東西を東山連峰と鴨川に挟まれ、清水寺や祇園など京都のシンボルマークともなる建築物の多い京都市東山区。

歴史の趣を感じる閑静な住宅街の中に、藤巻さんの住まいはありました。

お名前(職業):藤巻佐有梨さん(フリーランス画家/イラストレーター/建築設計)
場所:京都府京都市
広さ:2LDK/約40㎡
家賃:家賃5.8万円
築年数:150年
住宅の形態:2階建ての戸建

絵:藤巻さん

東京に住んでいた頃の職場と寮を往復する生活の中で、ずっと心に残っていたのがかつて留学していたフィンランドでの暮らし。

仕事でどんなに疲れている日でも描いていたという絵を新たな生活の軸として、身一つで引っ越されたのは京都での職住一体の住まいでした。

フリーランスという働き方と理想のライフスタイルの実現について、お話を伺いました。





お気に入りの場所

使いやすくカスタマイズした玄関とキッチン

住まいに入ってすぐに広がるキッチンは、歴史を感じる深みのある木の色合いとリノベーションで整えた新しく明るい木の色合いが混ざり合った空間。

入居当初は何もなかった空間を、周りの方のサポートも借りながら使いやすい形に改装したそう。

「好きなものを置いている、キッチン横の⽞関にあるつくりつけの棚がお気に⼊りです。

家にお客さんを招いて仕事の打ち合わせをする際にも、このキッチンスペースだけは必ず通る間取りになっています。そのため収納はあまり生活感が出ないように、ディスプレイとして成り立つように意識しました」

「⽤途に合わせてつくった棚、吊り下げている⼩道具類は⾃分が使いやすいように⼯夫しています。キッチンが広いので、毎日料理をする時間がとても楽しいです」

新しくつくった棚は収納するものに高さを揃えて機能性を意識しつつ、これからの経年変化を楽しめたらと柿渋を塗ってDIYされたそう。

窓の外を眺めるだけで落ち着くリビング

キッチンを抜けた場所にあるのが、リビングダイニングスペース。打ち合わせ等の来客時はここで対応する他、食事やちょっとした休憩にも使う空間だそう。

「南向きの窓が明るいので、植物を置いています。窓の⾼さに合わせて⼿づくりした机もお気に⼊りです」

最近では、鳥がやってくることに気づき餌場も設置。

「窓の向こうが空き地で、目に入る草⽊の色合いに和みます。⾍も⿃もやってくるので眺めていて飽きません」

ふたつの仕事で使い分けているアトリエ

部屋の奥に位置するのがアトリエスペース。建築とアート、使う脳が違うということで作業スペースも対面で分けられていました。

「仕事場なので、テンションをあげるためにたくさん植物を置いています。東向きのバルコニーがあるので、朝⽇が⼊って仕事のスイッチになるんです」

「仕事には⼆種類あって、パソコンを使う作業と紙に絵を描く作業。いわずもがな、パソコンと⽔は相性が悪いので机を分けています」

建築やデジタル系の仕事するときは、向かって右側のデスクを活用。有孔ボードを活用した見せる収納は、見た目も機能性もよさそうです。

キッチンからも目に入る左側は、絵を描くための空間に。デスクが低めに設計されたワークスペースには、建築を学んできたからこその狙いがありました。

「低い天井に対して、デスクも下げることで空間が広く見えるようにしています。椅⼦も変える予定でしたが、ヘリノックスのチェアが思った以上に気持ちいいので、狙っている椅⼦を⼿に⼊れるまでは兼⽤しようと思っています」

朝日が降り注ぐ寝床

少し急な階段を登った先にあるのが寝室。大きな梁に見守られているような安心感のある空間を、藤巻さんは広々としたベッドスペースとクローゼットとして活用していました。

「ひとりにしては広いので、思い切って階段から運び込めるギリギリの85cm、セミシングルのマットレスをふたつ並べてクイーンサイズにしました。このベッドに広々とひとりで寝るのが⾄福の時間です」

窓には敢えてカーテンをつけず、日の光を感じられるように。

「東向きに窓があり、そのすぐそばにベッドを置いているので、朝⽇で⽬覚めることができてお気に⼊りです。朝、⽬覚めた時の太陽の⾓度で何時かわかるくらいになってきました」

この部屋に決めた理由

京都らしい味わいのある家

「引っ越すにあたってフリーランスで生きていこうと決めていたこともあって、安さは重視しつつも、職住分離できる部屋。かつ、京都に来たからには古い家に住みたいと思っていました」

ご友人に紹介された不動産屋さんで話を伺うと、2階建ての物件は案外たくさん出てきたのだそう。

「この住まいは内見に来たときから⽇当たりもよく、漆喰の壁も⼤きな梁も、⾃分の好みにドンピシャでした。

古いけれどシンプルなリノベーションがされていて⽔回りは綺麗だったので、⾒た瞬間に決めましたね。周辺環境が静かなことも、安心材料でした」

平米数など住まいの情報も少なかったため、内見の際には細かく寸法を測って住む準備を整えられたそうです。

残念なところ

収納スペースが全くなかった

DIY可の物件だったということもあり、住みはじめの頃はまさに真っ白なハコだけの状態。収納はなく、自分でつくっていくしかなかったそう。

「収納がないので、つくるのに苦労しました。DIYで何でもつくれてしまうパートナーの力もあって、キッチンの棚や階段下の収納は確保できましたね」

DIY以外はボックス収納を活用。スペースごとに使用するものを変えながら、工夫して収納スペースを確保していました。

「既製品の収納棚を購入して、引越すときに次の住まいに合わずに捨ててしまうことはしたくないと思っていました。

いまのスタイルだと解体して次の住まいでも使えたり、ボックスごとそのまま持ち運べたりと、柔軟に活用できるのがいいです」

室内なのに外にいるような冬場の寒さ

京都かつ歴史ある住まいだからこそ、大変だったと話されるのが冬場の寒さ。

「前情報として京都の冬が寒いことは知っていたのですが、想像以上でした。友人を招いた際に、寒すぎてスキー場かと突っ込まれるほど……。

寒さに耐えられず、すぐにトヨトミのストーブを購入しました」

「対流式なので部屋全体の空気があたたまりますし、外側から見る炎が綺麗で思わず眺めてしまいますね。冬場は本当に、ストーブの周りにいないと耐えられないくらいで、手を当てていると家でキャンプしている気分になりますね(笑)」

2階の寝室は暖房があるもののそれでも寒いとのことで、同じく重宝したというのが湯たんぽ。

「トヨトミのストーブの上に直接置けて、フォルムも可愛くて気に入っています。こうしたアイテムのおかげもありますが、寒さにはだんだん慣れてきたような気がします」

お気に入りのアイテム

どんな作業にも手放せないチェア

ワークスペースはふたつに分かれていますが、どちらでもチェアは同じものを活用。前の住まいから愛用していると話すヘリノックスチェアは、アトリエで欠かせない相棒のようなアイテムなのだとか。

「最初はキャンプをしたいという思いで購入したチェアだったのですが、購入して以降、活用場所は住まいの中のみになってしまいました。

値段は張りましたがデザインもスタイリッシュだし、ロッキングチェアのパーツを付けることで集中もリラックスもできる椅⼦になっています。このチェアが快適な仕事環境をつくってくれていると言っても過言ではないですね」

思い入れのあるフィンランド食器

「学生時代に建築の勉強でフィンランドに留学していたことがあって、その当時に購入したARABIAやマリメッコの⾷器がお気に⼊りです。

いまでも現地の友人とはやりとりをしていて、私の好みを知っているので、海外から送ってくれたものもあります」

リフレッシュしたいと思った瞬間に使うルームスプレー

職住一体で家で過ごす時間が長い分、難しいのが気分の切り替え。藤巻さんは、お気に入りだと話すAesopのルームスプレーで匂いから気分転換されていました。

「SNSではじめてバズった呟きが、このルームスプレーの紹介でした。バスタイムの癒しに、おうち時間のリフレッシュに活用しています。

⾹⽔が苦⼿なのですが、これだと⾹りが残らないので、⾹⽔代わりにすることもありますね。歩いているだけで洗練されたお店みたいな⾹りがします」

暮らしのアイデア

歴史ある住まいを活かした暮らし

築年数100年を超える住まいには、歴史を感じる立派な木の柱梁とリノベーションで張り替えた新しい木のフローリングが混在していました。

「安心感のある柱梁があるので、梁に吊ったり、柱につくりつけたりする収納⽅法を活用しています。味わいのある床も見せたいので、床になるべく物を置かず広く使えるように意識していますね」

消費の仕方を考える

フィンランドでの生活がライフスタイルに大きな影響を与えたと話す藤巻さん。現地での生活や友人の言葉から得たものは、今になっても大切なものばかりでした。

「モノの消費に関して現地の友人から、使いすぎや生産者を意識して購入先を選ぶことなどの考え方を教えてもらいました。実際に今の生活の中でもそうした部分は意識として残っています」

胸打たれたものがあればジャンル問わず購⼊されていると話す藤巻さんですが、もの選びには現地での教えが生きているそう。

「いま住まいにあるものも、⼤抵のものは売り⼿と会話して購⼊したものばかりで、思い⼊れがあるものばかりです。 ⾃分の絵も飾ったり、友⼈がつくった作品も⾝の回りにおいて、アトリエでの作業のやる気をもらっています。

自分の作品もまた、他の誰かにとって思い入れのあるものになってくれたらなと思っていますね」

これからの暮らし

住まいをベースに憧れのライフスタイルに近づけていきたい

現在の住まいでの暮らしも仕事も、まだまだはじまったばかり。ただここでの暮らしを起点として、藤巻さんには理想のライフスタイルに近づいているという確かな感覚もあるのだそう。

「東京での生活では想像もできなかった、フィンランドでの理想の生活。周りが静かで自然があって、かつ自分のライフスタイルをちゃんと確立している人の暮らしに確かに近づいているという実感があります。

ひとりだと難しい生活リズムの調整も、⼤好きな塊根植物を育てる中で、朝の⽔やりが習慣になったおかげでできていますね。将来的には庭・ガレージがあって外での作業ができたり、塊根植物のための温室をおける家に住んでみたいです」

この住まいでの中心は、あくまでアトリエだと話す藤巻さん。作品づくりを進めていく中で、住まいについてもこだわりを持って暮らしていきたいそう。

「これから作品が増えれば画材等で物数も多くなると思うので、収納方法はさらに工夫していきたいと思っています。

同時に素材に関しても、もの選び同様に大切にしていきたいですね。作品をつくったあとは収納するのではなく、使う染料や紙についてもつくり手の思いがあるものを選び、住まいのディスプレイとしても成り立つようにしていきたいです」

職住一体の住まいで、ライフスタイルの考え方から、身の回りのアイテムまで心地よい暮らしを追求されている藤巻さん。

描かれた理想の空間の先に、どんな作品が生み出されていくのか。住まいと同様に藤巻さんの考えや思いから生まれるイラストにも、目が離せません。

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