千葉県松戸市、松戸駅にほど近い賃貸マンション。ここは、20戸のうち空室だった11戸をMAD Cityという民間企業によるまちづくりプロジェクトが借り上げて運営している。
すべての部屋がDIY可能で、押入れや壁を取り払う本格的なリノベーションから簡単なDIYまで、入居者が手を入れていい自由度の高さが特徴的だ。そんなおもしろいマンションにROOMIE編集部も興味津々、その1室にご夫婦で暮らす古平賢志さん、万歳夏恵さんの部屋を訪ねさせていただいた。
名前:古平賢志さん 万歳夏恵さん職業:フードユニット・Teshigoto、フードプロジェクト・One Table代表(賢志さん)
場所:千葉県松戸市
面積:約31㎡ 1DK
家賃:非公開
築年数:築44年
お気に入りの場所
手作りカウンターをDIYしたキッチン
「TAKE CARE」
フードプロデューサーとして、フードユニット・Teshigotoや、“つくるひとと、たべるひとが、つながる、ひとつの食卓”をコンセプトにしたカフェ・One Tableの運営、飲食店のコンサルタント、ケータリングなどの仕事をしている賢志さん。昔から飲食業に携わってきたそうで、使いやすいキッチン空間には詳しい。
キッチンに鎮座しているカウンターは、屋外イベントで使用したものを部屋に設置したそう。家では夏恵さんがメインで料理をするということだが、作業スペースの広いDIYカウンターは料理がしやすそうだ。
「組み立て式で、簡単に移動できるカウンターなんです。イベントだけで使うのはもったいないので、そのまま自宅で再利用してます」
風通しのいい窓辺に置いたソファ訪ねたこの日の最高気温は30度を超える真夏日。窓と玄関ドア(!)を開けっ放しにすることで、心地いい風がかなり入ってくるので、エアコンをつけなくても爽やかに過ごせる。
「家にいるときのほとんどはソファで過ごしますね。このあたりは緑がゆたかで、近所の森が窓から見えるのも気に入ってます」
この部屋に決めた理由
「この部屋は、住んで5年目。結婚してふたりで暮らす前から、僕が住んでいました。
もともとは、友人がこのマンション内に住んでいたのがきっかけですね。そのとき今の3倍の広さの部屋に住んでたんですけど、何度か友人宅に遊びに行ったら、“自由にいじってもいい物件”ってところが気になってきて。壁を塗装してもいいし、ドアを取ってもOKだし。退居するときはそのままでいいという条件も決め手になりました。
このマンション内にMAD Cityが運営している部屋がいくつかあって、デザイナーやアーティスト、革職人やダンサーなど、多様な住民が暮らしているのもおもしろいです。みんな仲よしで、この部屋で頻繁に呑み会を開いて、ごはんを持ち寄ったりします。イベント時には、デザイナーがフライヤーが制作したりして(笑)。それぞれの個性を活かした関わりが生まれてますよ」
ボルダリングもDIY!
yummyって書いてあるのかわいい
「DIYは、僕たちはキッチンカウンターと、壁や玄関扉を塗装したりあーとを描いたのと、本棚を作ったくらいですけどね」
入居者同士で交流がゆたかで、いわば「シェアマンション」のような印象。各家のドアの外側も自由に塗り替えることがOKだそうで、まさにクリエイターのためのマンションと言える。
残念なところ
夏は暑くて冬は寒いこと、虫が入ってくること「建物が古いせいもあって、いくら風通しがよくても夏はやっぱり暑いですね(笑)。窓もペアガラスではないので、冬は寒いです。それに、森が近いのはいいんですけど、風に乗って虫も流れてくるんですよね……」
お気に入りのアイテム
友人のアーティストから結婚祝いに贈られたアート「友人の河田蒼(Kawata Ao)というアーティストが、結婚祝いに贈ってくれた作品です。部屋の色味を抑えめにしているので、このアートがアクセントになって気に入っています。この部屋なら、気にせず壁に穴を開けて飾ることができるし(笑)」
革アーティストに作ってもらった/DIYした革小物たち「レザーのガスランタンホルダーとカップスリーブは、このマンションに住む革職人の友だちの作品です。コインケース(本当は名刺入れなんですけど……)は妻がDIYしたもの。カップホルダーはどれが自分のか分かって便利だし、よくアウトドアに持っていきますね」
家中に飾っている植物部屋の中に吊るしたり、ベランダに置いた植物が、部屋の雰囲気を明るくしている。
「もともと僕は植物が好きなので、出先で見かけて気にいると、つい買ってきちゃいます。地方のショップなんかでは驚くほど安く売ってて。いつのまにか増えてしまいました」
暮らしのアイデア
キッチンの壁に鏡を貼って奥域を出すキッチンの壁面には、目線の高さに鏡が貼ってある。狭い空間を広く見せ、圧迫感を軽減する手法は、飲食店に長く携わってきた賢志さんならではのアイデア。
インテリアの色を増やしすぎない「部屋に置くアイテムは、雑多にならないよう色を抑えたりしてますね。そうすると、ランダムに置いてるように見える本棚にも統一感が生まれるし、うるさくならない気がします。インテリアは木目やナチュラルなものを選ぶことが多いので、アイテム同士が喧嘩にならないようにしたいですね」
これからの暮らし
「もともと外に出たいタイプだったんですけど、ここに住んだら、なるべく家にいたくなりました!
利便性を求めるだけなら、都心に近い方がいいんでしょうけど、ここに住んでいるのは、それ以上に付加価値があると思うからですね。住人同士が本当に仲がよくて、それぞれに志があって、いい刺激になってます。新しい入居者が入ったら共有スペースでパーティーを開くこともあるんですよ。ほどよい距離感で、昔ながらの近所付き合いみたいだと思います。
ゆくゆくは、クリエイターやアーティストに向けた取り組みをもっと活性化したいですね。あと、自分で畑がやってみたいです。このあたりの人は、自分で畑をやってる人が多いんですよ」
飲食をキーワードに松戸市を盛り上げている賢志さん。松戸市を代表する桜の名所ストリート・常盤平さくら通りを盛り上げる「One Table project」は、建築家や不動産関係の仲間とともに、1日ごとに交代でオーナーを勤められるカフェにしていくそう。「将来飲食店をやりたい若者が、経験を積める場にしたい」という。次々とプロジェクトに取り組むクリエイティブな姿勢には脱帽だ。
クリエイターが集まる場所から何かが始まる。そんなことを予感させる、賢志さん・夏恵さんの自由でアットホームな雰囲気の部屋。創造性やあたたかさにあふれていて、このマンションの他の部屋もぜひ訪ねてみたくなった。
Photographed by Norihito Yamauchi