とはいえ有名建築家の作品は、別荘や個人住宅など予算が潤沢にある前提で建てられているものも少なくない。収益性・コストバランスが重視される賃貸住宅となると、なかなか見つからないのが現実だ。
そんな有名建築家の作品に住める賃貸住宅が東京のど真ん中、大塚にあるという。「Treform」と名付けられたその建物は、有名建築家3人がそれぞれ設計したN棟・E棟・W棟の3棟からなる賃貸の集合住宅。3人それぞれの趣向を凝らしたデザインが、どれも魅力的だ。
N棟の設計を担当したのは、ニューヨークで建築を学び、国内でもグッドデザイン賞をはじめとした多数の賞を受賞している小川晋一氏。
N棟は非常にクリーンな白い空間。一見設備などが何もない部屋に見えるが、浴室やエアコン、大容量の収納はすべて白い扉で隠されている。床暖房完備なので、シンプルな内装のクールな印象とは対照的に、冬でもあたたかく快適に生活できる。アクリルや金属など無機質でシンプルな家具を揃えても、グリーンを入れても映えそうな空間だ。
E棟は、過去には東京大学安藤忠雄研究室の助手を務め、日本盲導犬総合センターなどの有名建築の設計を担当し、現在は東大大学院教授も務める千葉学氏。
千葉氏の作品らしく、ディテールまでこだわり尽くされたE棟の空間は、魅力的という一言に尽きる。白い壁とタイル、フローリングの部屋は、シンプルながらどんな家具も許容できそうな空間で、住む人も置くインテリアも選ばないのがいい。
2部屋に分かれているタイプはE棟のみで、コンパクトながらも2人暮らしが可能。備え付けのキッチン横のカウンターテーブルは、時には2人で横並びに使えるダイニングテーブルとして、時には作業台として利用できる。
W棟は、妹島和世氏と共に建築ユニットSANAAとして活動し、建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を2010年に受賞した西沢立衛氏。
W棟は温かみとクリーンさのバランスが絶妙。SANAAデザインによる「ラビットチェア」が似合う空間は、コンクリート打ち放しの無機質さとインテリアのあたたかみが同居している。インテリア好きの2人暮らしと、高相性な気がする。
W棟にはピーコン穴があり、これを利用すると自分だけのカスタマイズ棚ができ上がる。ピーコン穴は、施工時にコンクリートを流し込むための型枠を固定する金具の跡。通常モルタルで塞ぐことが多い穴をあえて塞がず、ネジをそのままにしている。ネジに専用の棒を取りつければピーコンハンガーとして物掛けになる。賃貸住宅ではなかなか難しい壁掛け収納を楽しめる点も、居住者には嬉しいポイント。
有名建築家が手がける賃貸住宅。設計力の格の違いに、思わず一目惚れしてしまうかもしれない。