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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.27
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オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.27

2013-12-27 13:00
    【幕間】

     すでに天は闇に包まれ、どこかの庭先から秋虫の涼しい鳴き声が聞こえてくる。東の空にはおぼろな半月が浮かんでいた。
     学校での一日の勤務――いや遊びを終えた小さな魔女は、弱々しい街灯に照らされる薄暗い帰路を、上機嫌に鼻歌を歌いながら進んでいた。
    「次の満月はいつだったかな。満月を眺めながら団子とお酒をたしなむ。うん、日本のイベントは実に風流でいいなあ」
     それを誰と楽しむか? 彼女の頭に浮かんだのは、やはり深見零次だった。
     ペットというと語弊があるが、メルティの彼に対する感情はそれに近い。
     完全に自分の手元に置いたうえであの少年を楽しませ、自らも楽しむ。上質な着物で身を包み、月光とも張り合えるほどの輝かしいブロンドを見せつけ、甘ったるい顔で団子をくわえたりすれば、きっと彼も幼女の魅力にメロメロに違いない。必ず興味を抱かせてやるぞと、のんきなことばかりを考えていた……。
    「む?」
     リラックスしきった彼女の顔が、真剣味を帯びた。丸い目がわずかに細まる。
     いつの間にか、挟まれていた。前方と後方に男がふたり、立っている。
    「おや、君たちはこの前の」
     前後を交互に見やりながらメルティは言った。一昨日の夜道で奇襲し、無残に失敗して逃げおおせた魔法使いグループの残党。メルティは記憶力に自信がある。一瞬だけ見た顔だがはっきり覚えていた。
    「この前のリベンジかな。そして今度は奇襲などせず真正面から? いいぞ、いつでも来るがいい」
     特に構えもせず、場所を移そうということもなく、メルティは誘った。
     襲撃者ふたりは、そんな彼女の余裕ぶりに笑った。
     それは……勝利を確信している者だけが浮かべられる類の笑みである。
    「――犬がお嫌いなんだってな? 《不朽の魔女》(エターナル)」
     前方の男がさっと腕を上げる。
     直後、急激に空から降下してくるしなやかな影があった。民家の屋根に隠れていたらしい。
     息を呑むメルティ。合計四匹の犬だった。
     腹の底に響くような唸り声。たったひとつの目的――狩りという目的を宿した強圧的な瞳。姿形は四匹とも異なるが、いずれもが猟犬として用いられている戦闘的な種に違いなかった。
     メルティが膝をついた。それを見て後方の男が感激の声を漏らす。
    「おお、魔力がグンと減っている……!」
    「君たち、なぜ私が犬が苦手だって……」
    「何か弱点はないかと、決定的なチャンスがないかと、貴様のことはずっと遠方から透視させてもらっていたのさ。先日は失敗したが……今日も昼間の屋上での会話、しっかり聞かせてもらった。あんなガキにあんな大事なことを打ち明けるとは、思いもよらなかったぞ?」
    「なんだと……?」
     前方の男が余裕ぶって両腕を広げ、解説を始める。
    「こいつらはな、知り合いから緊急に借り入れたものだ。魔力を少しずつ注入して強化した魔犬! 並の魔法使いなら簡単に噛み殺せるほどの強さを持っている。貴様自身が言っていたように、今の弱り切った貴様を抑えることなど、造作もないだろうよ」
     後方の男も、耳障りな言葉で続ける。
    「世界三大魔女に数えられる貴様に、こんなバカらしい弱点があったとはな。まあ悪く思うなよ? 弱点を突くのは戦いの常道だ」
     じり、と魔力を帯びた猟犬たちが近づく。メルティは跪いたまま身震いした……。
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