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【最終回まであと2話】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第31回】
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【最終回まであと2話】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第31回】

2014-01-21 00:00


    はじめから よむ (第1回へ)


     僕がすべてを諦めかけた、そのときだった。

     マオの雰囲気が。変わった。

     

     マオの じゅもん!

    …………………………

     

     その呪文は、無言だった。

     しかし僕の今までの経験から、空気が変わったことだけはわかる。

     言葉にしなくても伝わるもの。これが正にそうだ。

     おおかた僕にトドメを刺す、致命的な一言をひねり出そうとしているのだろう。

     そう思った。そう思っていたのだが。

     今にも胸が張り裂けそうな長い沈黙のあと、マオの口から飛び出した呪文は。

     僕の想像と、まったく違っていた。

     

     マオの じゅもん!

    「ずっと ここにいたらいいじゃない」

     

     思ってもみなかった突然の一言に、僕の心の中がかき乱される。

     どういう……意味だ?

     これは。どういう意味なんだ。

     ずっとここにいたらいいって。なんでそんな事を言う。

     さっきまでと言ってることが違う。なんで。なんで。なんで。

     

     マオの じゅもん!

    「ずっと わたしといたらいいじゃない」

     

     どう判断していいのかわからず、僕はまたうろたえる。

     いじめつづけるためか。悪口を言って、僕をズタズタにするためか。

     でもそれならばなぜ今マオは、そんなに悲しそうな顔をしてるの?

     

     マオの じゅもん!

    「なぜだかわからないけど ずっと…… むねのおくが くるしいの……

     

     なぜ。どうして。これはどういう意味なんだ。

     あれだけ僕のことをけちょんけちょんに言い続けてきていた幼なじみのマオがなぜ。

     これは嘘か。嘘をついているのか。いや違う、こんな嘘をつく必要がない。

     それにマオの真剣なまなざしを見ていると、これが嘘とも思えない。

     これは、マオの本心だ。

     しかしこれが本心だとして、どうして今こんなことを言う?

     

     その瞬間、僕はある違和感に気がついた。

     思えば、十年前もおかしかった。

     あんなにやさしくしてくれたのに、その直後に「ドブネズミみたいな顔してる」なんて。

     繋がらない気がした。ドブネズミみたいな顔をしてる弱い奴がキライだったんなら、あんなにやさしくしてくれる必要もなかったはずだ。やさしかったマオが、急にひどい事を言い始めたのには、何かきっかけがあったはずだ。何だ。そのきっかけは。

     あ。

     もしかして。もしかして。もしかして。

     夢の、話。

     あれがきっかけになっていたとしたら。

     マオの様子が急変したのは、僕が魔王の話をしたあとからだ。

     あれがきっかけなんだとしたら。

     仮にあれがきっかけだとしても、その後から急に悪口を言い出す理由がわからない。

     悪口を言い出す前のマオは、やさしくて。僕のことをいつも心配してくれて。

     僕のことを……心配?

     何かが繋がりそうな気がした。

     か細くて、とても信じがたい思いつき。

     まだ事実かどうかわからない。

     だけど。だけどもしかして。

     思いを巡らせる僕を見て、マオがはっとした顔で言う。

    「かっ! 勘違いしないでよね!」

     僕の考えがマオにも伝わったのだろうか、焦ったようにまた気丈にふるまう。

     

     マオの じゅもん!

    「べつにわたしはあなたのことなんか!」

    「ぜんぜんまったくこれっぽっちも すきじゃないんだから!」

     

     僕の浅はかな推論が、紆余曲折を経て、一本の線に繋がろうとしていた。

     

     マオの じゅもん!

    「このバカッ! ドブネズミ!」

     ゆうしゃに 31のダメージ!

     

     あれだけ深刻なダメージを受けていた「ドブネズミ」という言葉が。

     今はもう、そんなにつらくない。

     僕の思っていることが正しければ。マオは。

     どうする。どうしたらいい。不安が消えない。疑心暗鬼が僕を襲う。

     けれど、ここで立ち止まれない。たった一言。たった一言だけでいい。

     僕は勇気を振り絞り、ある呪文を唱えようとした。

     しかし、なぜか言葉にならない。

     僕の口が僕の物ではなくなってしまったような感覚。

     かき乱された僕の心はさらに乱れ、心拍数が上がっていく。先ほどとは違う緊張感。

     なんだこれは。どうして。震えていた体が今度は一気に緊張して堅く、堅くなっていく。

     なぜ。どうして。どうして。どうして。

     そんな僕を見て、しびれを切らしたようにマオが言い放った。

     

     マオの じゅもん!

    「なにかいいなさいよ!」

     

     ぴしゃりと叩かれたような。鋭いもので貫かれたような、一言。

     その一言で僕は正気を取り戻した。

     僕がマオに伝えたいことは。伝えたいと願う言葉は。

     人付き合いが苦手で、他人とのコミュニケーションに恐怖を感じるようになった僕。

     その原因を担っているのは、マオだ。

     マオが言った数々の言葉によって、僕は心に大きな傷をつけられた。

     でも。

     幼い頃、いじめられていた僕をやさしく手当してくれたのも。

     心配して、いつだってそばにいてくれたのも。マオだった。

     そうだ。僕はそんなマオの事を。いつもそばにいてくれたマオのことを。昔から……

     けれど、今のマオは、何を考えているかわからない。理解できないから、こわいんだ。

     でも。

     もしかしたら。

     一瞬見せた表情は、昔のやさしいマオそのものだ。

     ひどいことを言うのは、きっと。

     不器用なやさしさの、裏返しなんじゃないか。

     だとしたら。僕の言いたいことは。たった一言だけ。

     いくらズタズタに引き裂かれても、あの日と変わらなかった、僕の思いを。

     ただ、心を込めて。断固たる決意で。

     僕は。

     僕は! マオのことを!

     

     ゆうしゃの じゅもん!

    「すきだ」

     マオの こころにひびいた!

     マオに 65535のダメージ!

     マオは たおれた!

     
    【 第32回を読む 】


    ・原作となるアプリはこちら(iPhone、Androidに対応しております)

    http://syupro-dx.jp/apps/index.html?app=dobunezumi

     

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