水曜夜は冒険者――場所はお馴染み、東京は代々木、HobbyJapanの配信室から。今回は一行全員そろってのセッション開始。ちなみに先週は非常に格好よく終わったのだけれど、ラストにアルコールが入っていたせいで一部記憶があやふやという状況に……。毎週の配信前にリプレイをアップ出来ていて本当によかった、と思ったとか思わないとか。
 ともあれ一行が全員揃い、シャドウフェル墜ちしたネヴァーウィンターのはずれ、ネヴァー城へ――そこで待ち受けているものは……



 ネヴァーウィンターの街路は互いに喰いあう死者で溢れかえっている。呻き、叫び、肉が叩き付けられ弾け喰いちぎられる音が不気味な喧噪を作り出している。
 その中を、ジェイドたち一行は、夜の闇の中に光るただひとつの光――ジェイドの妹にして、現(いや元と言うべきか)ネヴァーウィンター王、タンジェリンの持つサンブレードの微かな輝きを頼りに、ネヴァー城へと向かっている。
 正義の館まで来るときは死者の囲みを抜けねばならなかったが、今は襲撃される心配はない。心強い“天然もの”のゾンビやスケルトンやグールたちが、サーイのアンデッドどもを食い止め、一行の前に安全な道を作り出してくれている。
 
 溶岩竜と戦ったときの傷は正義の館で一息入れる間に癒したが、昨晩街を抜けた時に死者たちから受けた呪いは今もジェイドたち一行の身体に重く絡みついている。気は逸るが足取りは重く、武器を振るう腕には思ったように力が入らぬ。具体的には減速状態かつ弱体化状態である。前回の技能チャレンジの失敗の影響だ。だが、行く。身体の力がすっかり戻るのを待ってはいられぬ。
 思惑はそれぞれ――ジェイドの目的はもちろんタンジェリンの救出。エリオンは彼女に同行する弟デイロンの奪還の、エイロヌイは同胞を謀ったアデミオスの処刑のために。そしてヘプタはハーパーを裏切って死んだはずのキムリルの正体を確かめに。ミシュナは「まずはジェイドを救わなければ」とつぶやき、セイヴは「乗りかかった船だ、まさか放っても置けまい」と笑う。

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 岸壁にそびえたつネヴァー城の大門は大きく開け放たれ――というよりも27年前の大災害の時に崩れて以来再び閉じる者もなく、そのままになっているのだ――まるで一行を飲み込もうと開いた巨大な口のよう。崩れかけてはいるがまだ保たれた威容は、昔日の栄光の名残のようにも、あるいは失われた輝きを思い嘆き続ける巨大な悪夢のようにも見える。
 ネヴァレンバー卿が行なった復興事業でも、このネヴァー城は手つかずのまま残されていた。かつてホートナウ山が噴火した時に死んだネヴァーウィンターの王族や貴族たちの亡霊がこの城に住み着き、理不尽に奪われた命を嘆きながらさまよい続けているせいだ。ちなみにネヴァーウィンターの影であるエヴァーナイトでもこの城は“幽霊の出る恐怖の城”だった。アンデッドが怖がる幽霊とはいかなるものか――いや、どちらにしろ良い話ではない。
 
 門を抜け、建物に入る。
 入るとすぐ、かつては美しかったであろう中庭を巡る回廊になっている。城の本館はその奥なのだ。
 
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 エリオン:「ここは――鏡の回廊、だな。この城はシャランダー様式で建てられているようだから……たぶん」
 ヘプタ:「あー、俺、聞いたことあるッすよ。ネヴァー城に入ってすぐの廊下は“灰鏡の大廊下”って呼ばれてるって。ここだったんだなぁ。確かにそこら辺中にガラスの欠片が落ちてる。これが鏡だったのかな?」
 
 一歩踏み出す。
 と、奇怪なことが起こった。
 回廊中にガラスの細かい破片が散乱していたのだが――それがふわりと空中に浮きあがり、そして壁に吸いついていく。一度砕け散った鏡の時間が目の前で巻き戻っていくような。
 
 そして。

ミシュナ:「ああ、やはりここは“鏡の大廊下”だわ。見て、鏡の記憶が映ってる」

 ミシュナの指差す先では、鏡の中に移る鮮やかな影――いや、過去の鏡像。花の咲き乱れる回廊を貴族たちが行き交っている。時折り鏡に視線を走らせるのは、

エリオン:「ここは歩き方や仕草を整えるための場所なのだ。城に上がれば王族に会うことになる。その際にがさつな田舎貴族のままではよくない、と、ここで自分の姿や仕草を確かめ整える――シャランダーの城でもそういったつくりになっている。ここはやはりエラドリンの文化の影響を受けているのだな」

 ということらしい。
 その“鏡の大廊下”が“灰鏡”と呼ばれるようになったわけは、すぐにわかる。回廊の鏡に映る空が赤黒く染まる。大量の灰が、そして岩が飛び込んでくる。岩がぶつかって鏡が微塵に砕け、無数の鋭い破片が優雅に歩いていた貴族たちの身体に突き刺さる。そこに熱い灰が降り注ぐ地獄絵図――それが砕けたはずの鏡に映っている。

ジェイド:「これは……27年前の……」
エイロヌイ:「在りし日の想い出を見せようとするのはどなたさま?」

 つぶやきかけたジェイドの声を打ち消すように、エイロヌイが声を張り上げた。
 と、応えて現れたのは、見覚えのある姿。

アーロン:「久し振りじゃないか」

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 かつてネヴァーウィンターで、ネヴァレンバー卿の統治に対抗してレジスタンス活動を行なっていた“アラゴンダーの息子たち”の急進派、ナシャー派の指導者――そして女王タンジェリンの戴冠式の日には新ネヴァーウィンター騎士団の隊長として一隊を率いていた、アーロン・ブレイドシェイパーである。物わかりはいまひとつ良くなかったが、誠実な男――。

ヘプタ:「生きてたんッすね!!」
アーロン:「ああ、生きていたさ。そしてジェイド、お前がなぜここにいる。何をしに来た」
ジェイド:「俺は……俺は、妹、タンジェリンを救いに……」
アーロン:「タンジェリン様を? この街を滅ぼしたお前がか?」

 アーロンの目が憎悪に光る。

アーロン:「タンジェリン様はこの街の真の女王、貴様などがどうこう言えるお方ではない。第一、貴様が妹を助けようなどと考えたために、どれだけの人間が犠牲になったか……貴様、自分の所業がわかっているのか?」

 ジェイドは言葉に詰まる。

エリオン:「……お前は……ことのいきさつを知っているのか?」
アーロン:「知っているとも。死者たちが囁いてくれる。なぜこの噴火が起きたか、なぜこの街が滅びねばならなかったか――それはひとえにジェイド、貴様の仕業だとな!!」

 詰め寄るアーロンの前に、エイロヌイが一歩踏み出す。

エイロヌイ:「ともかく、ジェイドの妹タンジェリンはこの城の中にいるのですね?」
アーロン:「いらっしゃる。そして俺はネヴァーウィンターの騎士、タンジェリン様の騎士として、あの方をお守りするためにここにいるのだ。あの方こそ真のネヴァーウィンターの女王……ジェイド、いくら王家の血を引いていようが、呪われきった貴様が王などであるものか」
エリオン:「しかし……この滅びてしまった街の王位を名乗ったところで……何を統治するのだ?」

 アーロンの目に蔑みの色が浮かぶ。

アーロン:「貴様らにはそうとしか見えぬだろうが、あのお方はこの街をよみがえらせようとしている。この城の地下にあるという秘密を探り当て……そして……」

 エリオンが息を飲む。この城の地下にあるという秘密――それはまさしくイリヤンブルーエンの奪われし秘宝ではないのか。そう口にしかけるのを、気づいたエイロヌイが慌てて止める。その傍で

ヘプタ:「だって、ジェイドとタンジェリンさんは兄妹なんでしょ。会ってもいいじゃないっすか。人が口出すことじゃありませんよ。通してもらえませんかね」

 まるで緊張感のない様子でヘプタが言う。
 だが、その脇で鏡は映し続けている――ネヴァー城の地下を行くタンジェリンたち一行の姿を。タンジェリン、キムリル、アデミオス、そしてアデミオスに手を引かれるデイロン。急ごしらえの一行とはとても思えない。場数を踏んだ冒険者の一団として危険を回避し、先へ先へと進んでいく――勇ましい、悪夢。エリオンが唇を噛む。

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エリオン:「だいたいお前は、タンジェリンに同行しているアデミオス・スリードーンの正体を知っているのか? 奴は……」
アーロン:「知らん。だがネヴァーウィンターを滅ぼすような奴よりは信用がおける」

 確かにそれはそうだろう。悪神を信仰しているのと街を滅ぼすのでは実効性の桁がまるで違う。しかしこれでは埒があかぬ。セイヴが苦笑いしながら言う。

セイヴ:「アーロン、お前も馬鹿じゃないからわかるだろう。ジェイドは確かに結果的にこの街を滅ぼした。だが、その男がなぜわざわざその街に戻ってくる? 下手をすれば恨まれ殺されてもおかしくない。それこそお前に斬られても仕方ないのだぞ。それが戻ってくるには何かのわけがあると考えても……」
アーロン:「それはジェイド、貴様の心が悪に染まっているからだ。聞けば死者どもの王になったと言うではないか。俺はネヴァーウィンターの騎士として、この街に仇為す貴様を殺さねばならぬ」

 アーロンは語気を荒げ、そして槍を構えて突きつける。
 エイロヌイが薄い笑みを口元にだけ浮かべた。

エイロヌイ:「私たちがこの街に戻ってきたのは為さねばならぬことがあるからです。ジェイドはタンジェリンを、エリオンはデイロンを救いだし、私はアデミオスの首を取らねばなりません。ほかにもそれぞれ理由があります。そのためには私たちは城の中に入らねばなりません。ですからそこを通してください」

 言い終わると同時にエイロヌイの剣の切っ先は、アーロンの胸元へとぴたりと突きつけられている。

アーロン:「黙れ、この殺人者どもが。ここで死ね」

 アーロンが怒鳴り返すと同時に、彼の背後に黒い影、それに燃える塊が浮かび上がった。亡霊だ――が、サーイの死霊術が作り出したものではない。おそらくここで命を落とした人々の成れの果ての姿なのだろう、死んで現世に恨みを残し、物質界でさまようものたちだ。恨みに狂いながら、街に仇為すものを倒すという正義感に燃えている。

 ジェイドは唇を噛み、一瞬俯いた。
 ほんの一瞬。
 再び顔を上げた時には迷わぬ視線がアーロンを、そして怒れる死者たちを見据えていた。

ジェイド:「過去に恨みを残す連中に付き合っている暇はない。俺たちには俺たちの理由がある。そこをどけ」

 剣を抜く。巨大な鉄の塊とも見える蛮刀、その柄にはとがった骨の爪が禍々しく飾られている。クーリエがエヴァーナイトから持ってきてくれた魔法の剣だ。それを憎々し気に突きつけながら、

 ――アーロンの奴、前から自分の視線の高さのものしか見えていない男だった。邪魔はさせられないが殺すわけにもいかない。みんな、手加減してくれよ……
 
 小声でささやく。
 が、

ミシュナ:「その……手加減する必要はないです」

 ミシュナが同じく小声でささやき返す。

ミシュナ:「鏡の魔力があの人に強く干渉しています。それにあの人からは死霊術の力を感じる。あの人、もう、助からないわ」

 ――あの男、まともじゃねえぞ。もうだめだな。

 言いながらミシュナは、魔法書の間から囁きかけるブラックモアの悲しげな呟きを思い出している。

 こうなったら全力で斬って通るしかない。
 死者たちの恨みが絡みつく重い身体に緊張が走る。



 鏡の大廊下が巡らされた中庭から、亡霊たちがこちらをねめつけている。
 炎をまとった燃える大髑髏、フレイムスカル。

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 さらに狂える亡霊――マッド・レイスが2体。人の気力を削ぎ、狂わせ、殺し、そして死んでなお安らがぬ世界へと引きずり込む恐るべき存在だ。

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 いかに現世を恨むべき理由を持っていようが、もはや倒すべき危険な敵であれば斬るしかない。

 いきなりミシュナの唇が震えた。呪文の最後のひとことだった。“スリープ/眠り”の力がアーロンを包み込む。先手必勝、武器を持つ者たちが間合いを計っている間に、魔導士は呪文を紡いでいたのだ。

 心を直接魔力に縛られ、息を詰まらせてたたらを踏むアーロン。剣を構えて踏み込む動きが突然鈍る。その口元から――何か蛆虫のような塊がぼろぼろとこぼれた。

ヘプタ:「ああ、やっぱりまともじゃないんっすね、じゃ、しょうがないか」

 悲しげにヘプタは言い、それからおもむろにレイスめがけてクロスボウを放った。ボルトは明後日の方角に飛んでいったが

ヘプタ:「これは囮って奴でね、本命はこっちだ。さあアニキ、しっかりするッすよ!!」

 くるりと振り向き、セイヴに向かってコアロン・ラレシアン印の財布を突きつける。そこから清らかな光がほとばしり、セイヴを包み込む。ホーリー・クレンジングの業である。神の力に浄化されたセイヴの身体から、死者たちの恨みが消し飛ぶ。具体的にはセーヴに成功して、先週の技能チャレンジ失敗のペナルティとして負わされていた減速状態と弱体化状態が消える。
 ヘプタはジェイドにも励ましの言葉をかけるが、ジェイドのセーヴは失敗。

アーロン:「思い知ったかジェイド、貴様の手足に絡みつくネヴァーウィンターの民の恨みを!!」

 嘲笑いながら――しかしそこまでだ。ミシュナの魔法に完全に心を絡めとられ、アーロンは意識を失って倒れる。よし、今のうちだ、アーロンに干渉しているという鏡を壊そう。鏡の魔力から解放されれば――

 その瞬間、鏡に歩み寄ろうとするジェイドたちめがけて、燃える髑髏から炎の塊がはじけ飛び、降り注いだ。まさに死者たちの恨みということか、ジェイドはその火焔の塊をまともに喰らう。エイロヌイとミシュナにも火の粉が飛ぶが、エリオンは素早く身をひるがえして無事。ちょうどエリオンの隣にいたセイヴもエリオンが抱えて火焔の範囲から飛び出したので無事である。

 ジェイドは歯を食いしばる。恨まれてもしかたない。だが恨みに屈しては何もならぬ。火傷の痛みが却って萎えた手足に力を呼び戻した。
 具体的には対減速状態も対弱体化状態もセーヴに成功した。剣を振るい、鏡にたたきつける。鏡に大きくひびが入る。

 火焔の範囲から脱出したエリオンとセイヴは、しかし拙いところに出てしまっていた。狂える亡霊の目の前だ。ふわふわと飛んできた亡霊は、憎々しげな狂笑を挙げつつセイヴに触れる――セイヴの目の焦点が一瞬合わなくなった。反撃しようとしたかにも見える、振り上げたセイヴの剣は――隣のエリオンを切り裂いている。

エリオン:「……とりあえずこの亡霊たちを始末しないと厄介、ということだな」

 血を流しながらエリオンはため息をついた。次の瞬間、エリオンの手から無数の色に輝く光が放たれ、亡霊たちを焼いている。光の力に打たれ、亡霊の闇の冷気が弱まる。

 燃える髑髏は熱線にさえ気を付ければなんとかなる。まずは狂える亡霊を片づけねばならぬ。この亡霊どもを動かしておいては、いつなんどき味方が殴りかかってくるかもしれぬのだ。ミシュナもヘプタも、そしてエイロヌイも狂える亡霊を呪文で、矢で、そして剣で縛り、切り裂こうとする――が、この世のことわりを半ば離れた存在を物理的な刃で傷つけることは難しい。
 具体的には非物質なのでダメージが半減されてしまうのだ。

エリオン:「亡霊は任せた、私は鏡を!!」

 なかなか埒があかぬと見て取ったエリオンは、踵を返すと鏡に打ち掛かった。さっきのジェイドの一撃でひびがはいっていた鏡は見事に砕け散る――と同時にアーロンの姿が薄れ始めた。いや、崩れ始めた。

 眠っていたはずのアーロンがむくりと起き上った。
 それはもはや生者のものではない。腐り崩れ半ば空洞になった身体に詰まった無数の蛆が“ヒトのかたち”を保っている――ロット・グラブ・ゾンビ、腐肉虫のゾンビだ。おそらくアーロンは最初の火砕流に飲まれ、命を失っていたのだろう。それがおそらく何らかの力で現世に半ば呼び戻され――そして、タンジェリンへの忠誠とジェイドへの憎しみに凝り固まり、発狂したまま生ける死者としてここにとどまったのだ。哀れな狂える死者として。
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アーロン:「ジェイド、貴様はこの街に災いをもたらした。俺の前に現れるネヴァーウィンター王家の血筋を名乗るものは、ひとり残らずこの街に災いをもたらした。俺はこの街の騎士として、貴様を殺す!!」
ジェイド:「黙れ、死んだものが生きているものに文句を言うな」

 にらみ合う二人を他所に、エイロヌイは光をまとう剣で狂える亡霊を切り裂き、一方、セイヴはというと「ちくしょう、こんな足場の悪いところじゃ戦ってらんねェよ!!」とわめきながら中庭に駆け出していく――目指すは燃える髑髏。せせこましい回廊で戦うのは重い鎧をまとった連中に任せておこう。“セーフ・パッセージ/安全な抜け道”のレンジャーの業で軽々と中庭を駆け抜け、宙に浮いて熱線を撃ちまくる髑髏に一撃を浴びせる。たまらず髑髏は落下する。落ちた下には流れる水。かつての造園家がよほど凝ったのか、庭園を巡る瀟洒だったはずの小川の流れは思いのほか速く、飛び上がろうとしてバランスを崩した髑髏はみるみる水の中に沈んでいく。

 ジェイドとエリオンがアーロンと睨み合い、ヘプタが髑髏を片づけにかかっているとなれば、あとの3人は亡霊を片づけるのが仕事。ミシュナは魔法の矢を放ち、ヘプタは妖精の炎をたたきつけ、エイロヌイは力の限り――具体的にはアクション・ポイントを使用して妖精卿の目眩む光を、つまり“レイディアント・デリリウム/惑乱の煌めき”と“ダズリング・フレア/目眩む光”を浴びせかける。

エイロヌイ:「離れれば大丈夫だと、そう思ったのね?」

 形のよい唇が冷たく微笑む。その目の前で亡霊の1体が掻き消えた。

 水からようやっと浮かび上がってきた髑髏はすっかり炎が消えていた。
 1体残った亡霊がエリオンにとびかかり、心を狂わせてジェイドを斬らせようとするも――エリオンの手の中の魔剣は主人の狂気を知ってか自ら軌道を変え、わざと空を斬った。

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 一瞬の狂気を振り払ったエリオンが、右手の剣でアーロンに一撃を浴びせながら、左手からは魔法を放って狂える亡霊を撃つ。ミシュナの手から放たれた魔法の矢もアーロンを襲う。
 エイロヌイの身体全体から清らかな光があふれる。樫の木の乙女の光の姿が死者たちの目をくらませる。その唇がつぶやくのは死者たちを激しく撃つ、具体的には“ターン・アンデッド/アンデッド退散”の、聖なる言葉――ああ、父なるシルヴァナスよ、事情があって死者たちと共にいなければならなくてずっとこの言葉を封印していましたが、
 ――やっと言えます!!
 聖騎士の目が歓喜に輝く。アーロンの身体を聖なる光が跳ね飛ばす。命なき身体は蛆を振りまきながら回廊の向こう、具体的には8マス先まで吹っ飛んでいく。
 ただし、中庭では浮かび上がってようやく燃え始めた髑髏に二撃目を浴びせようとしたセイヴが川を飛び越え損ねて水に落ち、流されていたりしたのだが。

 エイロヌイから放たれた力をかわした亡霊は、身をひるがえすとジェイドに襲い掛かった。狂気の接触がジェイドの心をえぐる。

 ――僭王は死ね。我らの真の王はタンジェリン様のみ……

ジェイド:「煩い、死者は大人しく墓の底に居ろ!!」

 ジェイドは絶叫した。その声に弾かれたように亡霊が落ちた場所がエイロヌイの足元。微かにジェイドは顎をしゃくる。反射的にエイロヌイは亡霊に剣を叩きつける。
 が、その時ジェイドの目が見ている景色は亡霊の魔力で狂わされていた。死者は死者としてこの世から去れと喚きながらジェイドが斬りかかったのはエリオン、危ない、と咄嗟にエイロヌイが飛び込む。

ジェイド:「なぜそいつを庇うエイロヌイ……!!」

 語尾が恐怖に萎む。ジェイドが斬ったのはエリオンを庇ったエイロヌイ、ジェイドが斬ったつもりになっていたアーロンは、はるか廊下の先で倒れている。

エイロヌイ:「ジェイド、取り乱さないでください」

 エイロヌイは鋭い言い、再び剣を構える。ジェイドもそれ以上は何も言わず、剣を構え直す。

 一方、中庭では

セイヴ:「このヒトダマ野郎、俺が上がってこないと思って安心してただろ!!」

 セイヴが口いっぱいにわめきながら水から上半身を乗り上げ、その勢いのまま髑髏を叩き斬っていた。右手の大剣、左手の小剣、ありったけの力を振り絞ってさらに一撃。たまらず髑髏は川岸に落ちて転がる。負けずにエリオンも目の前の亡霊に斬りかかる。薄い存在がいっそう薄れ、もはや消えかけの亡霊、だがまだ恨みはこの世に留まっている。

ミシュナ:「いいえ、もう去りなさい」

 ミシュナが諸手を掲げた。そして回廊の先と中庭に向かって片手ずつをそれぞれに振り下ろす。指の先から魔法の矢が飛んだ。具体的にはアクション・ポイントを使用して1ラウンドに2発のマジック・ミサイルを撃ったのだ。それで亡霊も髑髏も完全にこの世との絆を絶たれ、消えた。

 残るはアーロンひとり。ヘプタはものも言わずにクロスボウを撃つ。崩れかけたゾンビの身体から、蛆がどんどん逃げ出していく。うめき声をあげながらアーロンは起き直り、エイロヌイにつかみかかる。腐った身体をエイロヌイに擦り付け、蛆を移そうとする。だが

エリオン:「哀れな死者よ、聞け、我が魔剣の鎮魂歌を!!」

 エリオンが鋭く叫んで剣を振る。風を切る剣が悲痛な歌声を奏で――その一撃でアーロン、いや、アーロンだったものは蛆の塊と化してくずおれる。

エリオン:「お前に流れる時間は今ここで終わる。……せめて美しい残響を聴いて眠れ」

 腐った眼球が動いたように見えた。
 蛆と見えたのは唇の名残だったのか。

アーロン:「……きさまらに、にど、ころされるとは、な……」

 それきり動かなくなった。
 エイロヌイは短く祈りの言葉を唱え、そして付け加えるように言った――地獄に堕ちる前に、せめて狂気から解放されますように。

 ――阻むものはいなくなった。
 一行は顔を見合わせる。さあ、ぐずぐずしてはいられぬ。先を急がなくては。



ジェイドの決断

第1回
問い:エラドリンたちはニュー・シャランダーに留まるべきか、引き払うべきか。
答え:俺が秘宝を取り戻してくる。だからしばらくこの地に留まっていてほしい。

第2回:
選択肢なし

第3回:
問い:ネヴァーウィンター全滅の原因を問うネヴァレンバー卿になんと答える?
答え:俺のせいだ。俺にはこの惨劇を止める機会があったが止めきれなかった。

第4回:
選択肢なし



著:滝野原南生