堀部安嗣氏は1967年生まれ。住宅をメインに寺院施設、集会所など80を越える作品を手掛けてきた。装飾を排した空間は一見シンプルで端正だが、人がそこでどう過ごすか、その快適性が緻密に追求されている。
空間を構成する素材(木や石、コンクリートなど)の使い方の巧みさや、精緻なディテール、決して派手ではない裏方のような徹底的な追求が、堀部氏の建築を支えている。
©Ken’ichi Suzuki
例えば、2016年日本建築学会賞(作品)を受賞した代表作「竹林寺納骨堂」(高知県)は、お遍路のルートになっている竹林寺に新しく建った納骨堂で、歴史ある敷地環境に溶け込みつつ、お参りに訪れる人が静かな時間にスッと入り込むための細かな工夫がなされている。
そんな堀部氏の建築の真髄を伝える今回の個展は、「竹林寺納骨堂」「阿佐ヶ谷の書庫」を含む15作品による短編映画が会場で上映される。それぞれの建築を訪れる人の様子や、施主へのインタビューを通して、作品のさまざまな表情を紹介。
また会場には、日々設計を行っている事務所のインテリアやスタディ模型、愛用の設計道具などが展示され、建築が生まれる過程を見せる。
展覧会に際し、堀部氏はこんな思いを寄せている。
建築の居場所建築は、人の肉体の不完全さを補うために生まれました。雨、雪、日差し、湿気、風、暑さ、寒さなどの自然の脅威から身体を守り、安心して日々を送るための仕組みが必要だったからです。
そうした人間の身体的な要求から生みだされた建築は、純粋な機能と、それにふさわしい佇まいをもっていたように思います。そんな原初的な建築は、シンプルであるからこそ、人と人が穏やかに向き合うことができる、あるいは孤独の時間を豊かに過ごすことができる場所も同時に生みだしていたのではないでしょうか。そこには偉大な自然と、小さいけれども尊い人の営みとの調和の関係を見ることができます。そしてその風景はずっと昔から変わらず、人の記憶の奥底にあるのです。
今時を経て、建築は人びとのたくさんの希望や欲望を背負い、より複雑な役割を担うようになっています。それに伴い、建築が本来もっていた基本的な役割と佇まいが少しずつ失われてきているように感じています。建築が人の身体から、そして自然から離れていっているのだと思います。
現代の生活や環境にしっかりと適合しながらも、人の等身大の身体的要求に軽やかに応えるもの。
太古からの自然や人の記憶を呼び覚ますような、原初の力を感じられるもの。
特殊なものではなく、誰もが納得して心落ち着ける佇まいをもつもの。
建築がもう一度このすがたを表すことができたのなら、建築も人も、本来の居場所に戻ってゆけるのではないかと思います。(堀部安嗣)
会期中には講演会「建築の居場所」が開催され、2017年1月19日(木)には書籍『堀部安嗣 建築を気持ちで考える』も発売予定。
個人邸など、普段は見られない作品を鑑賞できるのが嬉しいポイント。住宅において自分は何が快適か? 自分でも気がつかなかった人間の性質に改めて気がつける展覧会かもしれない。
堀部安嗣展 建築の居場所開催場所:TOTOギャラリー・間(東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F)
開催期間:2017年1月20日(金)~3月19日(日)
開館時間:11:00~18:00
休館日:月曜・祝日
入場料:無料
Webサイト
堀部安嗣講演会「建築の居場所」
開催日時:2017年1月27日(金) 17:30開場、18:30開演、20:30終演(予定)
会場:イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング4F)
定員:500名
参加料:無料
ウェブサイトより事前申込制
申込期間:2016年11月22日(火)~2017年1月9日(月・祝)
抽選の上、2017年1月20日(金)までに結果を連絡
写真提供:堀部安嗣