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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.23
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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.23

2013-12-25 21:00
         ***

     翌日、零次は力強い足取りで登校した。
     崇城に告白した……勇気を持って階段を駆け上がったその経験が、妙に彼を元気にさせていた。
     周囲には、昨日のテレビがどうとか他愛のないことを話す生徒たち。
     彼らが日常を送っている間に……自分は常識外の世界に触れてきた。
    「なるほどな……。ちょっと優越感があるかも」
     みんなが知らないことを僕は知っている! そう思うと、得も言われぬ高揚感が確かにあった。
     わけもなく広い秋空を見上げて、自分の置かれた状況を思う。
     何か特別なことをしろと言われたわけではない。普段どおりに過ごしていればいいらしい。
     年がら年中ビックリさせると豪語したメルティ。自分が動かずとも、あの魔女は勝手に何かしてくるのだろう。
     ただの娯楽で、メルティはそういうことをしたいという。
     彼女の娯楽に付き合ってやる。……一言でまとめてしまえば、ただそれだけの話なのだった。あまり難しく考える必要はないかもしれない。
     校門に差しかかったところで、憧れの美少女を見つけた。
    「おはよう、崇城さん」
     隣に並ぶと、崇城はチラッとだけ視線を寄越した。
    「……おはよ、深見くん」
    「今日もいい天気だね」
    「え、あ、うん……」
     たどたどしい返事だった。
     昨日の告白にまだ戸惑っている、くらいのことは零次にも察しがつく。
     ……これってもしかして脈あり? そんな考えは面に出さず、零次は彼女と一緒に歩くのを純粋に楽しんだ。
     昨日一昨日と、何かと怒ってばかりの崇城を見てきたが、すっかり距離が縮まったことも意味している。
     クラスで唯一、彼女の秘密を知っている。冷静な仮面の下に隠された、戦士としての熱い感情を知っている。
    「何を笑ってるの?」
    「いや、なんでも」
    「……あまり余裕でいられると、私が悩んでいるのがバカみたいじゃない」
     崇城は早足になって、先をすたすた歩いていく。あえて追いかけることはせず、魔法使いの常識に囚われないメルティに振り回される彼女の難しい気持ちを思いやった。
     週明けの教室は、暖かな雰囲気が充満していた。歓迎会を経たクラスメイト一同は、零次を真の仲間として迎えようと、誰もが笑顔を向けてくる。
    「深見くん、聞かせてもらおうじゃないか」
     席に着いたところで、すかさず御笠が話しかけてくる。はて、と零次は首を傾げた。
    「メルティちゃんを送っていったときのことだ。もしや部屋に上がらせてもらったり?」
    「ん、あ……と」
    「まさか本当に上がったのか! どうだった? 可愛らしい部屋だったか?」
     コクコクと頷く。あの思いっきり少女趣味の部屋は、強烈に記憶に残っている。数百年生きても、ああいうのが好きでいられるという感覚はよくわからない。
    「そうか、そうか。予想どおりだ。しかしうらやましい」
    「……そこまで先生のファンならさ、頼めばお邪魔させてくれるんじゃないの?」
     隣の崇城の顔を横目で窺いながら質問する。特に自分たちの会話に関心を傾けてはいないようだった。
    「いいや、俺たちファンは常に一歩引くのが務め。メルティちゃんのほうから誘ってくれない限りは、お邪魔させてもらおうとは思わないのだ」
    「なるほど」
     メルティが学校中に張り巡らせている誘惑の結界は、生徒たちをアイドルの熱烈な追っかけのように変えているが、決してストーカー的な欲望は抱かせないらしい。メルティのプライベートには絶対に立ち入ることがないのだ。だからメルティがそうしようと思わない限り、彼らに魔法の世界が露呈することはない。
     自分は……たまたま転校生で目立つ存在だったから「じゃあこの子でいいや」と気楽に選ばれた。そしてアクシデントでキスしてしまったことから、本気で興味を持たれてしまった。運命って何だろうと考えたくなってしまう。
     チャイムが鳴り、同時にちょこちょこした足取りで担任がやってきた。ブロンドを掻き上げ、得意そうに口端を曲げる。
    「おはようみんな! いやー、一昨日は楽しかったな。あんなに楽しかったのはホントに久しぶりだった。英気も養えたことだし、今週も頑張ろう!」
     自分だけに注がれているまっすぐな視線を、零次は唾を飲みながら受け止めた。
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