岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2018/11/30
おはよう! 岡田斗司夫です。
今回は、2018/11/04配信「『紅の豚』ポルコはなぜ豚になったのか?最後、ポルコはどうなったのか?」の内容をご紹介します。
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2018/11/04の内容一覧
- 『紅の豚』冒頭10分徹底解説
- ポルコの秘密基地に隠されたスケベ心
- 色彩設定を担当した立山照代さんの技
- なぜポルコは、万全の準備をして電話を待っていた?
- 中年オヤジとは、こういうことだ
- 実際に存在しているかのように感じさせる、秀逸な航空機描写
- クリエイター必見、宮崎駿の構図の妙
- 空戦描写を味わうために必要な飛行機の基礎知識
- 襲われた客船の中に隠された表現技法
- ポルコの見せる抜群のマニューバ
- コントとしての『紅の豚』
- 『紅の豚』の補助線としての、サン・テグジュペリ『人間の土地』
実際に存在しているかのように感じさせる、秀逸な航空機描写
このシーンで、ポルコは桟橋の上を歩くんですけど、飛行艇の尾翼の部分を避けて乗るんです。
(パネルを見せる)
で、これが乗った瞬間の絵なんですけど。
それぞれを見比べてください。このポルコのコックピットの横にある小さいプロペラが、ほぼ水面のドラム缶の位置まで下がってます。
これ、どういうことかというと「ポルコが乗った瞬間にポルコの体重でサボイア号の喫水が沈んだ」という表現なんですね。
細かい表現ですけど、ここら辺の描写はメチャクチャうまいです。
まず「尾翼の前を通る時、ポルコはちょっと迂回して、太ってる身体を桟橋の上で器用に折り曲げて歩く」というのは「人物の演技」なんですよ。
そして、次に「ポルコが乗り込むとサボイアが沈んでいく」というのは、これは「物理描写の演技」です。
このように、1カットで人物描写と物理描写の両方をコントロールしてるんです。すると、作品にメチャクチャリアリティ出るんですよね。
最初の人物のちょっとした動きだけでも『この世界の片隅に』のような「ああ、これ、リアルだな」という感覚が生まれるんですけど。
それと同時に物理現象まで見せてしまうと、人の描いた絵であるこの景色が、この世に本当に存在しているように見えちゃうんです。僕らは、そういうものを見ちゃうと「その場に行きたいな」と思っちゃうんですね。
サボイア号に乗り込んだポルコは、クランクを回し始めます。
(パネルを見せる)
ガーッとクランクを回すと、なにやら重たい回転音が聞こえ、ポルコが足でレバーを踏み込むとエンジンが掛かります。
ポルコがクランクを使って回しているのは、いわば金属製の巨大な「はずみ車」です。このはずみ車を十分に回すことで回転エネルギーが溜まったら、足のレバーでクラッチを入れて、エンジンにその回転エネルギーを与える。
つまり、自動車のセルモーターのスターターを、手動でやっていると思ってください。
なぜ、こんな操作を足まで使ってしなければいけないのかというと。
本当は、ポルコは操縦席に座っていて、クラッチ操作だけをするはずなんですよ。クランクを回すのは、本来ならば「整備士」がやる仕事なんですよね。
だけど、ポルコは1人で空賊退治をしているので、悲しいことに、いつの間にかこういった1人2役に慣れてしまったんです。最初のうちは「なんで俺がこんな足で……」とか思ってたんでしょうけど、いつの間にかに慣れてしまってるんですね。
エンジンが動き出すと、すごい煙が出てきて、ポルコはむせます。
そして、シートベルトを締めると、ポルコの乗った操縦席のすぐ横に付いた小さなプロペラが回転し出します。
(パネルを見せる)
この小さなプロペラについて、予習編の動画の中で、僕は「これは燃料をエンジンまで持ち上げるためのポンプだ」と言ったんですけど。後日、知り合いから「あれはポンプじゃない」と指摘されました。
なぜ、僕がこれを風車式のポンプと言ったのかっていうと、この『アート・オブ・ポルコ・ロッソ』という設定本に、そう書いてあったからなんです。「ああそうなんだろう」と思って、そう話したんです。コンテにも「風車ポンプ」と書いてあったので。
でも、正確にいうと、こいつはダイナモ(発電機)だそうです。大きいプロペラが回って風が起こると、この小さいプロペラが回って、これが自転車のダイナモと同じように微弱な電力を発生する。この電力が段々増えてくることによって、サボイア号の燃料タンクから、燃料を引き上げるというですねモーターを動かすそうです。
で、次が、僕も最初はよくわからなかったカット。なんとか理解できたんですけども。
(パネルを見せる)
エンジンが回りだすと、ポルコが操縦席のスロットルを握って、ガシャッと前へ倒します。
この大きいのがスロットルです。これで、いわゆるエンジンの出力を上げているということはわかるんですけど。
この時、赤い玉のついた小さなレバーを、親指でカクンと引っ張って、同時に動かすんですよ。
これ、コンテを見ると「タイミングレバー」と書いてあるんですけど、何のことか僕にはわからなかったんですね。一応、知ってる人とかに色々と聞いてみると「ミクスチャーレバーじゃない?」と言われました。
僕は宮崎さんみたいに飛行機マニアじゃないので、FacebookやTwitterで教えてもらったんですけど。燃料をエンジン内に噴射する時に、燃料と空気の混合比を変えるためのレバーらしいです。
最初にエンジンをスタートさせた時に煙が出るのは、燃料が濃すぎるからであって、このレバーは、燃料の混合比を少なくして、完全燃焼させるための装置だそうですね。
こうやって、ミクスチャーレバーを前へ倒すことで「燃料がリッチな状態から、リーンな状態に変える」そうです。バイクに乗ってる人だったらわかりますかね?
その一方で、「これはタイミングレバーだから、本当に燃料の噴射タイミング、エンジンのピストンの中で気筒が動いている時に、どの位置で燃料を送り出すのかを切り替えるための操作だ」と言う人もいるんですよね。
「始動時は遅かったそれを、エンジンの回転数が上った段階で早くすることでノッキングを防ぐ」って言われたんですけど、これのどっちが正しいのか、僕にはわかりません。
ただ、この一連の「ポルコが船に乗り込んで船体が沈む」というカット、「クランクを回して足でレバーを蹴ってエンジンを掛ける」というカット、「エンジンが回って操縦席に着くと、横のプロペラが回る」というカット、「スロットルを上げて、同時にミクスチャーレバーもしくはタイミングレバーを前へ倒す」というカットの流れは、「ポルコの普段の動作」として、見ていてカッコいいんですよね。
これまでも、いわゆる『ガンダム』みたいなアニメでも、こういった「パイロットが戦闘機に乗ってから、どのような動きをするのか?」みたいな動作をいろんな形で見せてきたんですよ。
でも、だいたいは「眼の前にあるスイッチをパチパチと入れていく」みたいな動きで……いや、それにしても、いろいろと考えて作っているんでしょうし、リアルなんだろうけども。ついつい「そんなもんか」と思っちゃうような動作になりがちだったんです。
だけど、このポルコの発進シーンは、全身を使って、次々といろんな機械を操作して、エンジンの出力を上げたり発進できる状態まで自分の機体の状態を持って行って、最後にスロットルをガッと倒すという、見ていてすごく気持ちいい動きなんですよ。
「ダンダン、ダンダン、ダンダダンダダン~♪」という、このシーンで流れる音楽と相まって、『サンダーバード』の出撃シーンに匹敵する、名発進のシーンなんじゃないかと思うんですよね。
(続きはアーカイブサイトでご覧ください)
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