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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.24
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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.24

2013-12-26 13:00
         ***

     メルティは自分の娯楽のために零次を利用する。
     ならばこちらも、自分の恋のためにメルティを利用する。零次はそう計画していた。魔法の世界を知るというのも、それはそれで興味深いが、あくまでメインは崇城との繋がりを保つこと。
     利用する……という行いは、自然と罪悪感が生まれてしまうものだ。
     だがそれも、普通の人間相手の話。あのメルティなら、そんな気を遣う必要もない。数百年を生きた不老長寿の魔女……極端に言ってしまえば、化物みたいな人なのだから。何の遠慮もいらない。
     昼休みになると、零次はメルティを探した。廊下に出てすぐのところに、やたらと人だかりがあった。案の定メルティだった。
    「先生、今日は私と一緒にお昼を!」
    「いいや、ぜひこの俺と!」
     昼食の誘いを受けているようだ。零次は意を決してその中に飛び込んだ。
    「先生! お昼なら僕と食べてください!」
    「……おおお? 君のほうから誘ってくれるなんて思わなかったぞ?」
     メルティは本気で驚き、感動しているようだった。
    「悪いねみんな。今日はこの子と付き合うことにするよ! 転校生だから、優しくしてあげないと」
     落胆と羨望の声を聞きながら、その場を後にした。いったん教室に戻って弁当を手にしてから、屋上へ向かう。メルティはバッグを持ってきた。
    「なんだかんだ言って、私の魅力に少しずつ惹かれているんだね。嬉しいなあ」
    「……話があるんですよ。ランチはあくまでそれのついでです」
    「ふうん? 私も君に大事な話があるんだよ」
    「え? それじゃあ」
    「最初から私も、君を誘うつもりだったのさ。みんなが集まっている前でね。だんだんと私と君の仲を既成事実にする予定だ」
     頭が痛かった。
     扉を開き、青空の屋上へ出る。ベンチはすでにいくつか先客が使用していた。メルティは空いているベンチにちょこんと座り、零次にも座るよう手招きする。
     バッグから取り出された彼女の弁当箱は、零次も知っている有名女の子向けアニメのキャラクターイラストが描かれた、それは可愛らしい代物である。とことんその手の趣味で周りを固めているらしい。
    「君の弁当箱はなんだか無骨だな、銀一色で。でもこれはこれで個性がある」
     メルティはタコ足ウインナーを無邪気そうにもむもむ頬張る。零次は日常の象徴たる米を噛みしめる。やけに甘く、美味しく感じられる。
    「……とりあえず先生の話から先に聞かせてくれませんか?」
    「まず、今後もっとも大事なことは、何があろうと深見に危害が及ばないようにすることだ。私の都合で君を付き合わせるんだからね。交換条件として、私は君を守るための最大限の努力をする必要がある」
    「……」
    「ん? どうかしたかい」
    「いえ、すごくまともな考えで驚きました……」
     先日も言ってくれていたことで、これは素直にありがたいと思うべきなのだろう。この途方もない、高い実力を持つのであろう魔女が、安全確保はしっかりすると言ってくれているからこそ、彼女の遊びに付き合うのも、やぶさかではないという気になっているのである。
    「具体的には、何を?」
    「受け取ってほしいものがあるんだ」
     メルティは弁当箱を脇に置くと、バッグに手を差し入れる。
     取り出されたのは、妙としか表現できないものだった。
     見た目はソフトボールほどの球体なのだが、ふうわりと薄く青い光に包まれている。長く直視していると、頭がクラクラしそうな幻惑的な光だ。
    「マジックアイテム……ってやつですか? ほ、他の人もいますよ?」
    「心配いらないよ。一般人には認識されないような結界をかけてあるから。……これはね、私が制作してきたアイテムの中でも、特級とも言える逸品だ。体に埋め込むことで、その人に強力な自動防御システムが付加される。そしてあらゆる攻撃を無効化してしまうんだよ」
     どうやらこれを零次に埋め込んでやるということらしい。
    「そ……それはすごいですね。あらゆるって、本当になんでも?」
    「私の魔法力を超えるようなものでなければ、なんでもだ。それほどの使い手は、この世界にどれだけいるかな。だから絶対とは言わないが、九割九分は大丈夫と言っていいだろう。魔法攻撃だけでなく、物理的な脅威も取り除ける。さすがに核ミサイルは無理だけど、銃弾程度なら跳ね返せる。だからって試そうとしちゃダメだぞ?」
    「そもそも試せないでしょうが、そんなの……。しかしまあ、チートみたいなアイテムですね」
    「伊達に何百年と生きちゃいないってこと。不老の私は、衰えるということがない。そして長く生きてきた分、他の誰よりも魔法力と知識を蓄積してきた。だからこういうアイテムを作れたりするんだ。以上、説明は終わり。じゃあ埋めるね?」
     そのおかずちょうだい、みたいなのんきな物言いで、メルティは魔法の玉を零次の胸に押しつけた。
    「ま、待って。まだ心の準備が……うわ!」
     身構えたが、何の痛みも不快感もなかった。見る間に魔法の玉は自分の体内に沈んでいき……一瞬、ぶわっと血管が膨らんだような不思議な感触があった。
     はっきりとした異変はそれだけだった。魔力など何もない一般人の体に侵入した異物は、速やかに溶け込んでいったらしい。あまりにあっさりしすぎて拍子抜けする。
    「こ、これで終わりですか? 何か副作用があったりしないでしょうね」
    「大丈夫だよ」
     その大丈夫の根拠は説明されなかったが、信じるしかないのだろう。
    「さっそく、身をもって知ってみようか」
     メルティは足下に目をやった。言うまでもなく、ただのコンクリートパネルだ。
     零次はギョッとした。彼女は手に魔力のオーラを帯びさせると、コンクリートパネルを突いてバキッとひっぺがした。
    「そ、それで何を?」
    「君にぶん投げる」
     言うやいなや、メルティは零次から距離を取り、弓のように体を絞って思いっきり投げつけた!
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