“初の敗戦作品”だった!」の内容をご紹介します。
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2018/08/12の内容一覧
- 『ハウルの動く城』参考図書
- 幻となった「細田守版ハウル」
- 『カリオストロの城』をクラリスからの視点だけで描いたら?
- 『ハウル』に登場する魔法使いたち
- ソフィーの視線の外で綿密に組まれた『ハウル』の世界
- ハウルの世界で起きた出来事
- りんご(隣国)の旗の意味
- ストーリー解説・Aパート 「ソフィーは宮崎アニメ初の裏表のあるヒロイン」
- ストーリー解説・Bパート 「勝手に家に上がり込んで掃除をする女が一番ヤバい」
- ストーリー解説・Cパート 「クズだけど許してしまう、大人の恋愛」
- ストリー解説・Dパート 「守りたいハウルと、生きていてほしいソフィー」
- ストーリー解説・Eパート 「ソフィーは自ら魔女になることでハウルの責任を肩代わりした」
- 宮崎、高畑、細田、押井、それぞれの家族論
『カリオストロの城』をクラリスからの視点だけで描いたら?
最初に話しておかなきゃいけないのは「『ハウルの動く城』というのは、ジブリ初と言ってもいいくらい「賛否両論の映画」だった」ということなんです。
つまり、これを見て感動する人はメチャクチャ感動するんだけど、文句を言う人はいっぱい文句を言うんですよ。
ちなみに、宮崎さん自身は、この『ハウル』を作った頃からこんな事を言っていました。
「子供には楽しくて未来に希望の持てるようなアニメを見せなきゃいけない。そこだけは譲れない。アニメは子供のものだ。でも、それを一緒に見に来る大人にとっては、ほろ苦いんだけど、でも、人生ってこういうものだよなと思えるような、ちょっとした癒しになる作品を作りたい」って。
こういった、1つの映画の中に、子供にとっては「ハッピーエンドのすごく楽しい物語だった」と思えるような要素と、大人にとって「ああ、ちょっと切ないな」って思える要素の2つを取り入れる二重構造というのは、宮崎作品としては後期に入って初めて使われるようになったものなんです。
『ナウシカ』から『もののけ姫』までは、二重構造ではなく「対立構造」なんですよ。
それまでは、宮崎駿も「2つのそれぞれ相反する立場の人間が、お互いの信念をぶつけ合う」という、高畑勲が大好きな共産革命の思想のような、「テーゼ → アンチテーゼ → ジンテーゼ」という構造で作っていたんです。
例えば、『もののけ姫』では、「「もののけ」たちの自然の世界と、鉄を作って自然を破壊する人間たちの世界の共存というのは、本来はありえないんだ」という対立構造があります。
しかし、『千と千尋』や、『ハウル』、『ポニョ』の辺りから二重構造に変わったんですよ。
なぜかというと、やっぱり対立構造で物語を作ろうとすると、どうやっても「楽しくて明るいハッピーエンド」をラストに持って来にくくなってしまうから。なので、宮崎さんは、テクニックとしてはなかなか難しい二重構造で作品を作るようになりました。
例えば、『千と千尋』では「最後、お父さんとお母さんが帰ってきてよかったね」というハッピーエンドを見せながら、「でも、なぜ千尋は「死の世界」に行き、そこから帰って来たのか?」という含みも持たせて、二重構造としての物語を描いています。
ちなみに、今のところ最後の作品である『風立ちぬ』では、宮崎駿は対立も二重構造もかなぐり捨てて、言いたいことをどんどん繋げて物語を描くという、「狂乱期」に入っていて、僕はそれをすごく面白く思ったんですけども(笑)。
まあ、『ハウル』はそういった二重構造期の作品です。
二重構造になっていますから、表面の層としては、徹底して女性向けのロマンス映画として作っています。
いわゆる恋愛、それも、女の人向けの恋愛モノの「お約束」のすべてを満たした上で、ラストは「ソフィーは夢のマイホームを手に入れる」という、ものすごいハッピーエンドになっているわけですね。
まあ、このハッピーエンドへの持って行き方というのが、見る人にとっては「なんでそんな都合のいい展開になるの?」って、引っかかっちゃうこともあるんですけど。
でも、これは表面層。一見するとお約束満載の乙女チックなロマンス話に見えるんですけど、もう一段深い層には「中年から老境に差し掛かる男の現実」という話を描いているんです。
男の夢とか男のロマンというのをすべて否定しながら語る、宮崎駿なりの「家庭論」というのが入っていて、やっぱりこれも面白いんですよ。
ロマンスという層について「表面」という言い方は悪かったかもしれませんね。「右と左」と言った方が正しいのかもわからない。
このロマンスの部分も、実は、割とわかりにくいんですよ。だから、それが伝わる人、ロマンチックな恋愛モノをよく見ている人にとっては「あるある! すごい黄金パターン! 鉄板だ!」って喜べるんですけど。見慣れない人にとっては「え? ハウルやソフィーの行動原理、さっぱりわかんない」となってしまって、恋愛映画としても楽しめない。
だからといって、もう1つのほろ苦い感じはもっとわかりにくい。
なので、これらを読みきれないと「『ハウルの動く城』って、つまらないよな」って思っちゃうんですよね。
だけど、この両方が見えると、すごく面白い作品なんですよ。
一方にあるほろ苦い部分はもちろん、宮崎駿が、なぜか彼の中にものすごくたくさんある「乙女心」を全開にして作ったロマンチックな話だけでも、十分面白いんです。
なので、今回は、この両方を出来るだけわかりやすく解説してみようと思います。
でないと、俺ら男には、宮崎さんほどの乙女心がないから、よくわからないんです(笑)。
男性の中には「やっぱりストーリーがイマイチ」とか、「ラストの展開、特にカカシの正体が隣国の王子だったという辺りの展開が、ご都合主義っぽく見えて、乗り切れない」と言う人も多いんです。
だけど、実はこの『ハウルの動く城』という作品は、構造自体はレゴのようにものすごく綿密に作ってあるんです。ちょっと信じられないと思いますけど、ご都合主義とか無茶な展開は、この物語の中に1つもないんですよね。それくらい計算されて構築してあるんです。
では、なぜそれが分かりにくいのか?
それは「この作品では、ほぼ全編に渡ってソフィーという主役の女の子の視点のみで語っているから」なんです。
(続きはアーカイブサイトでご覧ください)
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