「棋界最強の大橋名人を倒す自信がないの? じゃあ何のためにプロを目指すの?」
【本格将棋ラノベ】俺の棒銀と女王の穴熊
電撃文庫の将棋ライトノベル『王手桂香取り!』の3巻が発売になりました。あまりに面白く一晩で読み終えてしまいました。今回も複数回に分けて感想を書いていきたいと思います。
第一局 未知との遭遇
憧れの桂香先輩とペアマッチ将棋大会に出ることになった歩くん。すでにトップアマと言える実力を持つ彼と、女子の中では指折りの実力者である桂香が組めば、怖いものは何もない!
……もちろんそんな単純な展開になりません。なんとアマチュア名人の一色なる人物が参戦しています。ペアを組む光原という女性も、アマチュア女流名人に輝いたことがあるという。思わぬ強敵の出現に、読者は激闘を予感させられるのですが……ここからのストーリー作りが上手いんですね。彼らは一回戦でいかにも平凡そうな親子ペアに負かされてしまいます。誰にも知られる実力者が、ダークホースに敗れ去る。王道といえば王道な展開ですが、やはりこういうのが面白い。
そのダークホースの正体とは、大橋名人と並び称される逢見聖位の弟子、栄村陽太。まだ小学二年生!(母親はアマ三段くらい)。そんな歳ですでにトップアマなんてことがあるのかと、疑問に思われる方もいるかと思いますが、そういう神童がいても全然おかしくないのが将棋や囲碁の世界なんですね。ちなみに、あの羽生名人が小学二年生の頃は、まだまだ将棋を覚えたてでした。
そして決勝戦は、栄村親子との対決に。
前巻の西本戦、これを上回る対局描写を実現できるのだろうかと勝手に心配していたんですが、まったくの杞憂でした。互角に進めていたはずなのに急転直下で劣勢になり、生きる道はないかと必死に悩む。これ自体は今までのパターンと同じですが、ペアマッチという特殊なシチュエーションが、緊迫感を増しています。なんとしても先輩と優勝したいと熱意を燃やす歩と、歩の読みを信じる桂香。ふたりの絆が素敵ですね。
さて、勝負の結末は……これは書かないほうがいいでしょう。ぜひ実際に読んで確かめてください。これまでを通じて、最高の戦いでした。駒娘たちも要所要所で、いい味を出していました。
決着後は、自然とプロ入りの話題に。陽太は言います。
何のためにプロを目指すのか。歩は考えさせられますが、これは現実の奨励会員や、すでにプロになっている棋士の心にも響くのではないでしょうか。
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