9月末に代官山T-SITE「GARDEN GALLERY」で開催された、HEAPS×LEXUS「The NYC STAND by HEAPS」。NYのアート・ファッションなどのトレンドを発信しているデジタルマガジン「HEAPS」によるアーカイブ展示や、レクサスの新型モデル「NX」のお披露目が行われました。

その会場に設置されていた、一際目立つ大きなチョークアート。この作品を手がけたのは、土堤内祐介と井澤卓の2人からなるチョークアートユニット「Paint & Supply」です。

今年3月から活動を始めたという二人。活動歴は半年ほどながらも、AOYAMA FOOD FLEA、246 COMMONのBROOKLYN RIBBON FRIES、大阪のコーヒーショップONIJUS COFFEE VILLAGE、TWEED RUN TOKYOの看板を手がけるなど、驚くほどのスピードで活躍の幅を広げています。

しかし、デザイン系の学校や専門学校に通っていたわけでもなく、いまもアートとはまったく関係ない仕事をしながら活動しています。デザインのバックグラウンドがないという2人が、なぜここまで順調にステップアップできたのか。

2人に現在までの活動を振り返ってもらい、その秘密を探ってみました。

左:土堤内祐介/右:井澤卓

ーー2人はデザインの勉強をしていないそうですけど、それは本当ですか?

井澤(以降「井」):普通の高校に通っていましたよ。他に勉強していたわけでもないから、デザインのバックグラウンドは一切ないです。レタリングの勉強もしていないです。

土堤内(以降「土」):ただ、昔から、お互い服やインテリアが好きで。デザインとかそういうのはずっと好きでした。



ーーチョークアートを始めたきっかけは?

井:去年10月に引っ越しするときに、インテリアをお金かけないでDIYできるかなって探していて。そのときに、ACE HOTELの部屋にチョークアートが描いてあるのをみつけました。これなら安くできるんじゃない?って思って、どて(土堤内)に描いてもらったんです。

土:とりあえず模写するだけでいいからって言われたので、やらせてもらいました。そうしたら意外にいけるじゃんて。

井:そう。なんかわかりやすいものを見つけたから、それをチャレンジしてみた感じです。好きだったっていうよりかは、誰もやっていないものを見つけたから、やってみようって。それが今年の3月ですね。

ーー最初に手がけた仕事は何でしたか?

井:最初はルーミーですよ。コールマンのイベントの時に描かせてもらったやつです。

土:うん。それまではお金はもらえなくても、やらせてもらえるだけでありがたいって感じだった。だから最初話をもらったとき、「まじか」ってなった。あのときちょーうれしかったよね。

井:お金をもらえるんだって思ったよね。それ以前にもsofar sounds(※)を手がけていたんですけど。みんなフリーでやろうよっていうイベントだから、アーティストにギャラは発生しないんです。それも共感してやったから全然構わないんですけど。

明確な相手がいて、要望があって、デザインを起こさせてもらったっていう意味では、Sofar Soundsが一番最初の仕事です。

※ソファーサウンズ:ライブハウスやクラブではなく、家のリビングなどのプライベート空間で行われるロンドン発祥の音楽イベント。

Sofar Soundsでのチョークアート

ーーSofar Soundsの仕事はどうやって話をもらったんですか?

井:元々はチョークアートの作品をfacebookにあげていて。それを見た友人が、Sofar Soundsの会場のTHE SHAREに黒板があるっていうのを教えてくれました。そこから最初は断られたんですけど、イベントのときだったら描いていいって話になったんです。

土:卓(井澤)は友人が多いし、SNSに強くて。最初の頃は、SNSの投稿を見た友人から仕事の話をもらうようになりました。



ーー井澤さんはPaint & Supply以外に本業があるそうですが、チョークアート一本でやろうとは思わないんですか?

井:チョークアートで2人で成り立たせるには、表現の方向性を変えたり、幅を狭めていく必要があると感じていて。でも、今後を考えると、今その方向に行くのはリスクだと思っています。自分たちのやりたい表現を続けていくために、しばらくは稼ぐことをメインにしたくないんです。あとは最終的にチョークアートだけをやりたいわけじゃなくて。

土:たしかに好きだけどね。

井:チョークアートはやりたいことをやるための、自分たちのブランドを確立するためのツールだと思っています。これをきっかけにいろんな人とつながって、将来的には空間デザインとかブランディングとかデザインとか、トータルでプロデュースをやりたいです。

ーー最終的に目指しているところは?

土:自分が欲しいものを作りたいですね。いま世の中にあったらいいよねっていうものを。それは空間でもあるし、そこに仲間が集まれる場所が作れたらそれもいいなって。最終的には場造りをしたいっていうのが一番のゴールかなぁ。

井:コミュニティ作りたいよね。

土:固定的なお店を構えたいっていうよりかは、別にそれがポップアップな空間でもいい。そこで自分たちの世界観を表現したいし、共感してもらいたいっていう部分もあります。

だからインテリアの設計事務所で働こうと思っています。最終的には空間をやりたいけど、自分にはその能力がないから、ちゃんと経験を積みたくて。もちろんPaint & Supplyと並行してやっていくつもりです。



ーー井澤さんは、建築とかインテリアの勉強はやらないんですか?

井:どてがそっちをやるから、僕は違う領域でもいいかなって。自分にそのセンスがあるかっていうと、正直ないと思ってる。そういうのはやれる人にやってもらって。僕はそういうことを得意とする人たちが、どうやったらうまくいくかっていうのを考えて、プロデュースするほうをやりたいなって。

いまはブルックリンみたいなカルチャーが日本にもやってきて、効率的じゃないけど、個人がやりたいことをやっている。コーヒーとかもそうだと思うし、そういう流れがすごい来てるなって。でも、いいものをもっていても世の中に広められない人も多いから。

そういう人たちが、うまくビジネスを続けていけるような支援をしていきたいです。

ーーその役割は腑に落ちていますか? 作り手でいたいという思いはありません?

井:んー、ないことはないですけど。(土堤内さんと)一緒にいると、自分のセンスには限界があるっていうのが毎日わかりますから。僕は見たものしか作れなくって。でもどては、応用して作れる。そこに対して何かを思うことは特にはないです。



ーーPaint&Supplyとして、これまでの活動を振り返ってみてどうですか?

井:始めたのは3月だから、その割にはすごいスピードでみんなに見てもらえるようになったなって感じています。とはいえ、もっと大きくしていきたいっていうのはある。だから展示とかもやりたいって思って。認知度を上げることは武器になるから。

なぜここまで活躍の場を広げられたのか。センスはもちろんあります。ただそれ以外に、「いいものを作る」だけで終わらせずに、発信していく「PR活動」、デザインを得意とする土堤内さんと、外部とのコミュニケーションを得意とする井澤さんの「すみわけ」があるのだとおもいます。

「だまって、いいものを作る。そうすれば自然に知られていく」

その職人気質は美しい。でも、現代で活躍を広げていくには、なかなか難しいのかもしれません。

インターネットによって、世界中のいいものに誰でもアクセスできる時代。自分が作った「いいもの」に自己満足せず、しっかりと外にプロモーションしていく。それこそが、Paint & Supplyが短い期間で活躍の幅を広げられた理由であり、これからのアーティストに必要なことなのだと思います。

そんなPaint & Supply初のEXHIBITION「The CONTRAST」が、11月1日〜16日まで松陰神社前のカフェ「STUDY」と古書店「nostos books」にて開催されます。初日の13時からは、ライブペインティングも行われる予定。Paint & Supplyが描く世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。

“The CONTRAST” at 松陰神社
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photographed by kenta terunuma,takashi sasaki

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