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古くから日本の優秀な大工技術に基づく「伝統構法」をご存じですか?

金物や釘に頼らずに頑丈な家を建てるという建築技術です。

今回は、設計事務所の「木の建築設計」を開設、そして数々の専門誌にも執筆中の“木の使い方の専門家”である江原幸壱さんに、お話をうかがうことができました。

ー伝統構法の住宅とはどういうものですか?

柱や梁(はり)などの構造材を、木と木を組み合わせることで地震や台風に耐えられるようにつくる木造です。一般の方からよく「伝統構法は金物や釘を使わない木造」と言われるのですが、現在の法律上、構造計算によって必要なところには金物を使います。しかし、伝統構法では金物に頼らなくても十分耐震性があります。すべての接合部で木と木が互いに引き合うようになっていて、組んだところはなかなか緩みません。その一工夫が一般的な在来工法と大きく異なるところですね。



現在の木造住宅は9割以上が構造材を機械で加工するプレカットになっていますが、伝統構法は大工さんが曲尺(かなじゃく、L型の定規)を使って墨付けを行い、手で刻んでいきます。これは規矩術(きくじゅつ)と呼ばれる特殊な図形の描き方を知っている大工さんしかできません。

柱に描かれた1ミリにも満たない墨の線を残すか残さないかの繊細さでノコギリを入れます。そうして刻まれた部材を大きな木槌(きづち)で何度も叩いて組み上げるんです。丸一日かかって組み上げた架構(かこう)は金物なしでもビクともしません。組み上がった木組みの姿を見ると実感できると思います。

ー安全性と住みやすさはいかがですか?

現在は建築基準法が改正されて耐力壁のバランスもチェックするので、安全性は増しています。重い瓦屋根もそれに相応しい耐力壁を設けるので安全ですよ。

構造強度だけでなく、断熱材もしっかり入れて省エネルギー性も向上しています。昔の家のような「暗い・寒い・住みにくい」という印象はありません。太陽光も取り入れて明るく、そして断熱性能もよくなりました。文化が薫る快適な住まいになっています。土・紙・木などの自然素材をたくさん使っているので、シックハウス症候群の問題も軽減できます。


ー建設コストは高いですか?

材料について、日本には現在、戦後植林されたスギやヒノキが十分にあり、実際には価格もそれほど高くはありません。日本の山のためには、今は木を伐採して使うほうが、実は環境にとってよいんです。それに、統計的には、営業費や住宅展示場維持費などが多くかかっている他の企業よりも国産材の手刻みの住宅のほうが安いくらいですよ(※参照)。何よりも伝統構法の家は3世代に渡って住み続けられるものが多く、経済的なんです。


ー伝統構法はどこで建てることができるんですか?

10年ほど前に、腕に覚えのある職人が集まる『職人がつくる木の家ネット』が立ち上がりました。お互いに研鑽(けんさん)して腕を磨いていますので、全国どこでも伝統構法の家を建てることができますよ。

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いやいや、知らないことがたくさんありました。以前のルーミーの記事で、割り箸を使うほうが森林保護になるという活動について紹介されましたが、そちらとも一貫していますね。

家づくりの奥深さ、とっても勉強になります。江原さん、ありがとうございました。

■プロフィール

1962年東京都生まれ。東京理科大学建築学科卒業後、様々な設計事務所で修業したのち、1996年に『木の建築設計』一級建築士事務所を開設。住宅性能評価員、木造耐震診断員、福祉住環境コーディネーター2級など多数の視覚を取得するとともに、「住まい・健康・完全研究所」「日本ERI」「職人がつくる木の家」など様々な団体に所属し、各分野で活躍。プロが用いるハンドブック「和風デザイン図鑑」「木のデザイン図鑑」「木のデザイン最強マニュアル」や、専門誌「住宅ジャーナル」「住宅建築」などにも多数のコラムを執筆中。耐震補強やシックハウス対策、古民家再生、また建築基準法に対する意見書など、建築に対する専門的な取り組みの他に、多文化共生や様々な医療シンポジウムなどにも積極的に参加し、社会貢献も果たしている。

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