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Photographed by tsubottlee

愛媛県は、穏やかな瀬戸内海の海に面し、道後温泉など観光でも有名な松山市。

その中心街へ電車でも車でも30分ほどでアクセス出来る伊予北条駅から歩いて10分ほどの住宅街に、平野さんのお住まいはありました。

お名前(職業):平野 裕子さん(暮らしの設計デザイナー・「水と木の間で」(設計・施工)代表
)、パートナー、猫2匹
場所:愛媛県松山市
面積:敷地面積:約340㎡
住宅延床面積:121 ㎡
リノベーション費:約1000万円
築年数:築54年(持家 木造住宅リノベーション)
間取図:

編集部作成

 

国内外の生活を経て、平野さんが新しい暮らしの拠点を探される中で、国内を旅し、見つけられたのが愛媛県。

そこで0から建築を学び、その知識と様々な出会いが積み重なって完成したという住まいのコンセプトは、自然素材を大切にした「土に還る家」。

以前から住まいに欲しい要素として書き出していた、その全てを叶えてくれたという、理想の詰まった空間について、詳しくうかがってきました。

■目次
1. この部屋に決めた理由
2. お気に入りの場所
3. お気に入りのアイテム
4. 残念なところ
5. 暮らしのアイデア
6. これからの暮らし

この場所に決めた理由

住みよい立地と、理想の住まいが作れる物件との出会い

平野さん提供

平野さんが独立とともに探し、見つけられたのは、駅や、スーパー、コンビニも徒歩圏内でありながら、海まで徒歩10秒という、生活にも便利なロケーションの物件。ただここに辿り着くまでには、自身の中でも様々な価値観の変化があったんだとか。

「現在の住まいに落ち着くまで、4件ほど市内の賃貸で暮らしていたんですが、自由に移動が出来るのでその暮らしも気に入ってはいたんです。

ただ独立とともに、作りたい住まいのコンセプトや一緒に働きたいメンバーが決まってくる中で、気持ちも変わっていきましたね」

「今、自分が持っているイメージを実際に見てもらえる場として、住居兼事務所を作りたいと考えるようになりました。

どうせなら自分の住まいとしてやりきれる持ち家を、と探していたところ、幸運にも人づてでここを紹介してもらうことができました」

「窓からは一面の庭を眺めることができ、現在では貴重な土壁の物件であること。またパートナーが釣り好きで、海が近い立地は、今の私たちにとってベストな場所だったと思います」

取材撮影の間にも、平野さんは料理にデスク作業、パートナーの方はギターを弾いたり、釣りに行かれたりと、各々の時間を楽しまれている姿が印象的でした。

お気に入りの場所

自然素材を活かすDIYで作り進めたエントランス

「地球環境と暮らしの在り方」をテーマに、自らの仕事に取り組まれている平野さん。住まいに入ってすぐのエントランスからも、そのテーマがうかがえます。

「玄関は別にあったのですが、リノベーションにあたり、もともと収納庫だった土間空間を4.5帖のエントランスにつくり替えました。

解体後の土壁が見える部分をわざと残したり、もともとあった木の梯子を残したり、あまり手を入れすぎずこの家の歴史を残すようにしています」

住まいを通じて四季を感じられる、思わず深呼吸したくなるような家に暮らす。平野さんの住まいは、その土地にあわせて作られた物件の良さを活かしながらも、暮らしやすくするための工夫が散りばめられています。

「住まいが完成し、ここでの暮らしがスタートした後も、本棚を柿渋で塗装したり、壁に珪藻土を塗ったり、自分たちの生活にあわせてDIYすることで住まいを楽しんでいます」

職人の技と素材を体感出来るLDKとウッドデッキ

エントランスから入ってすぐにあるLDKと、そこから望むウッドデッキも、住まいづくりへの思いがこもった空間でした。

大工さんが手作りされたという、キッチン、キッチンカウンター、デスクカウンターなどの造作家具は無垢材で、目には見えない下地までもが合板不使用。

「写真で見ると素材がどういったものか、その違いはわからないかもしれません。でも、塗装や下地は、コストや利便性を取ると、素材の良さを無くしてしまうものも多くあるんです。

本当の自然素材の空間の心地よさは、その空間に身を置いて体感してみないとわからないんですよね」

平野さん提供

また、混じり気のなく自然と繋がる住まいへは室内だけでなく、ウッドデッキも大切な要素になっています。撮影当日は生憎の雨でしたが、晴れた日は、自然も人も繋がれる空間になっていました。

平野さん提供

「木製の窓の外一面に広がる庭が常に楽しめる空間で、日々過ごせることは、心豊かな暮らしに大きく貢献してくれています。

手すりのかわりにベンチをつくったことで、大人数でもテーブルだけ置けば食事が出来るようにしました。

天気の良い日には、人を招いて、外で食事をしたりお茶をしたりと、庭とウッドデッキのある生活を楽しんでいます」

音楽のある仕事スペース

住居を事務所としても使われている平野さん。仕事場として使われているワークスペースは、集中できる環境でありながら、趣味である音楽も楽しめる場所になっていました。

「大工さんに造作してもらった仕事スペースには、仕事道具だけでなく、好きなものに囲まれて仕事ができるように、レコードのジャケットを飾ったり、プレーヤーを置いたりしています。

上部にある棚にはデスクを照らす照明を隠しており、夜になっても仕事がしやすい環境を作ることができました」

音楽まわりにも木材へのこだわりがありました。お気に入りのジャケットが飾れるよう、造り付けの収納棚の天板には溝を作って、立てかけられるようになっています。

造り付け以外にも、台の部分が無垢の桜材だったのが気に入って、購入されていたレコードプレーヤーにあわせて、曲をかけているときに置けるジャケットスタンドも、大工さんが桜材で手作りされました。

お気に入りのアイテム

山桜のキッチンカウンター

キッチンに置かれた立派なキッチンカウンターは、仕事のパートナーでもある大工さんが、タイミングよくオススメしてくれた木材からできた思い入れのあるものでした。

「家づくりが進む中で、タイミングよく木材のストックがあることを教えてもらい、使うことを決めました。

貴重な山桜の無垢材のみで造作したキッチンカウンターは、思わず手で触れたくなる美しさで、機能性だけでなく家具としての存在感があります」

「客人をもてなしたり、友人と料理をしたりするのにも重宝しています。パーティーをしてもスペースが広く、作業しやすい分、みんながカウンターに集まって手伝ってくれるので、とても助かりますね」

温かみのあるキッチン用品

こだわりのキッチンで使うアイテムもまた、お気に入りのものばかり。

「これまでの暮らしや人の繋がりで、キッチン用品は揃っています。バスケットや籠は小道具屋さんで見つけ、揃えてきました。

あえて使う収納アイテムなどは決めすぎないようにしていたので、生活にあわせて必要になったものを都度購入しています」

「食器の中でのお気に入りは、友人のお母さんが趣味で焼いたお皿。何年も使っているんです。

こういう、自然素材で人の手でつくられた温もりのあるものが好きですね」

まわりの方からご家族が使わなくなったいい器を紹介してもらうことも多いという平野さん。こうしたエピソードからも、仕事や暮らしを通じてまわりの方々を大切にされている関係性がうかがえますね。

暮らしに無くてはならない本たち

エントランスの本棚に収納されている本は、全て平野さんの持ち物。これまでたくさんの引越しを繰り返されてきた中で、量を減らしては、生活とともにまた増やしていくを繰り返し、人生にかかせないものになっていました。

「昔から暇さえあれば本を読んでいたい私にとって、本は暮らしに必須のものです。

建築に関する本から小説まで、大切なものだけ残しながら今にいたりますが、引越しなどのタイミングがないと、増える一方ですね(笑)」

「収納場所としてLDKに置くスペースがなかったため、エントランスに本棚をつくりました。

普通なら玄関にあるのは靴箱ですが、代わりに本棚が出迎えてくれて。

本好きの私にとっては生活の中で、気分が上がる大切な場所になっています」

残念なところ

お風呂場への導線の悪さと狭さ

元の物件の良さを活かしながら住まいを作られている平野さんですが、まだ手が十分に手をつけられていないと話すのがお風呂周り。

「お風呂が細い廊下で繋がった使いづらい位置にあることで動線が悪く、脱衣所スペースも狭くて使いづらくなっています。

家族で使う分にはまだ良いのですが、人を招くと動線が混在してしまう場所でもあるので、今後、着手していきたいですね」

暮らしのアイデア

​​暮らしに合わせて変えられるスペースを残す

たくさんの住まいに関わる中で、ご自身も大切にしてよかったと話すのが、決め込みすぎないということ。

「時間やお金をかけて作り込んだのに、しばらく経って訪れてみると、上手く使えてなかったり、気持ちが変わったり、欲しくなったものを買ってきたら合わなくなったり。

最初の思い通りにいかないことはたくさんあって、住みながら変わっていくものだと思っています」

「この住まいも、最初は採光や風通しを意識して、リビングのソファ上を室内窓にしようと考えていたのですが、いったんは白壁のまま、あとから考えることにしてみました。

そうすると暮らしの中で、テレビ代わりのプロジェクターが丁度映せるスペースということに気づいて。結果的にそのままでもみんなが楽しめる空間になったんです」

他にもキッチンには収納スペースだけを設けて、自由な収納ができるようになっていたり。

猫の動線を意識して、侵入を制限できるフラップ扉をあとからつけられていたり、と暮らしの過程で手を加えられているものが多くありました。

ライフスタイルの変化は予想できないことも多いため、可変性のあるスペースを作っておくことも大切ですね。

​​住まいへのこだわりが、暮らしの楽しみに繋がる

賃貸から自身の住まいを持つ中で、気持ちとして変わったと話されていたのが、家事を楽しむ気持ち。こだわりを持って住まいを作っていくことが、暮らしを楽しむことにも繋がっているのだそう。

「暮らしに欠かせない家事は面倒なものですが、部屋を自分好みに整え、お気に入りのものに囲まれて暮らしていると、掃除や片付けも気分が違ってきます」

「好きな環境を長く楽しめるよう、家事も楽しんでしまおうという気持ちに切り替えられるようになって、暮らしの楽しさも倍増したと思います」

日々住まいに向き合うようになると、その変化にも気がつくことがあるのだとか。

「自然素材のものを使っているからこそ、時間を重ねるほどに愛着が湧いてきます。

ダイニングテーブルに出る木材の色合いの変化や、フローリングの猫の傷跡など、家事で毎日住まいに向き合うことで、住まいへの変化に気づけることも楽しさに繋がっていますね」

これからの暮らし

自分たちで手を加えながら、みんなで楽しめる空間に

これまで場所に縛られることなく住まいを探し、移り住まわれてきた平野さん。今の住まいも暮らせるまでに完成した中で、新しい住まいへの思いも芽生え始めているのではと思いきや、次が考えられないほどまだまだ挑戦したいことがたくさんある話してくれました。

「今の住まいや環境にはすごく満足していて、これからは、まだ手を入れてない部屋や、気になる水回りを少しずつグレードアップさせていこうと計画中です。

家に人を招いてもてなすことも好きなので、この家を使って、暮らしをどうやって楽しむかを追求していきたいと思っています」

早速、この日も撮影後は近くに住んでいるご友人を招いての食事会がスタート。

「食を楽しみながらの音楽イベントや勉強会、仕事仲間との交流会など、この空間を使ってワクワクすることに、いろいろと挑戦していきたいですね 」

本当の豊かさを求めて、自らの住まいで実験を重ねながら、仕事や暮らしで関わる人々へその体験を伝え、届けている平野さん。

瀬戸内海の海のように、人や自然がゆっくりと交わりながら、住まいの可能性も、まだまだ無数に広がっていきそうですね。

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