水曜夜は冒険者――場所はお馴染み、東京は代々木、HobbyJapanの配信室から。今回はなんと主人公ジェイド(の代表PLである柳田)がお休み、主人公不在回ということに。まぁ、ジェイドは今回ちょっと人事不省気味(?)で、同じくお休みのミシュナに付き添われていた、という扱いで。
 代わって前回お休み、先にネヴァーウィンターに向かっていたヘプタとセイヴが復帰。ヘプタとセイヴは火砕流が通り過ぎた焼野原を行き、エイロヌイ、それに無事復活なったエリオンはフェイワイルドからポータルを抜け……と、それぞれにネヴァーウィンターへ急ぐ今回の冒険は……



 ヘプタとセイヴはともすれば暗澹としがちな気分を奮い起こしながらホートナウ山を下り、ネヴァーウィンターへと向かっている。

 街道があったはずの場所は、見渡す限りの焼野原だった。
 山を凄まじい勢いで駆け下った火砕流は山から街までの土地を焼き尽くし、そして焼かれずには済んだものの噴煙の瘴気にあてられたのだろう、鳥や獣がばたばたと倒れ死んでいる。
 ネヴァーウィンターのあたりは黒煙に包まれ、山の上からは確かに見えた“正義の館”も、今はその影さえ見えぬ。

ヘプタ:「27年前もあれだけは無事だったって言うっすからね。俺のねぐらはそりゃ、影も形もないだろうけど、みんな正義の館んなかに逃げ込んで、きっといっぱい助かってるんっすよ」
セイヴ:「ああ。きっと、な。ジェイドの妹も、エリオンの弟も……」
ヘプタ:「ジェイドの……そうそう、確かタンバリンとかいう娘さん」

 セイヴは呆れたようにヘプタを見る。ヘプタは口元だけを笑いの形に歪め、そして、行く手の先を指さした。街の方から何かがやってくる――馬車の列、人、中には武装したものも数名いる。キャラバンだ。
 ヘプタとセイヴは顔を見合わせ――そしてキャラバンが近づくのを待って、その行く手に思い切り肩をいからせながら、ずいと踏み出した。

 どう見てもチンピラのヘプタ。
 白面異形に二刀を携えたセイヴ。
 焼野原を背景に、剣呑なことこの上ない。
 すわ、追剥か、ずいぶん気合の入った火事場泥棒か――キャラバンは止まる。積み荷を見れば、どうやら毛皮商人だ。そして、護衛たちに左右を守らせながら隊長らしき男が出てくる。

隊長:「何の用だ」

 それには答えず、セイヴは問う。

セイヴ:「あんたたち、ネヴァーウィンターから来たのか」
隊長:「……いや、商用でネヴァーウィンターに向かっていた。が、目と鼻の先で火山が噴火して街はあのざまだ。とても商売どころの話じゃない。引き返すところだ――あんたたちは」
ヘプタ:「俺たちはあの街に向かうところっすよ」
隊長:「正気か? 悪いことは言わない、引き返せ。あの街はとても入れた状態じゃぁ……」
セイヴ:「それでも、だ」

 隊長、息を飲む。

隊長:「……あの街の出身者か……。気の毒に。じゃあ、せめてこれを持っていけ」

 渡してくれたものは“ファイアービートル・ポーション”が2本。飲めば皮膚は火甲虫の背のように固くなり、熱気や炎の舌を跳ね除けるようになる。具体的には[火]ダメージに対する抵抗5を得られる。

ヘプタ:「助かるっす!! みなさんたちにコアロン神の祝福のあらんことを!!」

 ヘプタ、懐からコアロン・ラレシアンの聖印を取り出す。隊長は目を丸くして、あんたそれ誰かから取り上げたのか、と失礼極まりないことを口走った――いや、それは実際、コアロン神の司祭と偽って実はアスモデウス信者であったアデミオス・スリードーンから取り上げたものだったのだが。

セイヴ:「いや、こいつはこれでもコアロン・ラレシアンの敬虔な司祭……」
ヘプタ:「そうっすよ!! ちゃんと自分の聖印も持ってるっす!!」

 胡散臭いことこの上ない。

 コアロンの聖印のついた財布を掲げ、空中にいい加減な印形を描くヘプタを見ながら、隊長は初めて心底可笑しそうに笑った。

隊長:「この状態でも冗談を忘れないとはな……あんたたち、その心意気ならあの街でも生き抜けるだろうよ。俺たちはこれからラスカンの先のアイスウインドデイルまで帰る。もしそこまで来ることがあったら俺を訪ねてくれ。毛皮商人のロイドといえばわかる」

 「ラスカンか、あの街はうっかり通らない方がいいぞ」とセイヴが言い、ロイドは「当然大回りして行くさ」と答える。その後ろでヘプタが「冗談じゃないんっすけどねぇ……」とぼやいている。



 ロイドと別れ、しばらく行くと、とうとうネヴァーウィンター――あるいはネヴァーウィンターだった場所――についた。本来がところどころ崩れた城壁に囲まれる街だったのだが、今や城壁の破れ目はすっかり灰で潰され、門も山が吹き上げた大岩に半ば埋もれ、あるいはくすぶる材木の山となって本来は入り口たるべき場所を塞いでいて、街に入れる場所がまるで見当たらない。だからと言ってここで手をこまねいているわけにもゆかぬ。必死になって街のぐるりを探し回ると、1か所、被害のほとんどない門がある。具体的には〈自然〉もしくは〈知覚〉判定を要求されて成功したのだ。

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ヘプタ:「おーい、開門ー!!」

 声をかける。誰か生きていないともかぎらない。が、もちろん返事はない。代わりに火のはぜるような音がした。

ヘプタ:「生きている人、いるっすかー!? 生きてたら生きてるって言ってほしいっす。死んでたら死んでるって……」
セイヴ:「バカ、エヴァーナイトの空気に馴染みすぎだ」

 こわばった顔を無理に笑いの形に作りながらセイヴが言ったとき、城壁の上から急に“気配”――としか呼びようがない――が、圧し掛かってきた。冷たく重苦しい、死の臭いしかしない気配の中から、しわがれた女の声がする。

???:「よくぞ死霊の世界から帰ってきたな。そなたらの悪運の強さにはあきれ返るばかりじゃ」

 そうして痩せた女が一人、城壁の上に姿を現す。血の気のない皮膚、生きている人間のものではない。

セイヴ:「何だ、こっちは初見だが、あんた、俺たちのことを知っているのか?」
???:「そなたらは知らぬだろうな。だが妾はそなたらをよく知っている……あの火山の噴火を引き起こしたのはそなたらか?」
ヘプタ:「知りませんよ。火の神様が暴れたんじゃないすかね」
???:「そうか。だが星の巡りは、あれはそなたらの仕業と告げているのだが」
ヘプタ:「星占いっすか。そんなオカルトどうでもいいんで門を開けてくださいよ。生きている人がいたら助けなきゃ」

 女は冷たい嘲りを浮かべる。

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???:「助けられる人間など一人もおらぬぞ。おお、そう言えば名乗り遅れたな。妾はヴァリンドラ・シャドウマントル、サーイのレッド・ウィザードじゃ」
ヘプタ:「ああ、なんだ、ミシュナんとこの校長先生じゃないっすか。ミシュナならいないっすよ」
ヴァリンドラ:「だからこそ今、そなたらの前にやってきたのだ。そなたらは我が軍勢とよくなじむだろう。妾の軍門に降らぬか」
ヘプタ:「は、こんな見るからに正義の味方捕まえて何言ってるんっすか、アタマおかしいっすね」
セイヴ:「だからミシュナにも見限られたのだろうな」
ヴァリンドラ:「ミシュナは既に妾の僕。あの娘は妾の望む結果をもたらしたのだからな……」

 ヘプタとセイヴは揃って肩を竦めた。

ヘプタ:「お話にならないっすね」
セイヴ:「学校の先生なら人の話はもっとちゃんと聞くもんだぜ」

 言いざま武器を構える。その時には周囲には瘴気が立ち込め、魍魎じみた化け物どもががれきの間から立ち上がろうとしている。おおかた、死霊術師が呼び出したものだろう。

 影のような気配のような――それとも怨念が実体化しかかったようなそいつらを、ヘプタとセイヴは斬って斬って斬りまくる。というか先週エリオンとエイロヌイが無駄にかっこいい演出戦闘をやったのでこっちにもやらせろという次第。
 雑魚はあらかた倒し、そうして残ったのは2体、いかにも剣呑そうな代物が瓦礫の間を抜ける小道の両端から、ヘプタとセイヴを挟み撃ちにするように迫ってくる――今度こそちゃんとした戦闘開始。

 やってくるのはワイトだ。触れただけで生命を奪う――具体的には回復力1回ぶんを失わせる――厄介な代物。まずい。

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 身構えるのが一瞬遅れた。武器を構えなおしたときにはヘプタもセイヴもワイトの爪で生命力を掠め取られている。ぐずぐずしてはいられぬ、一刻も早く敵の数を減らさなければ。
 ヘプタは素早く1体のワイトの背後に回り込んでセイヴと2人でそいつを挟むと、すかさずシックルを叩き込む。“スマイト・アンデッド/アンデッドを打つ一撃”の技である。セイヴの剣が生き物のように踊る。手応えあり。さらに剣を握る手に力を込める。一瞬でワイトの身体は半ば斬り飛ばされた。
 ――と思った瞬間。
 切り口から、熱い灰が飛び散った。焼け死んだ者の恨みが灰の形を取ったのか。ヘプタは危うく避けるがセイヴがまともに灰を浴びる。恨みの灰がセイヴの身体にまとわりつき、動きを縛る。厄介な――早く決着を付けねば面倒だというのに。

 そこへさらに死者の気配が増える。くすぶる瓦礫の中からさらに、炎を上げて燃え盛る骸骨が立ち上がる。ブレイジング・スケルトンが2体――おのれヴァリンドラ、戦闘を長引かせて俺たちの消耗を待つつもりか。城壁の上からは召喚呪文を唱え続けるヴァリンドラの声がずっと聞こえ続けているのだ。

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セイヴ:「ちくしょう、あのガイコツ、何とかならないのか!?」
ヘプタ:「さすがにもうヤバいっすよ!!」

 と、その時。
 楽の音が響いた――いや、剣が風を斬る音だ。

ヘプタ:「エリオン!? 生きていたのか……!?」
エリオン:「いかにも。私こそエリオン・シルヴァークラウン、プライモーディアルの炎より甦りし者……」

 もったいぶった声と共にもう一度剣の鳴る音。形を成しかけていた3体目のワイトが消し飛ぶ。



 話は少し戻る。
 ジェイド、ミシュナ、エリオン、エイロヌイの一行がフェイワイルドから物質界へ続くポータルを抜けると、そこは焼け野原だった。行く手には黒煙に包まれたネヴァーウィンター。ジェイドの顔から血の気が、はっきりそれとわかるほどに引いてゆく。しかし行くと決めたのだ、行かなければ。

 ネヴァーウィンターの焼けた壁が視界に現れた瞬間に、限界が来た。ジェイドはその場にくずおれ、咆哮とも悲鳴ともつかない声を挙げた。

ミシュナ:「ジェイド……!!」
エイロヌイ:「ミシュナ、ジェイドが落ち着くまで彼についていなさい。これだけきれいさっぱり焼けてしまったなら敵もいないはず、しばらくなら2人だけでも危険はないでしょう。私たちは先に行きます。ヘプタとセイヴが待っているはず」

 エイロヌイが早口に言った。彼女は城門の上にレッド・ウィザードの姿を認めていた。ジェイドがこの状態で、ミシュナまで度を失うようなことにさせてはならない。ここは別れて行動したほうが賢いだろう。

 そうして駆けつけた城門前で、エリオンとエイロヌイはアンデッドの群れ相手に苦戦しているヘプタ、セイヴと合流した――というよりはその戦闘に飛び込んだのだった。

 エリオンの剣が奔る。燃え盛る骸骨の眼を、さらに眩しい陽光が灼き潰す。骸骨は炎を吹き上げるが――エリオンは涼しい顔。既にプライモーディアルの炎の触れた身体は、物質界の炎になどそうそう焼かれはしないのだ。具体的には[火]に対する抵抗がついている。

 セイヴがまたワイトの爪に生命力を掠め取られた。さすがにこの化け物は先に片付けないと厄介だ。ヘプタが両手を掲げる。右手に妖精、左手に炎――“フェアリー・フレイム・ストライク/妖精怪火撃”。ワイトが大きくよろめく。さらに畳み掛ける。具体的にはアクション・ポイントを使用して“ブレッシング・オヴ・ザ・ワイルド/野生の祝福”を叩き込むと、ワイトはその場で消滅した。偽りの命であろうとも命は命、そしてさっき散々生命力を掠め取られた恨みもある。セイヴがすかさず飛び去ろうとするワイトの活力を吸い込む。

 その背後ではエリオンがさも馬鹿にしたような笑い声を挙げている。燃える骸骨の投げつけてくる炎の塊をまともに喰らい――だが、それは彼の髪の毛一本焼けはしないのだ。

 目の前の敵を倒すのに夢中になっていたが、ふと気づくと城壁の上のヴァリンドラの詠唱は最高潮に達していた。しかしさっき以上に敵が増える様子はない。これは何かとんでもないものがこの後に控えているのではないか。

エイロヌイ:「さっさと片付けましょう」

 エイロヌイは剣を構えると、燃える骸骨の1体に突撃した。エリオンもそれに続く。大きく振り切った剣を鮮やかに返し、具体的にはアクション・ポイントを使用してさらに一撃。これで骸骨は崩れる。

 とにかく早く片をつけなくては。ヘプタは低く聖句を唱えながら、残るワイトに斬りかかる。ワイトから灰が吹き出し、またもやセイヴが死者の恨みの灰をまともに喰らう。半分死者だけに親和性が高いのかもしれぬ。ヘプタはすかさずセイヴの傷を癒してやる。背後から骸骨の火炎弾が飛んでくるが誰にも当たらない。構わずセイヴはワイトに斬りかかる。が、力余って剣は空を薙いだ――と思った瞬間、ヘプタの唱えていた聖句が力を発揮した。味方の剣に神の導きを――外れたはずの剣はみごとにワイトの胴を斬り飛ばし、そのままワイトは消滅する。

 残るは燃える骸骨が1体のみ。エイロヌイの胸元から妖精境の光が迸る。危ないところで骸骨はそれをかわすが――だが、同時に発せられた聖騎士の「そなたを我が神敵と定める」という宣言は逃れられぬ。

 あと一息。
 そう思った瞬間、城門が開いた。
 凄まじい熱気が噴き出してくる――そして溶岩がゆっくりと歩みだしてきた。いや、溶岩ではない。竜だ。それとも溶岩が命を得て竜の姿を取ったのか――ヴォルカニック・ドラゴン、火山の力を享けし竜。火山の熱気と瘴気を吹き出すもの。牙と爪は炎に覆われ、一方その爪に触れれば火への抵抗は抑制され――つまり下手をすれば焼かれ放題となる。ネヴァーウィンターを襲った悪夢が竜の姿を取ったとでもいえばよいのか。ヴァリンドラの姿は既に城門の上にはない。つまり彼女が喚んでいたのは、これか。

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 いや、ヴァリンドラの思惑などどうでもいい。門を塞ぐ竜を倒さねば、ネヴァーウィンターには入れぬ。ならば、倒すまで。



 ヘプタは火甲虫の霊薬を飲み干した。そこへ折り良くか悪くか、1体残った骸骨の火炎弾が飛んでくる――もちろんヘプタは霊薬のおかげで火傷ひとつ負わない。が

セイヴ:「生かして――じゃねえ、動かしておくとやっぱり厄介だな、こいつは俺が片付ける」

 セイヴが呼応するようにそいつに突っ込む。恐るべき勢いで一息にふた振りの剣が叩き込まれ、あっという間に骸骨は半壊する。しかしそこへ溶岩竜の連撃。双手の爪、そして牙がセイヴの身体を削り、ついでに半ば死んだ半死者の肺をも萎れさせる火山性の毒がセイヴの喉を詰まらせる。

エイロヌイ:「させるものですか、神の御名のもとにひれ伏すがいい!!」

 エイロヌイが高々と叫ぶ。その全身から目眩む光が迸り、竜の目を灼く。それだけでは済まぬ。エイロヌイの声はさらにシルヴァヌスに仕える雷の天使の名を呼ばわっていた。竜にしか聞こえぬ轟音が熱い空気を震わせる。さしもの竜も足は萎え、思考は鈍り、具体的には雷鳴ダメージを負い、さらに減速かつ幻惑状態となり果てる。

エリオン:「竜は任せた、私は邪魔者を片付けておく!!」

 エリオンがするりと回り込む。燃える骸骨は突如出現した妖精剣士に虚を突かれ、そしてそのまま斬られて崩壊した。

 残るは溶岩の竜のみ。

ヘプタ:「コアロン様から新しい力を戴いたッス!! 勝利は約束されてるッス!!」

 ヘプタが口いっぱいに喚き、空中に――こんどははっきりと――“V”の字を描いた。“マーク・オヴ・ヴィクトリー/勝利の印形”が光を放ち、パーティー全員を包み込んだ。
 神の力が皆の腕に宿る。具体的にはこれ以後遭遇終了まで、ヴォルカニック・ドラゴンに対する全員のダメージの値が+2される。さらにクロスボウを構え、ボルトを撃ち込む。まさに八面六臂の大活躍。
 そこに生じたわずかな時間を使い、セイヴは自分の傷を調べる――これなら大丈夫、呼吸ひとつでみるみる身体に新たな力が甦ってくる。戦っているうちに覚えた自力治癒の方法――“ヒーリング・ローア/治癒の知識”である。よし、もう大丈夫。つかつかと竜に歩み寄り、その足の腱を薙ぐ。と、その剣の冴え、城門を塞ぐほどであった竜があっけなく地面に這いつくばるではないか。

 だが、竜もそのままではいない、転びながら振り回した爪がエイロヌイを薙いだ。が、皮膚を一枚裂いたにすぎない。次の瞬間にはエイロヌイが返礼の一撃を叩き込んでいる。“ライチャス・スマイト/正義の一撃”――神の御名において叩き込まれた剣は、悪しきものの生命力を削りながら味方の身体には力を与える。具体的には全員に一時的hpが付与される。

エイロヌイ:「まったく油断をしていた私が悪いのですけれど――魔法の外套の力を使っておくべきでしたね」

 剣を引き抜きながらエイロヌイはつぶやいた。まとった“クローク・オヴ・レジスタンス/抵抗の外套”がぼうっと光った。具体的には以後、すべてのダメージに対して抵抗5が与えられる。
 
エリオン:「あいつ、皮膚が十分に薄くなったら溶岩を噴き出すのだったか……」

 剣に込めた魔法を解き放ち、陽光にもにたまばゆい光で竜の眼を灼きながらエリオンはつぶやいた。

セイヴ:「だが、やらないわけにもいくまい」
エリオン:「……そうだな。思い切り斬り込んでくれ。あなたは私が守る」

 セイヴとエリオンがちらりと互いに視線をかわした。その脇ではヘプタが、竜に向けたはずのボルトを地面に叩き込んでいる。具体的には出目が1だった。

 それを横目に、セイヴが思い切り剣を振りかぶる。刃はみごとに竜の鱗を深々と抉った。その瞬間、傷口が内からぱっくりと割れ、中から灼熱の溶岩が噴出する。が、

エリオン:「いかなる爆発とて我を捉えることはかなわぬ!!」

 エリオンはセイヴの身体を抱えるようにして飛び退っていた。噴き出した燃える岩は、1インチの差でエリオンとセイヴを捉え損ねていた。そして

エイロヌイ:「シルヴァークラウン、あなたは私を守るのではなかったのですか!?」

 溶岩の噴出に巻き込まれたのはエイロヌイ一人。とはいえ悪いのはもちろん竜である。だからエイロヌイはしかるべき相手にしかるべき返礼をした。樫の木の乙女の剣は竜の柔らかい喉を深々と抉っている。さらに

エイロヌイ:「神の御名において命じます、足は萎え、牙は抜け、爪は折れるがいい!!」

 神の名を呼ばわりながらもほとんど呪いに近いような言葉とともに二撃めを叩き込む。それも過たず竜の眉間を捉えていた。具体的にはクリティカルヒットの連発である。そうなるときはなるものだ。

 既に体力の半分を失い、さらに必殺の剣を二度も叩き込まれ、力を奪われた竜はさすがに後ずさった。すかさずエリオンが追い打ちをかける。

エリオン:「逃げるか。許さぬ。正々堂々と戦って死ね。その前に教えてやろう。我が名は太陽と月をつかみしエリオン、そして原初の溶岩の中から甦りしエリオン・シルヴァークラウン。貴様ごときの噴き出すありきたりの炎などで我を焼くことはできぬッ」

 エリオンの掲げた剣から白熱した陽光が迸る。ヘプタもセイヴも詰め寄ってゆく。が。

 一瞬の隙を突き、竜は大きく翼を広げると囲みを飛び越え、そのまま逃げ去った。追おうとした刹那、その赤熱した身体が塞いでいた門の向こうの風景が見えた。全員の足が、思わず止まっていた。

 そこは既に街ではなかった。
 燃えたものが山を成した後に崩れ、人の姿などどこにも見えぬ。――いや、道と思しき場所に転々と落ちている黒い塊、あれは……

 それでも、進まねばならぬ。
 ここまで来たのだ。
 正義の館の無事も見えたのだ。
 ならば、進まねばならぬ。

セイヴ:「おい、ボウズと嬢ちゃんはどうした」

 街に踏み込もうとしたまさにその瞬間、セイヴが素っ頓狂な声を挙げた。

エイロヌイ:「ジェイドの具合が悪いので先に来ました。ミシュナは付き添わせています。まさかこの街を見落とすことはないでしょうから、落ち着いたら来るでしょう」

 一同、顔を見合わせる。
 確かに一度は落ち着いたとはいえ、この状態を見たらまたただでは済むまい。

セイヴ:「……まあ、嬢ちゃんがなんとか連れてくるだろうさ」

 それ以上は誰も何も言わなかった。
 焼け焦げた死の街に、一行は重い足どりで踏み込んでいった。



ジェイドの決断

第1回
問い:エラドリンたちはニュー・シャランダーに留まるべきか、引き払うべきか。
答え:俺が秘宝を取り戻してくる。だからしばらくこの地に留まっていてほしい。



著:滝野原南生