『アメリ』で世界を虜にしたジャン=ピエール・ジュネ監督が、初めて挑んだ3D作品『天才スピヴェット』。

舞台はアメリカ、主人公は10歳の“天才科学者”T.S.スピヴェット。自分の才能を誰にも理解してもらえないスピヴェットは、権威ある化学賞の授賞式に出席するため、貨物列車に忍び込んでアメリカ横断の旅に出ます。

ルーミーでは11月15日の公開を前に来日したジュネ監督と主演のカイル・キャトレット君(12)にインタビュー。とても仲の良い2人が撮影秘話をたっぷりと語ってくれました。

ディテールまでこだわりが感じられる映像美の中で、小さな男の子が繰り広げるちょっと切ない冒険物語は、奇才ジュネ監督ならではの感動作です。

──カイル君は今作が初の映画出演だそうですね。T.S.スピヴェットを演じたいと思った理由は?

カイル:科学が好きな男の子だからだよ。僕の大好きな科目なんだ。それにスタントを全部自分でできるっていうのもすごく気に入った。ジャン・ピエールは僕が武道を披露できるシーンも作ってくれたんだ(※カイル君は7歳以下の武道選手権の世界チャンピオンになった経歴の持ち主)。T.S.がタダでアメリカを横断しちゃうところも気に入っているよ!


──監督はカイル君をどのように演出していったのですか?

監督:彼は演出がほとんど必要ないくらい役を理解していたんだ。ときどき僕から、「今はカイルが感じられるな。カイルではなくて、T.S.スピヴェットを見せて」と伝えただけ。「この状況を感じてごらん、彼の気持ちを感じてごらん」ってね。そうすると「OK!」って返ってくるんだ(笑)

それに、カイルが泣いてほしい時に泣けるというのはとても貴重だった。子どもから感情を引き出すのは簡単ではないからね。今作のために約2000人の子どもに会ったけど、それができたのはカイルだけだったんじゃないかな。初めてSkypeで話した時、「頼まれれば4回でも泣けるよ」って言って、本当に泣いてみせたんだ。

──子役との仕事は大変だと言われますが、何か困ったことはありましたか?

監督:カイルは1度も疲れたとか悲しいとか言わなかったし、たくさんの良いヴァイブや驚きをもたらしてくれた。唯一現場で泣いたのはスタントのシーンだね。それもスタントが怖いからではなく、「自分でやりたい」って(笑)スタントダブルの子はビビっていたのに、カイルは勢いよく飛び降りたので驚いたよ。


──今作は初の3D作品ですね。まるでT.S.スピヴェットの頭の中をのぞいているような体験ができました。

監督:子どもの頃にビューマスター(※フィルムを挿入してのぞきこむと立体写真が見られるおもちゃ)が大好きで、3Dが大好きだった。原作にイラストが描いてあるのを見て、それを映画では3Dで見せたら面白いんじゃないかと思ったんだ。脚本も企画も絵コンテも全て3Dのイメージで書いたよ。

今作はハリウッドで流行っているようなコンバージョンもの(※2Dで撮影した映画を3Dに変換した作品)ではないんだ。撮影も3Dで行ったし、編集の段階でもすごく細かいところまで調整した。『ヒューゴの不思議な発明』のステレオグラファーが世界一なので、今作にも参加してもらった。僕は商業的な理由ではなく、アーティスティックな方向性として3D映画を作ったんだ。

──カイル君が撮影中に1番楽しかった思い出は何ですか?

カイル:スピーチのシーン。それにスタントを全部自分でできたこと!

監督:スピーチのシーンは台本にして3、4ページ分の台詞があったんだ。1人でマイクの前に立ち、大勢のエキストラの前で演じなければならなかったんだけど、カイルはたったの2テイクでやってのけた。いつかメイキング映像が公開されたら、カメラの後ろで涙する僕が見られると思うよ。

──日本では特に『アメリ』が大人気で、監督のファンもたくさんいます。監督は日本のどんなところが好きですか?

監督:『アメリ』に登場するカフェに、毎日のように日本のファンが来るよ。「ポスターを撮りたいからどいて」と、よく言われるんだ(笑)たぶん僕の母は前世で日本人だったんじゃないかな。僕は母から他者を敬うように言われて育ったからね。フランスではかなり珍しいことだよ。だから僕は日本に来ると心地良く感じる。でも、全てがあまりにきちっとしていて、しばらく経つと誰かを殺したくなるけどね(笑)


──カイル君にとって、日本で1番驚いたことは?

カイル:みんながすごく優しいこと。みんな礼儀正しいし、それに何もかもすごくきれい。日本では何でも完璧、完璧、完璧!って感じ。ニューヨークでは道にガムが落ちていたり、犬が消火栓でウンチしていたりするんだ(笑)でも日本では何でもピッカピカ!すごいよ!日本で1番好きな食べ物は、日本風のチキンカレーとポークカレーだよ。

──たくさんの言語を話せたり、武道ができたりと多才なカイル君ですが、大きくなったら何になりたいですか?

カイル:映画監督、科学者、役者、武道家、それに大統領!


──将来は監督のライバルになりそうですね。

監督:間違いないだろう。カイルは技術的なことに興味を持っていて、演技も得意だ。監督にはその両方が必要だからね。撮影現場でも興味津々で、撮影部や録音部といった全てのことを理解していると思うよ。若い芽は摘んでおかないといけないな(笑)

Photo: Tetsuro Sato

『天才スピヴェット』
監督:ジャン=ピエール・ジュネ『アメリ』『デリカデッセン』『エイリアン4』
原作:「T・S・スピヴェット君傑作集」ライフ・ラーセン著(早川書房刊)
出演:カイル・キャトレット、ヘレナ・ボナム=カーター、ジュディ・デイヴィス、カラム・キース・レニー、ニーアム・ウィルソン、ドミニク・ピノン
11月15日(土) シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
©ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA 『天才スピヴェット』[GAGA]

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