皆様こんにちは、ニコ生D&D解説担当の塚田です。今回のこのコーナーは、『ミスタラ英雄戦記 on the Table』第3話の内容に関連した、戦闘遭遇の作成に関する小技をまとめてご紹介しようと思います。
墜落死を伴う戦闘
塔の頂上、断崖絶壁の端、そして今回のような飛行艇の甲板上――少しでも足を踏み外せば莫大な落下ダメージで即死間違いなしの(そして死体も回収できず、キャラロストの可能性も高い)場所での戦いは、敵の強さとはまた別の側面から緊張感やスリルを与えてくれる素晴らしい舞台設定です。
しかしこれは、プレイヤーたちに「万が一にも落っこちたら大変だ」と思わせたいのであって、本当にPCを即死させたいわけではありません。むしろ、PCにこんな死に方をされてはDMも困ります。そのため、描写や演出で墜落の恐怖をあおりつつも(この辺の描写は山岳小説や極地探検のドキュメンタリーなどが参考になるでしょう)、実際に落下する可能性は極限まで低くしておく必要があります。以下、そのための方法をいくつか述べます。
落下防止手段を配置する:建物、船、道などの日常的に使われている場所であれば、落下事故を防ぐために手すりや欄干などが設置されていて当然です。こういうものがあるだけで強風や船の揺れによる落下はかなり防げるでしょうし、敵が意図的にPCを突き落とそうとした場合も多少は助けになるはずです(公式シナリオでは落下を防ぐセーヴに+2ボーナスという設定が多いですね)。
また、よりファンタジー的で信頼性の高い手段を考えてみるのもよいでしょう。たとえば……
(1)塔の周囲は竜巻に囲まれており、屋上から落ちたキャラクターは強風に吹き上げられて元の場所に戻ってくる(そしてダメージを受け、伏せ状態になる)。
(2)飛空船に船員登録された者が船から一定距離以上離れると、自動的に牽引ビームが発射されて甲板上に引き戻される(ダメージは受けないが、拘束状態か幻惑状態になる)。
(3)奈落の底は上空とつながったループ構造になっており、落下したキャラクターは上空からふわふわと落ちてくる(空中にいる間は良い的になる上、近接攻撃オンリーのPCは実質的に無力化される)。
PCを落とそうとしない:敵に「PCを落下させたくない理由」を持たせるのも良い方法です。たとえば人食いのモンスターがせっかくのご馳走(=PC)を手の届かない場所に落とそうとするはずはありません。また、PCたちが運んでいる何か(誰が持っているののか分からないよう、手紙などの小さな物体が良いでしょう)を奪おうとしている敵も、PCたちを墜落死させるのでなくその場で殺そうとする可能性が高くなります。
いちいち理由を考えるのが面倒な場合は、PCを落下させるような能力(強制移動を伴う攻撃など)を持った敵を出さないとか、そのような能力を持っていても使用しないことにしてもかまいません。ただし、こちらのやり方は一歩間違えると、プレイヤーから「露骨に手加減されて勝っても嬉しくない」などと言われる可能性があるので(モンスター知識判定で能力が露見している場合などは特にそうでしょう)、くれぐれも気をつけましょう。
長い戦闘
今回(第3話)の戦闘は1つの遭遇を前後に分けた構造になっています。2つの別々の戦闘にしなかった主な理由は、動画の時間的制約と、原作のゲームが連続した戦闘シーンなので間に小休憩を挟みにくかったことです。ではなぜ1つの戦闘にまとめなかったかというと、こちらはTRPGならでは理由によるものです。
プレイヤーの休憩:D&Dに限らず、TRPGで長時間の戦闘を行なうのはリスクを伴います。プレイヤーの判断力や集中力が低下するにつれ、ルールや戦術上のミスが増え、ロールプレイを考える余裕もなくなり、ダラダラと数値処理だけを続けることになりがちです。1つの戦闘を2つに分けて間に休憩を挟むことで、このようなリスクを避けることができます。ただし、休憩を長く取りすぎると参加者の意識がゲームから離れてしまい、セッション再会時にすべての情報を一から説明しなおすことになりかねないので注意が必要です。休憩の妨げにならない程度に戦闘前半の反省やルール確認などの話題を振ることも考えておきましょう。
難易度の調節:戦闘を前半後半に分けておくことで、前半でのPCたちの消耗具合に応じて後半の難易度を調節することができます。戦闘の途中で調節したってかまわないのですが、いったん区切りを入れて落ち着いて考えた方が良い結果につながりやすいでしょう。途中で敵の増援が登場する場合は特にそうです。DMが敵のデータを読み直すために戦闘の進行が中断されるとせっかくの熱が冷めてしますし、「増援出現のタイミングだけど、PC側が不利っぽいから敵の数を減らそうかな」などと悩んでいることをプレイヤーに悟られるのもあまり良いことではありません。
大規模戦闘
PCと多数の敵(および味方)が入り混じる大がかりな戦闘には、普通の戦闘では得られない楽しさがある反面、そのままルール的に処理するととてつもなく時間がかかってしまいます。ここでは、大規模な戦闘に参加しているという雰囲気を味わいつつ、ゲーム的な処理を軽くするためのやり方をいくつか紹介します。
敵の一部を友軍に任せる:PCたちは敵集団の一部(おそらく精鋭部隊)だけを相手にし、他の敵は味方NPCが相手をします。NPC同士の戦闘をルール的に処理する必要はなく、PCたちの戦闘シーンの“背景”として演出しましょう。PCたちが勝てば味方NPCも勝利し、PCたちが負ければ味方NPCも敗北するとすれば、PCたちが物語の主人公であるという感覚が強くなります。それではあまりにご都合主義だと思うなら、結果はダイス・ロールでランダムに決まるが、PCたちの勝敗によって出目に修正が加わることにするのもよいでしょう。
たとえば今回(第3話)の戦闘では、敵はPCたちと戦っている以外にも多くいて、それらは飛行艇の乗組員たちと戦っているという設定でした。時間に余裕があれば戦闘の前にPCと乗組員が会話するシーン(水夫A曰く「この航海が終わったら許婚と結婚するんだ」etc)などを挟むことで、「早く目の前の敵を倒して味方の救援に行かなければ」という切迫感を与えることもできたでしょう。
ザコ集団は技能チャレンジで:前回(第2話)のように、普通に戦ったらPC側が勝つと決まっている(ただし損害ゼロとまではいかない)格下の敵との戦闘は、技能チャレンジで処理する手もあります。これはゲーム的処理というよりも演技や演出を楽しむためのシーンなので、プレイヤーたちには人間離れした高レベルPCたちの無双ぶりを存分に表現してもらい、DMも恐れおののく敵たちを描写して盛り上げましょう。
複数の遭遇に分割する:1回のセッションに長い時間を費やすことができるなら、通常の遭遇に匹敵する戦力の敵集団が次から次へと登場する連続した遭遇をプレイすることができます。旧版の名作シナリオ『赤い手は滅びのしるし』のブリンドル攻防戦などが良い例です。
この場合、簡単なやり方としては、通常どおり小休憩を挟んだ複数の遭遇を用意した上で、それらを連続した1つの大がかりな戦闘であるかのように演出するという手があります。つまり、「PCたちは物語的にはずっと戦い続けているけれども、システム的には特定のタイミングで小休憩を取ることができる」とし、後は戦闘中に休憩を取れる理由をでっちあげるのです。例えば……
(1)敵勢にはPCたちと同等の相手もいれば、PCたちの相手にならないザコも含まれている。後者を片付けるのはPCたちにとって小休憩の邪魔にならない程度の「軽い作業」であるため、PCたちは片手でザコを蹴散らしながら呼吸を整え傷の手当てをすることができる。
(2)PCたちは防衛ラインが突破されそうになった場所に派遣される予備兵力である。一度敵の攻勢を食い止めると、次の大攻勢までの散発的な攻撃は味方NPCに任せて、PCたちは休憩を取ることができる。
また、『ダンジョン・マスターズ・ガイド2』の第2章コラム『長い戦闘』では、小休憩を挟まず遭遇を途切れさせずに、PCたちにリソース回復の機会を与える特別なルールも載っています。
今回のコラムが皆様の楽しいD&Dセッションに繋がれば幸いです。それでは、次回以降の配信もお楽しみに!
『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』
著:塚田与志也
監修:柳田真坂樹
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