「短歌」に意識を向けてみたら、140文字より圧倒的に少ない“31文字”のことばに、詰まっているものに驚いた。ハッとしたり想像が膨らんだりするのがとても楽しく、日々にクリエイティブな視点を与えてくれる気がしている。
その月に合ったテーマで月1本、リレー形式で毎月異なる歌人の短歌を、描き下ろしの10首連作でお届けする。
連作の中にある展開やストーリーを、まずは楽しんでみてほしい。
第5回目の歌人は山川 藍さん、テーマは「キッチン」。
秋の確信
山川 藍
オーブンが壊れグリルで焼き今は電子レンジでホットサンドを
なんてことない鍋つかみにマグネット仕込めば自由自在に貼れる
ささやかにふくらむしっぽ勝手口から外を見るやわらかい猫
キッチンの隙間に消えたゴキブリの存在感が膨らむ深夜
洗濯機よこに並んだ殺虫剤ガラスクリーナー凍殺ジェット
白っぽい壁へ追いつめられた蚊がスパイス棚の混沌カオスにとける
旅をしたしるし増えてく冷蔵庫からずり落ちるクルテク磁石
iPadに杉浦日向子をとじこめて一緒に行きたいチェコ共和国
虫が出たことに全く興味ないねこは前足たたんで座る
ふくらはぎつる確信に目は覚めてなすすべもなくこむら返りす
1980年生まれ。愛知県名古屋市出身。結社「まひる野」マチエール欄所属。短歌ユニット「北山川」による同人誌『無銭飲食』発売中。2018年2月、第一歌集『いらっしゃい』(角川書店)刊行予定。
ブログ:藍天ブルースカイ
北山川twitter:@kitayamakawa
illustrated by ki_moi
第一回目:交通費くらいは出してあげるから平たい布団に眠りにきてよ(東 直子)第二回目:コインチョコ、ひと月前の指定券、ジョーカー、行けるとこまで行こう(平岡 直子)
第三回目:思い出が狛犬になるカーテンを閉じたらたった一人だけれど(北山あさひ)
第四回目:わたしはピノをあなたはガツン、とみかんを買いコンビニを出るうろうろ歩く(永井祐)