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「教養」と「リテラシー」を高める月刊誌

“α-Synodos”vol.317(2023/11/15)

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01 シノドス・オープンキャンパス「平和学――戦争と暴力に立ち向かう」宮下大夢


宮下大夢

長野県生まれ。名城大学外国語学部准教授。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了。博士(社会科学)。専門は、国際関係論、平和・紛争研究、国際協力論。国際協力機構JICA研究所非常勤研究助手、早稲田大学社会科学総合学術院助手、東京大学大学院総合文化研究科付属グローバル地域研究機構持続的平和研究センター特任研究員、東京大学非常勤講師などを経て現職。NPO法人「人間の安全保障」フォーラム事務局長、社会福祉法人さぽうと21たてばやし教室総括コーディネーターを務める。主な著作に『新しい国際協力論[第3版]』(共著、明石書店、2023年)、『地域から読み解く「保護する責任」』(共著、聖学院大学出版会、2023年)、『トピックからわかる国際政治の基礎知識』(共著、芦書房、2023年)、『「非伝統的安全保障」によるアジアの平和構築』(共著、明石書店、2021年)、『全国データ SDGsと日本』(共著、明石書店、2019年)などがある。


はじめに

 

平和学(peace studies)は、平和を脅かす要因を特定し、平和の諸条件を明らかにすることを目的としています。めずらしい学問だと思うかもしれませんが、平和学や平和研究という科目を置いている日本の大学は沢山あります。私は早稲田大学社会科学部に進学して平和学を学び、国際関係論のゼミナールに入りました。卒業後は大学院に進学し、国際協力・平和構築論の研究室で研究に取り組みました。また、大学院在学中にノルウェーのオスロ大学大学院政治学研究科へ留学し、平和・紛争研究プログラムで学びました。現在は大学教員として平和や紛争に関する研究、教育、そして社会活動に取り組んでいます。

 

私が大学や大学院で学んだ平和学、国際関係論、国際協力論、平和構築論、紛争解決学などは、いずれも戦争や平和について考える学問です。これらの学問に興味を持った最初のきっかけは、小学生の頃に市の文化会館で行われていた「平和のための戦争展」でした。高校教諭で平和教育に取り組んでいた父に連れられて行った戦争展では、ベトナム戦争や湾岸戦争の悲惨な写真が展示されていました。中学生の頃には自宅にあった二つの漫画に大きな影響を受けました。一つは戦中・戦後の広島で生きる少年を描いた『はだしのゲン』。もう一つは核戦争後の世界を舞台とする『風の谷のナウシカ』です。

 

高校生になると学校の講演会でアウシュビッツ強制収容所の映像をみる機会がありました。ガス室でユダヤ人が虐殺される実際の映像に涙が溢れました。しかし、前に座っていた隣のクラスの生徒はたわいのない雑談をしながら携帯電話をいじっていました。私は涙を流しながら「静かにしなよ」と注意しました。今振り返ってみると、かなり「ヤバいやつ」だと思われたに違いありません。

 

大学生になってから戦争をテーマとした映画やドキュメンタリーを沢山みましたが、1994年に起きたルワンダの大虐殺を描いた『ホテル・ルワンダ』や『ルワンダの涙』は研究者を目指すきっかけになりました。憤りや悲しみを感じると同時に、なぜ虐殺が発生するのか、国際社会はそれを食い止めることができないのかといった大きな疑問が浮かびました。このような問題意識から大学院に進学し、大量虐殺に対する国際社会の対応に関する研究に取り組んできました。

 

2023年11月現在、イスラエル・パレスチナ紛争やロシア・ウクライナ戦争の凄惨な状況が連日報道されています。これ以外にも、ミャンマーの軍事クーデター後の民衆弾圧など、ほとんど忘れられている問題も沢山あります。戦争や暴力によって犠牲になるのは、子どもを含む罪のない民間人ばかりです。こうした現実を前に「何か自分にできることはないか」と考える人は多いのではないでしょうか。平和学という学問は、平和を願うだけでなく、どうすれば平和になるかを科学的な観点から解明することを目指しています。本稿では高校生や大学生、そしてこれから平和について勉強したいと考えている皆さんに向けて、平和学の魅力を伝えたいと思います。