さんたく!!!朗読部『羊たちの標本』
ショートストーリーを
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第八話『Ring the bell』
(作:古樹佳夜)
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その日も、僕は広間で瑠璃を待っていた。
授業が終わったら、一緒に宿題をするのが
僕らの日課だったから。
でも、瑠璃はまだ来ていない。
…そういえば、さっき部屋に戻る前、
『図書室に本を返しに行く』
と言ってたっけ。
「…着いて行けばよかったな」
瑠璃のことだ、寄り道せずに帰ってくるはず。
……この屋敷で独りなのは不安だ。
僕は広間のソファに腰掛け、ため息をついた。
ふと横を見る。
ソファの端に本が転がっていた。
退屈しのぎに手に取って
パラパラめくるけれど、目が滑る。
数行読んで、パタンと閉じた。
本は好きじゃない。
嘘ばっかり書いてあるから。
「なんだろう、これ」
広間を通りがかったサーシャが呟いた。
部屋の隅にある、ボロ切れのかかった棚に向かって
独りでブツブツ言っている。
(相変わらず気色悪いな。)
「前からここにあったじゃない」
「いや、いつもあるから気づかなかったんだよ」
会話の相手は居ないのに、
まるで二人で会話してるみたいだ……。
たぶん、あの女の人格が出てきている。
あんなの無視だ。
「ねえ、この布外してみたくない?」
「止せ、アレキサンドラ。埃が舞うだろ」
「でも、気にならない?」
「あーもう!
独りで煩いな!!
黙れよ!!」
あまりの煩わしさに耐えきれず僕は怒鳴った。
「わっ…!」
声に飛び退いて、サーシャが振り向く。
その瞳はみるみる深い緑から
燃えるような赤紫になった。
「一人じゃない! 二人!」
「ちっ……怒鳴るな。煩い」
「はぁ!?
そっちこそ怒鳴ってたじゃん!」
サーシャは怒りに任せて手を振り上げたが、
棚にかかったボロ布を掴んだままの拳だ。
引っ張られた布はズルズルと重たい音を立てて、
床に落ちていった。
「ゲホ、ケホ」
溜まった埃が白い煙となって、
もうもうと立ち上がっている。
うんざりするような光景だった。
「なんだなんだ。騒がしいな……」
間抜けな声の主は透だ。
呼んでもいないのに広間に入ってきた。