岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/12/25

 今日は、2019/12/08配信の岡田斗司夫ゼミ「宮崎駿の最高傑作『On Your Mark』解説[前編]」からハイライトをお届けします。


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 では、レベル1に行きましょう。
 ええと、しょっぱなからこれなんですよ。
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【画像】タイトル © 1995 Studio Ghibli

 始まった瞬間に「ジブリ実験劇場」というタイトルが出てきます。こんなのが出てくるのは唯一なんですね。他の作品では、こんなタイトルは出てきません。
 無音で5秒間、「ジブリ実験劇場」というのがドーンと出て、それからイントロ開始です。
 「タタラーン、タンタン~OHOHOH~♪」というコーラスが掛かる中、草原が映ります。
 腐った鉄条網があります。美しい自然なんだけど、なんか立ち入り禁止な感じで鉄条網がある。それがもう腐ってて、後ろには不気味な建物が見えます。
 その次が……超デカいフリップになるんですけど。
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【画像】町と巨大な建物 © 1995 Studio Ghibli

 右端からカメラのフレームが左に行くと思ってください。画面がこういうふうに流れて行くんですけど。
 破棄された町、人気がない町が見えて、その後ろには、すごく巨大な真っ黒な建物があります。
 ここまで行って、やっとタイトル。
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【画像】『On Your Mark』タイトル © 1995 Studio Ghibli

 「On Your Mark CHAGE&ASKA」というのがドーンと出てきます。
 「巨大なトラックの運転席に、チャゲとアスカが乗っている」という、まあ、こういうシーンのタイトルです。

・・・

 ここでイントロが終わって、「ドンドンドンドン~♪」とドラムスが入った瞬間に、ここまでの、のどかな風景とは真逆のシーンが始まります。
 いきなり「POLICE」と書かれた飛行機が何機もフレームインしてきて、こいつらが急降下して行くんですね。
 そのままトンネルに突っ込みます。
 猛スピードでトンネルに突っ込んでいく。ドラムスが入った瞬間に、すごくスピーディーな映像になるんですよ。
 このトンネルを抜けると、いきなりメッチャクチャ怪しいビルが建ってます。
 「GOD IS WATCHING YOU(神はお前を見ている)」とか書いてあって、この目が開いたり閉じたりしてるんですね。
 このビルに向かって、一直線に飛行機が突っ込んで行きます。
 そして、ドーンとこのビルの窓をぶち破って、さっきの飛行機が突入していくんですけど。
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【画像】ビルに突入する飛行機 © 1995 Studio Ghibli

 ここまでがイントロなんですね。歌が始まる前の「ターンタンターン~♪」という音楽だけの部分ではのどかな田園風景を見せて、「ドンドンドンドン♪」というドラムスで飛行機が急に何機も怪しいビルに飛んで行き、バシャーンと突っ込んだ瞬間に、「そして僕らはいつもの笑顔と~♪」という歌が始まる。
 この歌が始まるタイミングが、超カッコいいんですよ。
 「そして僕らはいつもの笑顔と姿で~♪」という歌詞で、バーンと突っ込んで行って、銃撃戦が始まるんですけど。この銃撃戦が、もう本当に完全に訓練された動きなんですね。

・・・

 警察じゃなくて彼らは軍隊なんですよ、もう本当に。
 で、「いつもの笑顔と姿で~♪」という歌詞のところで、いきなり銃撃戦を始めます。
 それに対して、ビルに立てこもっていた新興宗教側は防戦一方です。破壊力が違う。火力が違う。警察の方は爆弾を使っているわけですね。
 なぜ警察の方がガスマスクつけているのかと言うと、突入する時に毒ガスを使うからですね。警察の側は「毒ガスを使う」という前提で突入していて、新興宗教の側はそういう防備を持っていないから、どんどん押されていくわけです。
 この「埃にまみれた服を払った~♪」って歌詞、すごいでしょ?
 「そして僕らはいつもの笑顔と姿で」というのは、「彼らにとってはこれが日常だ」ということなんですね。彼らにとっては、この人殺しが日常の世界。
 そして、「埃にまみれた服を払った」って、これ、埃じゃないんですよね。「血を払った」って意味なんです。「返り血の付いた服を着替えるのが日常だ」と。
 これは、オウム真理教のサティアン事件とかが起こる前に作られているんですね。だから、宮崎駿は、そういう事件を参考にして作ったのではなくて、完全に自分の想像だけで、「未来の社会」ということはないんですけど、「自分が描きたい世界はこれだ!」というふうに描いているんですよね。
 で、「埃にまみれた服を払った、OH~♪」という、「OH~♪」という部分で、爆発がバーンと起こる。
 この、音と絵の合わせ方も見事です。「そして僕らは~♪」という歌が始まった瞬間に突入が始まって、歌の間の「OH~♪」という小さいシャウトのところで爆弾が爆発して、爆炎がブワーッと右から左へ広がっていく。メッチャクチャカッコいいんです。

「この手を離せば音さえたてない~♪」というところで、このビルの周りに、空中を飛ぶパトカーが10機以上飛んでいる。
 これで、このビルが完全に制圧されたというのがわかります。
 ここまでを一気に見せるわけです。なかなかすごいんですよ、このアニメ、本当に。

・・・

 で、「落ちていくコインは~♪」ってところで映るのがこれです。
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【画像】死んだ女の子 © 1995 Studio Ghibli

 これね、「死んでる女の子」なんですよ。武装集団のカルト教団って、僕らはついついオッサンばっかりって考えるんですけど、そんなことないんですよ。こんな幼い女の子が、大人向けのダブダブの信者の服を着ているんですね。大人の服しかないから。
 でも、そんな年端も行かない女の子に対してまで、生きているか死んでいるか確かめるために、持ち上げて、顔から落とすんですよ。落としたら、動かないんですけど。
 そんなシーンのバックに掛かっているのが「落ちていくコインは二度と帰らない~♪」という歌詞。もう、チャゲ&アスカは、そんな意味で全く書いてないのに(笑)。
 この「二度と帰らない~♪」という部分では、逆光の中、今の女の子と同じように、死体を1つずつ確かめている警官隊が映るんですね。
 もちろん「生き残りがいたら撃ち殺すため」です。そのために、こうやって死体を1つ1つ確かめていくんですけど。
 ここで、あえて逆光にしているのはなぜかと言うと「警察側の非人間性を見せるため」ですね。こういうふうに、逆光の中、入ってくる人間というのは、人間味がないように見えるんですよ。これを、あえてここではやってます。
 ここまで、実は一番最初の無音の状態から「OH~♪」という、スキャットから数えて、わずか90秒。歌が始まってからは40秒しかないAメロと言われるパートです。
 Aメロ、Bメロ、サビというふうに、J-POPの曲は進行するんですけど。そのAメロの40秒までで、「信者のビルに突入して、ほとんど全滅させて、死体を確認する」というところまで行くわけですね。
 流石の宮崎駿。
 「そして僕らはいつもの笑顔と姿で~♪」ということで、「これが彼らの日常だ」と。
 「埃にまみれた服を払った~♪」で、「血にまみれた服を着替えるのが、これが俺達の毎日だ」と。
 「この手を離せば音さえたてない~♪」については、ちょっとレベル2の方で説明します。
 で、「落ちていくコインは~♪」というところで、持ち上げた女の子の顔をゴトンと落とす。
 もともと、この『On Your Mark』というのは恋愛の歌であって、「この手を離せば音さえたてない、落ちていくコインは二度と帰らない~♪」というのは、失恋のことを指しているんですよね。
 どう考えても、チャゲ&アスカは恋愛の歌として歌っているのに、宮崎駿はそれをこんなに残酷な話に仕立て上げているわけです。
 これはたぶん、世界のアニメでも最も衝撃的な冒頭90秒だと思います。
 後の『エヴァンゲリオン』の25話とか、『Air/まごころを、君に』とかで描かれた、国連軍によるネルフの虐殺シーンというのは、明らかにこの1995年の宮崎駿の、わずか6分40秒のアニメから、すごく強い影響を受けているんです。
 だって、それまで、アニメでこんなシーン、誰も描いたことがなかったんですよ? 宮崎駿というのは、それを、よりによってチャゲ&アスカのPVで、それも冒頭の90秒でやっちゃうような、ちょっと頭のおかしいオジサンなんです。

・・・

 Bメロに入ります。
 「君と僕並んで~♪」というところで、やっと事件が起きます。
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【画像】主役の二人 © 1995 Studio Ghibli

 これは1分36秒のところなんですけど。奥の方に翼の生えた女の子が見えて、ここでやっとチャゲ&アスカ、主役が登場します。
 で、「夜明けを追い抜いてみたい自転車~♪」というBメロの後半に入ります。
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【画像】翼のある女の子 © 1995 Studio Ghibli

 「ここで女の子を確かめると、実はその女の子の背中に翼が生えてたんだ」と。ここ、大事なシーンですから覚えておいてくださいね。
 さっきのAメロは40秒あったんですけど、Bメロの方は10秒くらいしかないんですよ。
 Bメロは、Aメロで描いた残酷な世界に対して、そこに起きた小さい奇跡を描いてるんですね。
 「教団ビルの奥に翼が生えた少女がいた」と。「その翼の生えた少女が酷い目にあってる」と。では、宮崎駿が言う酷い目とは何か? 「それは人間性の否定だ」と。
 「まず、鎖だ」と。鎖に繋がれている=酷い。「そして、コカ・コーラを飲まされている=酷い」という(笑)。
 宮崎駿のコカ・コーラ嫌いというのは、僕も知ってたんですけど。宮崎駿の言う酷い扱いというのは「鎖で繋がれて、コンクリートに寝かされて、そしてコカ・コーラを飲まされている」なんですよね。
 もう本当に、『空飛ぶゆうれい船』という昔のアニメ見てください。そこではボアジュースという名前で隠してるんですけど、「世界中の子供達がコカ・コーラを飲んでいるおかげで、我々は怪物に支配されていて、脳が溶かされていく」というメッセージが、メチャクチャ強く入ってて。宮崎駿というのは、あの頃から無茶する人だったけど。ここでは「コカ・コーラ」っていうブランド名まで書いちゃってるという。
 まあ、「何て酷い拷問に遭っているんだ!」というふうに、宮崎駿は言っています。

・・・

 ここから、サビに入ります。
 「夜明けを追い抜いてみたい、自転車、OH YEAH~♪」となったら、急にオープンカーで走るシーンになるんですね。
 黄色いオープンカー。アルファロメオ・ジュリエッタらしいんですけど、僕は詳しくないのでわかりません。
 ここはね、わりと明るいシーンなんですよ。つまり、これからの予想。「これから、こういうお話になりますよ」というふうに、みんなに期待や希望を見せるシーンですね。
 そして、「On Your Mark~♪」というサビに入ります。サビの1回目は明るい希望です。
 「On Your Mark、いつも走り出せば~♪」というところでは、チャゲが立ち上がって、女の子が翼を広げて空を飛ぼうとするシーンですね。
 この時、女の子はちょっと不安そうにしているんですよ。「私、飛べるかしら?」と。それに対して、チャゲが「できるよ!」と励ますシーンです。
 こんな感じですね。「私飛べるかしら?」と不安になっている時に、チャゲが「できるよ!」と言って、腕でぐっと押し上げて、女の子がちゃんと飛ぶ。なかなかいいシーンなんですけど。
 このシーンが終わったら、パッと現実に戻るんですね。
 この現実への戻るところで、歌詞が「On Your Mark、いつも走り出せば~♪」の次の、「流行りの風邪にやられた~♪」になるんですよ。
 つまり、歌のサビが「やろうとしたんだけど、ダメだった」という歌詞になっているんです。この「ダメだった」という歌詞の部分で、急にポッと現実に戻されるんですね。
 つまり、この青空の部分は、現実には存在しない場面なんですね。
 この女の子を見つけた瞬間に、「ああ、きっとチャゲ&アスカが、この女の子をこんなふうに開放してあげるんだ」と、見ている観客側に期待させるようなシーンだと思ってください。
 まあ、「自分達が憧れている黄色いイタリア車に、こんな可愛い女の子を乗せて、外の世界に離してあげる。そんな良いことが、俺達にも出来たらな」という、2人の願望だと思います。
 冒頭からすごく暗くてエゲツないシーンが続いているので、「でも、最後はハッピーエンドに向かう映画なんだ」と期待させるわけですね。
 しかし、そこで「走り出せば、流行りの風邪にやられた~♪」ということで、ちょっと現実に戻されてしまうわけです。

・・・

 サビのリフレインです。
 「On Your Mark~♪」という中で、女の子を抱っこして、2人は走って行きます。
 周りに、逮捕されてる人みたいなのが一切いないことに注目しておいてください。これはレベル2で説明します。
 「On Your Mark 僕らが、それでもやめないのは~♪」というところで、チャゲが女の子に水を飲ませると、女の子は、なんとか口を開いてゴクゴク飲んで、2人はちょっと安心したような微笑みを見せるわけですね。
 もう本当に、みんなが見たことないアニメ、それもPVを説明するのは大変なんですよ。俺、歌いながら説明してますから、かつてないほど喉がガラガラになってるんですけど。
 「それでもやめないのは~♪」というところで、女の子が救急隊員に助けられるんですけど、「夢の斜面見上げて~♪」という時に、かなり厳重にパッケージされるんですね。
 女の子が防護服を着たやつらに囲まれて、袋に詰められて、いきなりジッパーを上まで上げられて、さらにその上から黄色いフードみたいなものを被される、と。なんか、エゲツないほど厳重に警戒されているわけですね。

 で、「病気なのかな?」と思ったら。
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【画像】女の子を乗せた飛行機 © 1995 Studio Ghibli

 「夢の斜面見上げて~、行けそうな気がするから~♪」というところなんですけど。女の子が飛行機に乗せられて、ドアが閉まると、この不気味なマークが描いてあるんです。
 「良いことをしたつもりなのに、なんかあの女の子、まるで実験動物みたいな扱いを受けている。なぜだ?」というふうに、チャゲ&アスカは、やるせない気持ちになります。
 それでも2人には、仕事があるから、もう一度、仕事に戻らなければいけない。
 チャゲに預けていた銃を受け取って、仕事の現場に戻って行きます。
 ここまでが1番。Aメロ40秒、Bメロ10秒、サビがあって、このサビが終わるところまでで、2分40秒くらいですか。これで、ようやっと一番が終わります。

・・・

 ここから間奏に入ります。「チャーンチャンチャン~♪」という間奏に入るんですけど。間奏のところは、2人とも、やさぐれてるんですね。
 「そして僕らは~♪」の、「そして」のところで、コップを持っている手を「ガタン!」というふうに、テーブルに置く。このコップの音と同時に「そして僕らは~♪」というふうに歌が入るんです。
 もう本当にね、世界中のPVを作る人が全員、宮崎駿みたいに上手ければいいのにと思うんですけども。
 「助け出した少女は病院に運ばれたんだけど、温かみを感じない。これでいいんだろうか?」と。
 この「これでいいんだろうか?」という悩みが、実は、少女を乗せたヘリを見送る秒数に表れているんですよ。さっきの屋上でヘリを見送っているシーンって、8秒くらいあるんです。かなり長いです。6分40秒しかないのに、8秒近くも見送っているシーンがあるんですよ。
 それは「この2人の心に、何かが引っかかっているから」であって、そんな心に引っかかっていることをそのままにしちゃったので、ここから2人は延々と悩むことになるわけですね。
 安酒をカウンターにドンと置いて、「そして僕らは、心の小さな空き地で~♪」というところで、2人でやさぐれて酒を飲んでいます。
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【画像】酒を飲む二人 © 1995 Studio Ghibli

 絵コンテによると、ここでチャゲが食べているのは「山芋の千切りを酢漬けにしたもの」なんだそうですけど。
 「女の子を助けたんだけど、なんか割り切れないよな、俺達」と言っている。

・・・

 この後、ちょっと不思議なシーンになるんです。
 丸窓の外から見たアスカが、「互いに振り落とした~♪」というところで、何かを操作をしている。つまり、計画が始まっているんですね。
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【画像】機械を作るチャゲ © 1995 Studio Ghibli

 「言葉の夕立~♪」といういうところで、チャゲはチャゲで、何か怪しげな機械を作り始めている。ハンダ付けをしているわけですね。
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【画像】パソコンとアスカ © 1995 Studio Ghibli

 「答えを出さない、それが答えのような~♪」というところで、アスカの方はパソコンを操作してハッキングみたいなことをしています。
 で、ハッキングしているアスカが、「おっ成功!」って、さっき変な装置作ってたチャゲもそこに仲間として入ってくるんですね。
 たぶん、「2人はあの女の子を助ける道筋というか、システムを騙す方法を見つけた」というのが、ここまでの話になってくるわけです。
 つまり、間奏があって2番に入って、Aメロの間は「あの女の子を助けたい!」ということで、手短かに2人が計画して、その準備が出来たというところを描いているわけです。

・・・

 ここから、やたら早いんですよ。
 いつの間にか、2人とも歩きながら、防護服をちゃっかり手に入れて。「それが答えのような、針の消えた時計の文字を読むような~♪」ということで、いつの間にか防護服を着ている。
 後ろには、「さあ、皆さん、読んでくださいよ?」という感じで、あのマークが出てるんですね。
 そして、施設の作業員の防護服の口の部分から中にガスを注入する。
 チャゲがさっき作ってた装置はこれなんでしょうけど。「ガスで殺す」わけじゃないんですね。この防護服をパンパンに膨らませて、動けなくする。
 まあね、かなりコミカルになってくるんですよ。さっきまでの残酷な描写がまるで嘘だったかのように、急にコミカルになって、女の子の検査をしている作業員たちを次々と倒すわけですね。
 「君と僕全てを~♪」というBメロに入った頃には、この部屋の全員をさっきのガスで丸々と太らせて、奥の真っ赤な部屋に入って行きます。
 ここら辺はメッチャ段取り良く進むんですけど。これってコメディなんですね。ちょっと笑わせて安心させようというようなシーンです。
 奥に入ると、制御室らしき場所にはレーザー光線が走ってて、もう、バリアというか、センサーがいっぱい張ってるわけですね。
 「君と僕 全てを認めてしまうにはまだ若すぎる~♪」という部分で、チャゲが、さっきハンダ付けして作っていた装置で、このレーザーセンサーをオフにして。
 もう本当に野蛮に上に登って登って、登って登ってって猿みたいに登って、それでこの女の子を助け出すシーンになります。
 ここ、歌詞は書いてないんですけど、2人の「OH YEAH~♪」のところです。
 Bメロが鳴って、「認めてしまうにはまだ若すぎる、OH YEAH~♪」というところで、2人が女の子を抱えて走ってくる。まあ、この辺りは、ルパンぽいコメディだと思ってください。
 「On Your Mark~♪」とサビに入ると、2人は防護服をどんどん脱ぎながら逃げていきます。
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 チャゲはついつい笑っちゃってます。女の子は、まだ包まれたままですね。
 「いつも走りだせば~♪」というところで、2人はトラックに女の子を無理矢理詰め込みます。
 トラックのタイヤがギュルギュルっと回転して、トラックのタイヤが遠心力で膨れ上がるシーンを入れて、このトラックが動き出すんですね。
 まあ、まだまだルパンなんですけど、この辺りから全体的にアクションカットに入ります。

・・・

 で、トラック走り出します。
 「流行りの風邪にやられた~♪」というところで、トラックが外に出ますね。
 次は、またデカいパネルなんですけど。
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【画像】ドーム都市 © 1995 Studio Ghibli

 これは、トラックが逃げていくシーンなんですけど。「On Your Mark~♪」というサビの2回目のリフレインでは、下から上に向かってカメラがパンアップして行きます。
 この都市自体が、実はドーム都市で、地下にあったということがわかりますね。
 2人は地下都市から逃げて、道伝いにどんどん上へ登っていって、その果てに地上がチラッと見える。ここで「彼らは地上へ向かっているんだ」ということがわかるんですけども。
 この一番上に飛んでいる、なんか小さいゴミみたいなやつ。これ、警察のヘリなんですね。だから、上まで行けば逃げれると思ったら、上から、一番最初に教団を襲っていた、警察のヘリコプターみたいなロケット機みたいなやつが、何十機も襲ってくる。降り注いでくるという。
 まあまあ、ワンカットで、かなりのアクションを説明しているんですね。
 これは、「僕らがこれを無くせないのは~♪」という歌詞のところです。
 上から警察の飛行機がどんどん降りて来るところなんですけど、実はこれ、かなり怖いんですよ。この迫って来る飛行機が、わりと強くて、コックピットの中の人も見えるくらいクローズアップになるくらいまで降りて来て、上から押し潰すように2人が乗っているトラックを襲うわけです。
 これは2人の側からの視点です。2人が運転席にいて、その間に女の子がいるんですけど。お腹に回転式のパトランプがついているヘリコプターみたいなパトカーが上から襲って来ています。自分達の体重でこのトラックを止めて、グーッと押し込んで壊そうとしてくるわけですね。
 「夢の心臓めがけて~♪」というところで、アスカが「もうこうなったら!」ということで、ヤケクソでアクセル踏んで加速します。そうやって、なんとか飛行機をやり過ごそうとするんですけども。
 「僕らと呼び合うため~♪」というところでは、チャゲはずっと女の子を抱きしめています。
 で、上から飛行機に押しつぶされて、どんどん高速道路が壊れていく。
 いわゆる『ラピュタ』みたいな感じですね。
 その結果、飛行機が壊れてドーンと爆発しちゃって、このトラックは、高速道路から落ちてしまうわけですね。飛行機に衝突して道路が崩壊します。
 で、トラックが落ちていくんですけども。
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【画像】落下するトラック © 1995 Studio Ghibli

 4分18秒。トラックが落ちるところまでで、サビが終わるんですね。
 ここから「チャーンチャンチャン、チャーンチャンチャン~♪」という、かなり長い間奏が始まります。1回目のサビで流れたのは「閉じ込められていた女の子を大空に救出する」という、いい感じの映像だったんですけど、2回目のサビでは、まあ後半の逆襲部を強調するための失敗シーンなんですけど、「見ろ! この見どころ満載の映像を!」というふうな感じで、見どころをいっぱい入れてます。

・・・

 かなり長い25秒続く間奏の間、この自動車がゆっくりと落下していく。
 しかし、落下していく運転席から、チャゲとアスカが、女の子だけを外へ逃がそうとしているのが見えるんですね。この辺が見どころなわけなんですけども。
 女の子を逃がそうとして、一生懸命、アスカが「飛べ! 飛べよ!」って言うんですけど、女の子はなかなか飛ばないんですね。チャゲの方も、「頑張れ、頑張れ、飛べ!」と言っている。
 これね、無音シーンでやっているから、なかなか良いんですよ。サイレント映画みたいに、曲が流れているだけで、セリフは一切なしでやっているから、この2人の優しさみたいなものが伝わってくるんですけど。「俺達のことはいいから、飛べ!」って言うんですね。
 だけど、この女の子は手を離せないんです。
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【画像】手を離せない女の子 © 1995 Studio Ghibli

 手を離せなくて、「ダメ、ダメ」と言ってるんですけど。なんで、こんな構図になるのか? 女の子が落ちて行く時に顔の方向が変わるのかと言うと、僕がよくニコ生で話す上手・下手進行なんですね。
 つまり、女の子が画面左(下手)を向いている場合、彼女は「状況を進める側」なんですよ。でも、女の子が画面右(上手)を向いている場合は「状況を止める人」になっているという意味なんですね。
 だから、落ちて行く時、最初は下手を向いているんですけど、落ちる最中に方向がゆっくり変わっていくというのは、この女の子が一生懸命、落ちないように止めようとしているということを表現しているんです。
 それをセリフなしで表現するために、あえてここでは女の子の方向を変えることをやっているんですね。でも、女の子は羽ばたいて2人を引き上げるわけではない。この謎はもう少し後で説明します。
 こういうふうに、映像というのは、カメラ位置とか俳優さんの向きで文法を作っていくようなものなんだというのを、ちょっと覚えておいてください。
 チャゲとアスカの2人で、「俺達のことはいい! さあ、手を離して、お前だけでも飛ぶんだ!」と言うんですけど、女の子は手を離せないわけですね。
 そのまま残酷に、女の子と2人は、どこまでもどこまでも奈落の底へ落ちていくわけです。
 最後、もう本当に、このまま画面の底の底までビューンと小さくなるまで落ちて行くんですね。見えなくなるまで落下します。もう、これは絶望という感じです。

 この間奏部分が、メチャクチャ上手いんですよね。
 歌詞がないからというのもあるんですけど、2人は、とにかく女の子を助けようとするんですけど、助けることが出来ない。なぜか、羽ばたいたりもしない。果てしなくトラックは落ちて行くんです。

・・・

 ここで終わりかと思ったら、シャウトが入るんですね。「そして僕らは~♪」というのが入って、サビの3回目に入るんですよ。
 Aメロ、Bメロ、サビ1回目と来て、また2番のAメロ、Bメロ、サビ2回目と来た後で、長めの間奏が入り、「そして僕らは~♪」というシャウトが入ったかと思ったら、もう一度、サビの3回目が入る。
 サビの3回目が入るとどうなるのかと言うと、いきなり最初の方に時間が巻き戻るんですね。
 もう一度、虐殺のシーンが出てきて、「On Your Mark、いつも走り出せば~♪」と、女の子を助け出すシーンが、なぜかもう一度入るんですよ。

 で、次に、「走り出せば~♪」で、女の子が空へギューンと飛んでいくイメージ。
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【画像】空に昇っていく女の子 © 1995 Studio Ghibli

 羽の色が銀色に光るくらいの高い空まで飛んでいく、と。
 あの、これを「マルチエンディング」みたいな言葉で説明する人も多いんですけど、ちょっと違うんですよ。
 宮崎駿は、マルチエンディングという発想をする世代の人ではないんですよね。マルチエンディングでもないし、エンドレスエイトでもありません。そういう時代の作家ではないんです。もっと意図があるんですね、明らかに。
 で、また抱えて逃げるシーンが繰り返されて、「流行りの風邪にやられた~♪」ということで、トラックが墜落するシーンが入ります。
 で、「また同じか?」と思ったら、ここで、なぜかいきなりトラックのあちこちからロケット噴射が始まって、「僕らがそれをやめないのは~♪」ってなった瞬間に、トラックが空を飛んじゃうんですよね。
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【画像】ロケット噴射するトラック © 1995 Studio Ghibli

 飛んじゃうどころか、上昇を始めるんですよ。
 絵コンテ見たら「根性で飛ぶ」と書いてあって(笑)。もう本当に根性で飛んでる感じですね。
 「夢の斜面見上げて~♪」で、どんどんトラックが地下都市を上昇して、上の方の、人が住んでいる近くにドカーンと突っ込んでしまうわけですね。
 最上階近くまでロケット噴射で上がっていって、突っ込んでいくわけです。
 「行けそうな気がするから~♪」で、貧民街みたいなところのドアを2人で開けて、ようやっと、女の子をお姫様抱っこして逃げるわけですね。
 この辺も、ルパンとかのコメディのノリです。
 このサビの3回目は「時間が巻き戻ってやり直し」な感じです。
 絵コンテを見たら「永劫回帰が始まる」と書いてあるんですけど。この永劫回帰の意味は、後で語ります。
 こんなふうに、またダメかと思ったら、トラックからロケット噴射が始まって、一気に脱出に成功します。

・・・

 ここから先は、ハッピーエンドじゃないかと思われるシーンです。
 この後、またもう1回サビなんですよ。「そして僕らは~♪」で、急に2人は高級スポーツカーに乗って、トンネルを走っているんですよね。
 で、「On Your Mark、いつも走り出せば~♪」のところで、「注意阳光(日の光に注意!)」、「不保障生命!(命の保障はしない!)」という看板を無視して走り続け、やっとトンネルを抜け出して逃げ切ります。
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【画像】注意阳光の看板 © 1995 Studio Ghibli

 すると、外の世界には不気味な建物がいっぱいあって。
 ここでは3人とも、脱出できてニコニコですね。まるで、気持ちのいいハッピーエンドみたいに見えます。
 トンネルを抜けて外へ出ると、また、遥か向こうの方に、例の黒い不気味な建物が見えているんですね。
 「流行りの風邪にやられた~♪」のところで、「EXTREME DANGER(命の危険があるぞ!)」という注意灯が流れます。
 で、また「On Your Mark~♪」とリフレインになった瞬間に、また一番最初と同じ、無人の町が広がって不気味な黒い建物があるという風景が映ります。
 ここでようやっと、「僕らがこれを無くせないのは~♪」というところで、女の子を励まして、「さあ、空へ飛びなさい」というシーンですね。
 一番最初から予言されていたシーンに、やっと繋がるわけですね。
 「夢の心臓めがけて~♪」ということで、最初のイメージではチャゲから押されるように飛んでいたのが、ここでは女の子が自分から飛びます。
 チャゲの手を握っています。後ろにはですね、この不気味な建物が見えたままですね。
 で、この「僕らと呼び合うため~♪」という時、女の子のちょっと違う表情。
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【画像】なにかに気づく女の子 © 1995 Studio Ghibli

 絵コンテには「少女、何か覚醒する」と書いてあります。何かにハッと気がついて、下のチャゲ達を優しく見下ろします。
 そうすると、アスカはイケメンでウィンクして、チャゲは女の子の手の平にキスをする。
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【画像】キスをするチャゲ © 1995 Studio Ghibli

 キスが手の平の側だということだけ、これは伏線になっていますから、覚えておいてください。
 この女の子は、このまま空を飛びます。
 絵コンテを見ると「雁行」と書いてあるんですよ。雁行というのは何かと言うと、「いくつもの空を飛ぶ生き物が、追いつ追われつつして飛ぶ様」なわけですね。この自動車を追い抜いたり、また自動車が追い抜かれたりしながら、この少女が飛んで行く様。これが雁行ですね。
 少女が上昇していくと、その彼方に町が見えて。で、少女はそのまま青空へ飛んで行けばいいんですけども、ちょっと意地悪なことに、真っ暗な雲が一瞬入るんですね。
 雲が、白じゃないんですよね。真っ黒な雲が一瞬だけフレームインして、「この女の子が行く場所は、希望がある青空じゃないぞ」というのを見せるんですけど、その後は、見ている人間にそれをさっさと忘れさせるように、メチャクチャ綺麗な白い雲と青空を見せる。
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【画像】青空の女の子 © 1995 Studio Ghibli

 そんなコバルトブルーの青空の中に、女の子がサーッと消えていく。

 チャゲ&アスカは、それを、手を振っていつまでも見送っていきます。
 良いお話に見えるんですよ。メチャクチャ上手いですよね。メチャクチャ上手い、良いお話に見えちゃうんです。

・・・

 女の子が、小さく小さくなるまでカメラが追いかけます。
 そして、サビも全部終わって伴奏だけの中、最後に「そして僕らは~♪」と小さく語るところで、チャゲ&アスカの車が止まる。
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【画像】上空からのスポーツカー © 1995 Studio Ghibli

 ここで、このお話が終わります。
 カメラはそのままずーっと引いて行って、2人の車が小さく小さくなるところで、フィルムが終わります。
 6分36秒です。ここから4秒くらいの黒みがあって、6分40秒でお話が終わります。

 今、話したのがレベル1です。すみません、1時間近くかかりましたけど。
 「女の子を助けて空に返す」というストーリーですね。
 天使の女の子は新しい世界の希望であって、彼女は飛び立つ時、まるで地球をこんなふうにしちゃった人類の愚かさを許すかのように微笑んでいる。
 失敗しても諦めちゃダメだ。時間を巻き戻して、何度でもチャレンジしてチャレンジして……というようなお話に見えるんですね。
 たぶん、チャゲアスのコンサートでこの映像が流れた時は、こういうメッセージだと思ったはずです。だって、チャゲアスが歌ってる後ろで流れている映像ですから。やっぱり、みんな、そういう肯定的なものだと捉えるはずなんですけど。
 これが「誰にでもわかるレベル1」です。こういう理解で普通は構わないんですけど、次はレベル2に行きます。


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