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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「『On Your Mark』完全解説その3〜まさかの完全どんでん返し編」
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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「『On Your Mark』完全解説その3〜まさかの完全どんでん返し編」

2019-12-26 07:00

    岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/26

     今日は、2019/12/08配信の岡田斗司夫ゼミ「宮崎駿の最高傑作『On Your Mark』解説[前編]」からハイライトをお届けします。


     岡田斗司夫ゼミ・プレミアムでは、毎週火曜は夜7時から「アニメ・マンガ夜話」生放送+講義動画を配信します。毎週日曜は夜7時から「岡田斗司夫ゼミ」を生放送。ゼミ後の放課後雑談は「岡田斗司夫ゼミ・プレミアム」のみの配信になります。またプレミアム会員は、限定放送を含むニコ生ゼミの動画およびテキスト、Webコラムやインタビュー記事、過去のイベント動画などのコンテンツをアーカイブサイトで自由にご覧いただけます。
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     すみません、このレベル2は、またちょっと長くなるので、今日は本当に無料放送が長くなるんですけど。
     今回、レベル6まであるんですけど、レベルが1つ上がる度に、その前の解釈を全否定します。
     つまり、レベル2に上がったら、レベル1で語った「これはいい話である」ということを「実は違うんですよ」とレベル1を全否定。レベル3に上がったら、今度はレベル2を全否定。レベル4に上がったら、レベル3までを全否定することになりますので、すみませんけど頑張ってついて来てください。
     こういうことになっている話なんですよ。だから、これ、すごく面白いんですけども。
     では、無料の最後、レベル2「3つの悪意」について語ります。
     レベル2では、「宮崎駿はこのフィルムの中に思い切り悪意を込めて作った」ということを解説します。
     絵を見るだけでも、まず、これまでの宮崎アニメではあり得ない、3つの悪意が入っているのがわかります。宮崎駿は、「アニメというのは子供向けのものだから、封印している」と自分で言っていた3つの悪意を開放しているんですね。
     もちろん、それは、子供とかチャゲアスのファンとかレコード会社の偉い人には、出来るだけわからないように作っているんですけど。やっぱり、アニメが好きな人がよく観察したらバレちゃうものなんですよ。
     「残酷描写」と、「原子力」と、「翼の生えた少女」。これが3つの悪意です。

    ・・・

     では、悪意その1、残酷描写から行きましょう。

     まず、一番最初にトンネルに突っ込んで行く飛行機なんですけど。トンネルに突っ込んだ瞬間に桜の代紋がギラギラ光るんですよね。
    (パネルを見せる)

    nico_191208_11101.jpg
    【画像】桜の代紋 © 1995 Studio Ghibli

     もう「POLICE」って書くだけでいいはずなのに、なぜ、宮崎駿が学生運動の時に戦っていた機動隊のマークをわざわざ出すのかと言うと、桜の紋章を輝かせることで、「これは日本の警官だ」と。「POLICEって書いているけど、日本の話だぞ?」ということをやっているわけですね。
     これは、オープニングの歌が始まる前に流れる映像です。この後、さっき説明したように、目が開いたり閉じたりしているビルに突入するんですけど。
     よく見ると、このビルの窓の中で人影が動いているんですね。つまり、わざわざこれから破壊する窓のすぐ近くに人間がいるところを、ちゃんと見せているわけですね。残酷描写をしている。
     「そして僕らは~♪」という歌が始まって、警官隊が突入するんですけども。
    (パネルを見せる)

    nico_191208_11159.jpg
    【画像】機動隊 © 1995 Studio Ghibli

     これは、飛行機の中にいる機動隊の隊員達です。銃を持ってこれから突入するんですけども、よく見ると、ここに「KILL」って書いてあるんですね。
     これね、おそらく「KILL」の他にもいろんなサインがあると思うんですけど、この日は「全員、実弾を発射して、容疑者を殺しても構わない」という意味なんです。だから、「KILL(殺せ)」と書いてあるんですね。
     このボードのサインは、たぶん、他にも色々あるんでしょう。「逮捕しろ」とかいうのがあると思うんですけども。ここでは「KILL(全員撃ち殺せ)」という指示があることがわかります。
     で、「そして僕らは、いつもの埃にまみれた服を払った~♪」という部分。
     これは、もちろん「血に塗れた服を払った」ということなんですけど。
     僕ね「やっぱり、宮崎駿が本気で人殺しを描いてるな」と思ったのはここなんですよ。
     「この手を離せば音さえたてない~♪」の時の、これだけのシーンなんですけど。このカットで描かれている彼らの戦闘方法は、かなり異常なんですね。
     普通ね、こうなんですよ。
     一番下の3つ目のコマ見てください。物陰に隠れて撃っているでしょ? 「相手が銃を持って反撃するかもしれないから、いつも物陰に隠れながら撃っている」んですよ。これが普通の戦闘方法なんですね。
     ところが、このカットでは、奥から走って来て、部屋の中を、物陰に隠れもせず、いきなり銃を腰溜めで、突っ立ったまま撃っています。
     これ、何かと言うと、「部屋の向こうにいる人間は既に降伏しているか、銃を持ってないことがわかりきっているから」なんですね。もし、反撃される可能性があったら、絶対に隠れて撃つんですよ。でも、ここにいるのは無抵抗で「助けてくれ」と言って手を上げているか、もしくは怪我をして反撃できない人間だから、安心して身体を晒して撃ってるんですね。
     さらに、次のカットでは、銃を撃ち終わった去り際に次のやつが来て、この部屋に爆弾を投げ入れています。
     つまり、これは逮捕とかそういうものじゃないんです。虐殺なんですね。「全員殺せ!」という指示が出ているから、無抵抗な人間であろうと、降伏していようと、子供であろうと女の子であろうと、全員殺すんです。
     この『On Your Mark』の後、95年に『エヴァ』のテレビ版も劇場版もあったんですけど。あの残酷な戦闘描写に一番影響を与えたのって、やっぱり、この6分40秒のフィルムなんですよ。
     でも、それを、ほとんどのアニメファンは知らないんですね。宮崎駿がこんなことをやっているとは知らない。庵野秀明が、それを見て「うわーすげえ!」と思って「じゃあ俺は、これをもっと丁寧にやろう」と思ってやったら『エヴァ』になりましたということなんですけど。
     宮崎駿は、これを「残酷ですよ」というふうに描かないんですね。やっぱりそこは宮崎駿の方が1枚上手で。「ドアの前に棒立ちに立って銃を撃つ」というのが、どんなにエゲツないことかってわかるのは、やっぱり、そういうのに詳しい人だけなんですよ。
     だから、こんなもん、別にレコード会社のオッサンに見せてもわからない。まあ、実際にわからなかったんですけど。たぶん、鈴木敏夫さんすらも、これに気が付いてないんですよ。これが、いかにすごいことなのかっていうのに。
     こんなふうに、無抵抗な人間を撃って、その中に爆弾を投げ入れているのに。
     まあ、突入時に「KILL」と出ているのは、殺人の指示が出てるからだと思うんですけど。
     で、「落ちて行くコインは二度と帰らない~♪」という時の、女の子の死体を持ち上げて落としているシーンですね。
     なぜこんなことをしているのかと言うと、生きているかどうか確認しているから。生きていたら、その場で撃ち殺そうと思っているから、銃を持ったまま持ち上げているわけですね。
     右手で持ち上げて、左手に銃を持っているのは、「もしピクリとでも動いたら、即座に弾をぶち込もうと思っているから」です。だから、みんな銃を下に向けながら死体を検分しているわけですね。
     さっき、女の子を救助するシーンで「捕虜がいないことを覚えておいてくださいね」と僕は言いました。
     女の子が連れて行かれるシーンで、周りを見ても捕虜らしき人物が一切いない。普通、こういうシーンって、教団に突入したんだから、大量の逮捕者が出て、そいつらが運ばれるはずなんですけど。そういう描写が一切ないんですよ。
     たまに、高級幹部みたいな、あとで参考人になるような人を担架で運ぶところが、端っこにちょっとだけ見えるんですけど、その他には、一切ないんですね。
     つまり、もう「殺しているだけ」なんですよ。
     なんでそんなことが可能なのかと言うと、ちゃんと宮崎駿は描いているんですよ。
    (パネルを見せる)

    nico_191208_11723.jpg
    【画像】ワッペン © 1995 Studio Ghibli

     これ、チャゲとアスカの腕についてるワッペンなんですけど。わかりますか? これは天秤のマークなんです。そして、天秤というのは、裁判官とか弁護士とか司法制度の方を示しているんですよ。
     つまり、彼らは警官であると同時に裁判官なんですね。警官というのは行政なんですけど、いわゆる「司法・立法・行政」の三権分立が、この時代にはすでに崩れている、と。彼らは「その場で裁判して、その場で有罪判決を下して、その場で死刑にする」という、とんでもない組織なわけですね。
     それを、天秤のマークのワッペンを1つつけることで表現している。「これも、まあ、レコード会社にはわかんねえだろう」っていう悪意ですよね。
     本当に、飛行機を降りる時に一瞬だけ「KILL(殺せ)」っていうのを出して、無抵抗な人を撃つ描写を入れて。そして、2人が飲んだくれて「俺達の今日の仕事って何なんだろう」って言ってる時に、腕のワッペンには天秤のマークがついているのを見せる。
     宮崎駿が言おうとしているエゲツなさというのは、こんなふうにちゃんと画面上に出てるんですけど、ほとんどわからないようにされているわけですね。
     僕も、この辺、見つけた時に、ちょっとビックリしたんですけど。
     で、さっき見せたこのシーン。
     これも「運ばれた女の子を見送る長いシーン」と言ったんですけど、見送った後に彼らがやっていることは何か? 後ろに立っている1人が、銃を2つ持っているんですね。そして、見送っていた1人が、もう1人から銃を受け取って、2人はそれぞれ銃を持ったまま現場に戻る。
     今「現場に戻る」って言ったんですけど、これはどういう意味かと言うと、「翼の生えた女の子をあんなに心配していた2人は、これから、生き残りを探して殺すために現場に帰る」ということなんですね。
     つまり、1人の人間の中に、悪魔と天使が両方いるんですよ。彼らは正義の味方でも何でもないんですね。
     毎日毎日、「いつもの笑顔と姿で」人々を虐殺して、命令されたら無抵抗な人間であろうと何であろうと殺してて。その中でたまたま女の子を見つけたから、仏心を出して、心配して、ずっと飛んでいくのを見送ってた。そしたら「さあ、続けようか」と言って、また銃を受けとって、残っている人間を皆殺しにして帰る。
     こういうことを描いているわけですね。
     それをちゃんと描いているところが、宮崎駿の悪意の1つ目です。
     「俺は今回、残酷描写を恐れない! 人間の暗黒面に踏み込むことを、俺は全然恐れない!」という描写をしているわけですね。
     チャゲアスの毎日というのは、こういうふうに虐殺の連続であって、いつしかこんなことをしても平気になってたんですね。しかし、翼のある少女を見つけて、その子に対して仏心を持ってしまったので、変化が起きる。曲の1番でそれを語った後に、2番のAメロと共に、彼らのストーリーが始まるというような形になっています。
     これが、悪意その1の「残酷描写」ですね。

    ・・・

     悪意その2は「原子力」です。
     それについては、この『出発点』という本の中に書いてあります。まあまあ、この『アニメージュ』にも載っているインタビューの再録なんですけど。
     アニメージュのインタビュアーが、「冒頭の、のどかな田園風景に建つ、奇怪な建物はなんですか?」と聞くと、宮崎駿は「どう解釈してもらっても構いませんが、その直後に出てくる放射能注意のついたトラックを見て、なんとなくわかってもらえばいい」と言ってるんです。
     つまり、宮崎駿としては「あれは原子力発電所、それも事故を起こした原発だってわかっているんですけども、それを言うつもりはない。『アニメージュ』なんかに取材されても俺は絶対に口を割らんぞ」と思っているわけですね。
     「原子力マークがわかるやつだけわかればいい。チャゲ&アスカにもレコード会社にも、たぶんバレねえだろう」というふうに思っているわけですね。
     というのも、実はこの『On Your Mark』が作られた当時、チェルノブイリで事故はあったんですけども、3.11以前だし、日本の東海村の原子力発電所で大事故が起きたのも、このだいぶ後だったんですね。
     だから、日本ではバイオハザードマークはもちろん、ラジエーションハザードと言われる、いわゆる放射能注意のマークを知っている人なんて、ほとんどいなかったんですよ。
     宮崎駿としては、チェルノブイリのことが日本でほとんど報道されていないことにも、やっぱり腹が立っていたんでしょう。それもあって、放射能マークというのを散々出しても「バレないだろう」と思っているわけですね。
     でも、「まあ、俺のアニメをちゃんと見ているファンは、これくらい勉強してくれているだろうな」というふうにも思っているので、ちゃんとサインとして入れといてくれているわけなんですけど。

     ということで、悪意その2は原子力なんですけど。
     冒頭の放射能マークの後ろにある黒い建物、これは何かと言うと、もう本当に簡単な話で、これなんですね。
    (パネルを見せる)

    nico_191208_12304.jpg
    【画像】チェルノブイリ原発

     これはチェルノブイリ原子力発電所の4号炉というやつです。
     この4号炉というのは事故を起こした原子炉で、後に、周囲をコンクリートで覆われて、放射能が漏れないようにガチガチの出っ張りがついているんですね。
     これは「石棺」と呼ばれています。この石棺というのは、当時、ニュースとかで原子力関係を見てた人は全員知っている表現でした。
     宮崎駿は自分のアニメの中に、この石棺をさらに禍々しくした物を、こっそり入れ込んだんですけど。どれくらいバレないと思っていたのかと言うと。
    (パネルを見せる)

    nico_191208_12357.jpg
    【画像】建物の絵コンテ © 1995 Studio Ghibli

     これが、このシーンの絵コンテなんですよ。
     ここには、「奇怪な建物が建っている」と書いてますね。つまり、原子炉だとわかってるのに、スットボケてるわけです。
     でも、ラストシーンの絵コンテを描いた頃には、宮崎駿もついに本音が出て、「封印された原発」って書いちゃってるんですね。
    (パネルを見せる)

    nico_191208_12415.jpg
    【画像】原発の絵コンテ © 1995 Studio Ghibli

     絵コンテを書く時、最初は慎重に「奇怪な建物」って書いてたんですけど、ラストシーンを描く時には、興奮して「封印された原発」って自分で書いちゃってる所が可愛いなと思うんですけど。書いちゃうんですよね、ハヤオ君は(笑)。
     で、ここ、僕の好きなカットなんですけど。
    (パネルを見せる)

    nico_191208_12446.jpg
    【画像】朽ちた鉄条網 © 1995 Studio Ghibli

     鉄条網の向こうに封印された原発があって、この鉄条網が腐ってるんですよね。
     「鉄条網が腐っている」というのはどういう意味かと言うと。鉄条網で覆われているということは「ここから先は危険だ」ということなんですよ。つまり、この原発が事故を起こした当初は「この鉄条網の内側の範囲が危険だ」と思われてたんですね。ところが、「もっと危険だ」ということが後々わかってきたので、鉄条網の外側にいた人も全員避難して、もう今、この周辺には人がいないんですよ。だから、鉄条網が腐っているんですね。
     鉄条網が腐ってる理由は「もうここから先が危険なんて言ってる場合じゃない。この地域の全てがダメになっていて、みんな引き上げているから、鉄条網自体が腐っちゃってる」というわけなんですよ。
     もともと原子力発電所だったんですけど、周囲が事故で封鎖されて。ところが、封印したつもりなんだけど、汚染は止まらない。その結果、この周囲数キロから住民は逃げて、鉄条網自体が不要になっちゃったということですね。

     どれくらいの事態になったのかと言うと、チャゲアスの2人が黄昏れて酒を飲むシーンがあるんですけど。
     居酒屋の壁に貼ってあるメニューに、「塩サバ(合成)」、「バイオ蛸酢」、「(本物)めざし:時価」、「(本物)やきとり:時価」って書いてあるんですよ。
     つまり、この世界には、もう人間しかいないんですね。合成の塩サバとか、バイオ酢蛸みたいな、そういう合成食料しかないんですよ。
     まあ、中には放射能に強い生物というのがいるんですね。「チェルノブイリの選択繁殖」って言われているんですけど、チェルノブイリ原発の近くって、今、緑がいっぱいなんですよ。「じゃあ、放射能があっても植物は大丈夫なのか?」と言うと、違うんですよ。「植物の中でも元気に繁殖するのと枯れていくのと2種類ある」だけなんですね。選択繁殖というのはそういう意味です。
     鳥の中でも、特定の種類の鳥は、チェルノブイリ原発に巣を作っているくらい元気なんですけど。でも、それ以外のほとんどの鳥には、やっぱり異常が起こってしまう。こういう選択繁殖が起こるんです。
     なので、人間以外の生物は、もうほぼ絶滅している世界だというのが、この「塩サバ(合成)」「バイオ蛸酢」というメニューを通じて、宮崎駿は描いています。
     じゃあ、どれくらいダメなのかと言うと。
     まあ、地上へ通じるトンネルに「生命の保障はしないぞ!」と書いてますけども。ここに書いてあるこれ、読みにくいんですけども「阳光(ようこう)」、つまり「太陽の光が危険だ」って書いてあるんですよ。
     変でしょ? 「太陽の光が危険」なはずがないんですよ。
     これ、どういう意味かと言うと「オゾン層が完全に破壊されている」ということですね。「オゾン層が完全に破壊されてちゃってるから、太陽の光ですら、人間に皮膚がんを起こす」ということなんです。紫外線が直に当たっちゃうからですね。そういう状態なんですよ。
     つまり、もう外の世界は鉄条網で覆う必要がない。全ての土地に放射能が蔓延している上に、オゾン層が完全に破壊され、外に出て太陽の光に当たるだけで紫外線で人間は皮膚がんを起こしてしまうから。そんな状況の中なんだという、絶望的な状況を描いているわけですね。

     これを見てください。
    (パネルを見せる)

    nico_191208_05040.jpg
    【画像】外へ出たトラック © 1995 Studio Ghibli

     これも、僕、見ている最中にビックリしたんですけど。トラックが外へ出た瞬間……これ、まだ地下都市の中ですよ? 道路の上に放射能注意のマークが描いてあるんですよ。
     どういう意味かと言うと「地下都市の中ですら安全じゃない」ということなんですね。あの地下都市の中でも「ビルの中の奥まったところだけが安全」なのであって、地下都市の中を走っているだけでも、ラジエーションマーク、もう外には放射能が蔓延しているんですね。
     だから「人類はドームの中へ逃げて、その中で平和に暮らしている」のではなく、あのドームの中でもすでに放射能が蔓延していて、人間が住めるところはどんどん狭くなっているんですね。
     その証拠の画像もあります。これを見てください。
     「夢の斜面見上げて~♪」という、トラックがロケット噴射して空を飛ぶシーンなんですけど。この時に画面の端に見えるドーム内の道路は、さっきまでトラックが走ってた道路と違って、全て破棄されているんですね。自動車が全て乗り捨てられていて、周りに苔みたいなものがいっぱい生えているんです。つまり、この道路は全て捨てられてるんですよ。
     空を飛んでいる自動車の下に高速道路があるんですけど、その高速道路には、よく見ると、捨てられた自動車の残骸がどこまでもどこまでも続いていて、その周りには苔みたいなものが生えている。つまり、「やっぱりこの都市は安全でない」ということなんですね。ドーム都市全体にも死が迫っている。
     このトラックは今、空を飛んでいて上昇しているから、この後に飛び込む建物というのは、ドームの中でもかなり上層の建物なんですよ。で、そんな上層の建物に飛び込むと、周りの窓が全部割れてるんですね。木があるなと思ったら、やっぱり苔みたいなものが生えて伸びているんですよ。
     つまり、この地下都市は、上の方の階に行くと、もう窓が割れっぱなしになっていて、放射能が入り放題になっている。でも、まだ人が住んでいる。
     上の方へ行けば行くほど、地面に近くて危険なんですね。なので、おそらく金持ちは地下の深い場所に住んでいるんですよ。で、貧乏人とか仕事がないやつらは、ドーム都市の地上に近いところに住まわされているんです。
     そこは、もう窓も割れて放射能が入り放題になっている。それでも、みんな生きなきゃいけないから、子供のために金を稼いで、ちょっとでも長生きできるように健康的なものを買っている。
     「ここで暮らす人達は、そんな生活をしている」ということを、宮崎駿は、割れっぱなしの窓や、下に放棄された車の山があるような、放射能でいっぱいのところに、放射能マークのついた車が飛び込むことで描いてるんです。
     とんでもないアニメ作っているんですよね、宮崎駿。
     つまり、『ナウシカ』の世界観を1つにまとめていると、僕は思うんです。
     『ナウシカ』の中では腐海というのを描いてて、そこから胞子が出てきて、周囲の土地ではすでに人間が住めなくなって、トルメキアとかペジテの人たちというのは、そんな腐海の菌に当たらないようにドームの中で生活している。風の谷の人たちは、腐海とともに生きることを選んだ、というふうに、すごい例え話として描いているんですけど。
     『ナウシカ』の連載が終わった瞬間に、宮崎駿は全力で「俺が例え話の中で描いたのはこういうことだっ!」というふうに、ドカーンと見せてくるわけですよ。
     この辺、やっぱりすごいなと思うんですけど。
     さっき「3人が地下都市から脱出したら、後ろに変な建物が見える」って言ったんですけど。
     この変な建物というのは、もうおわかりの通り、アメリカで、かつて史上最悪の原子力事故と言われたスリーマイルアイランド原子力発電所の排熱塔なんですよ。
    (パネルを見せる)

    nico_191208_13314.jpg
    【画像】スリーマイルアイランド 東京新聞 2019年4月7日 朝刊

     これが何本か建っているんですけど。これって、アメリカ型原子炉なんですね。つまり、このアニメには、アメリカ型の原子炉とソ連型の原子炉の両方が出てくるんです。
     この2人がドーム都市から逃げ出すと、後ろに原子炉の塔がいっぱいある。これって何かと言うと「ソ連型の原子炉というのが事故を起こして、地上に人が住めなくなっている。じゃあ、彼らの暮らすドーム都市はどんなものかと言うと、彼らの都市もやっぱり原子力で電気を作っていた」と。
     「彼ら自身も、残ったアメリカ型の原子炉で生きていたんだ」というのが、この排熱塔のカットでわかるわけですね。
     本当にね、けっこうブラックな話をやっているんですよね。
     で、最後に少女が、真っ暗な空に飛んで行く寸前に、後ろにビルが見えるんですけど、よく見ると、他に石棺が2つも見えるんですよね。
     石棺が2つ見えて、その向こうには、廃墟となった新宿のビルが崩れているんです。
     実は、チャゲ&アスカが飲んでいるシーンも、絵コンテを見ると「高円寺の居酒屋」って描いてあるんですけど(笑)。
     つまり、あれって日本の、それも東京の話なんですよ。東京の周りにあった原子炉が、全部爆発して、事故を起こして、人が住めなくなったので、地下都市に住むことになった。そんな地下都市を逃げ出すと、その向こうには廃墟となった新宿のビル群があって、その後ろには、やっぱり事故を起こした原発がいっぱい並んでいるという、とんでもない話で。
     まあ、本当はね、宮崎駿がやる気になったら、この映像が流されるコンサート会場をそのまま舞台にしてたと思うんですけど。そこまではやらなかったんですけどね。

    ・・・

     もう少しだけやらせてください。あと5分くらいで終わります。
     じゃあ、なんで、このお話の主人公のチャゲ&アスカは、こんな放射能にまみれた危険な世界に女の子を放すのかと言うと。やっぱり、ここに秘密があるんですよね。
     新興宗教のビルから助け出された女の子は、密封されてるじゃないですか。放射能防護服を着た人がこの女の子を密封しているということは「この女の子自体が放射能を持っている」ということなんですよ。まあ、ゴジラのような生物なわけですね。
     さらに、この後、女の子を乗せて飛んで行く飛行機にも、こういう放射能マークが描かれている。
     つまり「この女の子自体が放射能にまみれて生きていて、生きているだけで放射能を撒き散らすような生き物だ」と描いてあるんですね。「生きているだけで周囲に放射能を吐き散らすような、ゴジラのような生き物だ」というふうに描かれている。
     なので、このアニメの最後「そして僕らは~♪」と終わるシーンでは、そして僕らはどうなったのかと言うと。
     もう、死んじゃうわけですよね。
     だって、外へ出るだけで即死するような、放射能にまみれた世界に行っちゃったわけだから。
     この女の子は放射能のあるところでも生きていけるんですよ。逆に言えば放射能がないと生きていけないような生物でしょう。でも、チャゲとアスカは普通の人間ですから、そんなところにオープンカーで行っちゃったら、その先に待つ運命は死しかないんですよね。
     だから、カメラがどんどんロングになっていく時に、この自動車は道から外れて停まってしまうんです。これは「この2人の旅はここで終わる」という暗示なんですね。
     もし、そうでなかったら「女の子はどこまでも飛んでいって、チャゲ&アスカの乗った車も消えていく」というエンディングにするはず。映像作家だったら、絶対にそうするはずなんですよね。
     見ている人間に誤解を与えないために。「2人は車で逃げて、ひょっとしたらどこか別の街へ行くかもしれない。でも女の子は空へ空へ消えて行ったんだよ」という見せ方が、ハッピーエンドの見せ方なんですよ。
     でも、2人の車は停まってしまう。それも、道を外れたところで、なんか不思議な感じで停まっちゃっている。これは「この2人は、たぶん肺から血を吐いて、その場で即死している」という意味だと思います。
     こういう「天使は雲の上へ行けて、この2人や、残りの人類は雲の下で死んで行くんだ」というお話をやっているんですけど。
     では、そもそも、じゃあなんでチャゲ&アスカは警察に追われているのか? 女の子を助けて逃げ出した時、何十機ものヘリコプターみたいなパトカーに追われてましたよね?
     なぜ、こんなにも追われているのかと言うと、彼らは女の子を取り戻したいからですね。別に、チャゲ&アスカを捕まえたいわけではなくて、女の子を取り戻したい。
     取り戻したい理由は、「あの女の子の生命の秘密を知りたいから」ですよね。「放射能の中でなぜ生きられるのか?」というのを、解剖してまで秘密を知りたいんだと思います。
     この女の子って、翼を持った生き物だから、「天使だ」という解釈もあるんですけども。この後、詳しく説明しますけども、そんなわけないんですよね。
     あの女の子は、『風の谷のナウシカ』の原作版に出てくる人工生命との繋がりで登場させているんです。というか、この話全体が、実は『ナウシカ』の前日譚なんですね。
     『風の谷のナウシカ』というのは、火の七日間戦争という終末戦争によって、歴史的な文章とか公式記録みたいなものが全て消失して、その後に、人々が言い伝えの中で生きている世界なんですけど。
     本当は、どんなことがあったのかと言うと、この世界があったんですよ。『ナウシカ』の前にはこの世界があって、女の子が1人、逃げて行った。その女の子には翼が生えていた。
     そういう話が、歪んで歪んで伝わった結果、風の谷の不思議な伝説になった。こういうふうに考えると、わりと辻褄が合うんです。
     宮崎駿は、腐海とか巨神兵というのを全て例え話として出していて、「では、本当はどんなことがあったのか?」というのを、『ナウシカ』の連載が終わった後で、このアニメの中でちょっと描いているというような感じだと思います。

     つまり、あの女の子自体が、わりとこういう存在なわけですね。
    (パネルを見せる 『風の谷のナウシカ』より)

    nico_191208_14117.jpg
    【画像】『ナウシカ』のタペストリー © 1984 Studio Ghibli・H

     「人々がドーム都市の中でバタバタと死んで行ったんだけど、その外には救いがある」というような。このタペストリーは、トルメキアやペジテみたいな地下都市を描いたように思われているんですけど。
     一応、ここで悪意その2の「放射能」というのを終わります。


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