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『ネヴァーウィンターの失われし王冠』第三部第9回リプレイ:死せる森にて
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『ネヴァーウィンターの失われし王冠』第三部第9回リプレイ:死せる森にて

2014-07-02 14:37



     水曜夜は冒険者――場所はお馴染み、東京は代々木、HobbyJapanの配信室より。
     今回もミシュナPL若月のみお休み。そして前回はジェイドがネヴァーウィンター森を目指して街を出るところで終わったのでしたが、今回、話は少し遡ったところから開始。なにしろ宝物の回収という重要なシーンはおろそかにできません。
    そして、街を出るときには全員7レベルにレベルアップ、ネヴァー城の宝物庫で入手した新装備もしっかり身に着けたところから冒険はその先へと展開してゆきます……



     話は少し遡る。
     アボレスを倒した後、一行はジャーヴィーの操るいかだに乗り――地上を目指す前に、まず、城の宝物庫に立ち寄っていたのだった。

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     重々しい扉に秘文の守りを施した宝物庫。その扉の前では見知った顔のドラウが一人、腕組みをして待っている。

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    ジャーラックスル:「遅かったじゃないか。さあ、扉をあけてくれ」

    もちろん断る理由もない。案内人としてのジャーラックスルへの報酬は、この宝物庫の中身を分けてやるということだったのだから。
    真の王冠の持ち主がやってきたのを認めると、宝物庫は自らその扉を開いた。
    庫の中は金貨や宝石の山――これだけあればネヴァーウィンターの街の復興資金としてまずは十分だろう。

    ジャーラックスルは報酬として金貨の一割、そして見事な鳥の羽――いずれ魔法の品ではあろうが――を要求し、受け取ると、嬉しげに羽根を自分の帽子に付けた。この伊達男は派手な装身具を集めるのが何よりの喜びなのだった。
    これからの戦いに備え、皆、それぞれに自分の手に合った魔法の品を取った。この街を救うためだ。使わせてもらっても悪くはないだろう。

    そして。
    部屋の中央には石の台座、その上には美しい緑色に輝く大きな種子の形の宝石。
    ――見てすぐにそれとわかる。“リストアラー・オヴ・ジ・アース(大地を回復せしめるもの)”。タンジェリンたちがこの街の復興のために求め、一方でイリヤンブルーエン・ガーディアンであるエリオンが探し求めてきたシャランダーの秘宝である。
     シャランダーが滅び、エラドリンたちがその地を離れている間に人間がその廃墟を――人間の論理では探索し、エラドリンにしてみれば“荒らして持ち去った”――そういういわくつきの宝石だ。街ひとつ分の土地を浄める力を持つというが、その比類ない美しさを惜しんだエラドリンたちはシャランダーが滅んだ時もその力を使うことはなかったという。

    タンジェリン:「これが……これがあればネヴァーウィンターの街を再建できる!!」

     タンジェリンが手を伸ばすのを、エリオンが遮る。

    エリオン:「これは本来エラドリンのもの。イリヤンブルーエン・ガーディアンとして、私がこれを持ち帰らせていただく」
    タンジェリン:「でも……あなたの弟のデイロン君は、街のためにこれを使うといいよって言ってくれた……!!」
    エリオン:「それはあの子の優しい心根ゆえに、街の惨状に対してつい言ってしまったことだろう。私はイリヤンブルーエン・ガーディアンとしての務めを果たさねばならぬ」
    タンジェリン:「それを……それを持ち帰って、あなたたちはそれを何に使うの?」
    エリオン:「失われしシャランダーを復活させるのだ」

     冷徹なまでにはっきりとエリオンは答える。だが、彼の答えは事実ではない。彼は知らぬことだが、エラドリンの貴族たちはおそらくこの宝石の力を使うことはない――比類ない宝石として宝物庫に収め、それきりになるのだが。

    タンジェリン:「でも、これさえあればネヴァーウィンターの街を復活させられるんだよ……!!」
    エリオン:「何といわれてもこれは本来イリヤンブルーエンのもの。それをネヴァーウィンターのために使うかどうかは私の一存では決められぬ。イリヤンブルーエンの民が決めることだ」
    タンジェリン:「だったらネヴァーウィンターとシャランダーを同時に復活させればいい。場所だって近いんだからなんとかなるはず……」
    ジェイド:「待て、無茶を言うものではない」

     タンジェリンの声が跳ね上がるのに、さすがにジェイドが割って入る。

    ジェイド:「そもそもこの宝石にはどれだけのことが可能なのだ?」
    エリオン:「この宝石が力を及ぼすのは都市国家ひとつぶん程度の範囲と言われている。二つの街を同時によみがえらせるのは無理だろう。そしてこの宝石が蘇らせるのは土地のみ。失われた命にまでは力は及ばない」
    ジェイド:「……そうか。確かに降り積もった灰が取り除かれ、溶岩に塞がれた川が元の姿に戻れば……ヒトならばまたすぐにやってくる。100年も生きぬ代わりにどこにでも身軽く旅し多く子を成すヒトの街ならば……土地さえあればすぐに復興するが……」
    セイヴ:「そういうことだ。だが、これは本来イリヤンブルーエンのものなんだろう? 勝手に使ってしまってイリヤンブルーエンの怒りを買うのも街のためにはならんだろうよ。とにかくこれについて決めるのはエリオンだ。王様はそれに対して首を縦に振るか横に振るかってのが仕事だろうな」

     エリオンは静かにジェイドとタンジェリンの兄妹を見遣り、口を開く。

    エリオン:「これをエラドリンの地に持ち帰るために、私はここに来たのだ。これは持ち帰らせていただく。ネヴァーウィンターの復興は、ヴリロカとしての命を得たジェイドが新たに許された歳月を使って行なうことだろう」

     そうだな、と言いかけたジェイドの台詞を奪うようにして、ヘプタが素っ頓狂な声を上げた。

    ヘプタ:「返すべきものは返さなきゃですよ。でもそのあと、訳を話して使わせてくれって言えばいいじゃないっすか」
    タンジェリン:「そうだよ、お兄ちゃん。私、イリヤンブルーエンに行く。それで使わせてくれって頼んでみる!!」

     ジェイドは宙を睨み、一瞬考え込む。この宝石を手に入れることをこそ目的として、エリオンもタンジェリンも戦ってきたのだ。自分はなんと答えればよいのか。

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     街の復興は悲願、しかしそのためにエラドリンを敵に回してもならぬ。こうなればいっそのこと……いや……

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    ジェイド:「タンジェリン、お前がイリヤンブルーエンに行け。王の名代として……あ、いや、王冠に選ばれた王は私だが、ネヴァーウィンターの民が選んだ女王はお前だったっけ。じゃあ女王として行ったほうが通りがいいのか……」

     ともかく、懸案の宝物を巡るヒトとエラドリンとの確執は、この場ではいったん先送りとなったのだった。
     手に入れるべきものを手に入れ、支払うべきものを支払い、その後、ジェイドたち一行は地上を目指したのである。

    ――そして、その場には2人のドラウが残された。ジャーラックスルと、そしていつの間にかタンジェリン一行から抜けていたキムリル……いや、ドラウのキムリアルである。

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    キムリル:「ジャーラックスルさま、本当に金貨と鳥の羽だけでよかったのですか?」

     いぶかしげにキムリルは問う。ジャーラックスルは人の悪い笑みを浮かべた。

    ジャーラックスル:「アボレスどもがここまで登ってきたということは、アンダーダークからネヴァーウィンターへの“道”がここに開かれたということだ。この情報はメンゾベランザンではさぞ高値がつくだろうよ」

     だから人間どもには人のいい協力者で通しておいたほうがいいのさ。そう言い残してジャーラックスルは歩み去っていく。その後ろ姿を見送りながら、キムリルも皮肉な笑いに唇を歪める。

     ――さて、私はどうするべきかしら。“善”を裏切るか、“悪”を裏切るか……まァ、ドラウにはどのみち裏切りの道がお似合いということね。



     その夜、ネヴァーウィンターの正義の館で、ジェイドたち一行は連戦の傷をひとまず癒した。そしてエイロヌイの“機転”により、アデミオスは“穢れた”命をいったん終わらされることになる。

     そう、それは確かにぎりぎりの“機転”であったのだ。
     定命のものには知り得ぬことだが――アデミオスの命がいったん断たれたそのわずか後のことである。
    九層地獄の最下層にあるアスモデウスの居城、宇宙最強の要塞マルシームでは、デヴィルの神アスモデウスが玉座に威儀を正して座していた。その両脇には同じくデヴィルの副官たち、そしてピット・フィーンドたちが居並ぶ。

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    アスモデウスは副官の一人の名を呼び、告げる。

    アスモデウス:「かのアデミオスなる者に伝えよ。エラドリンの君の魂を今すぐ我に捧げよと」

     副官の一人が微かに一礼し――そして数瞬後、驚いたように声を挙げる。

    副官:「畏れながら申し上げます、かのアデミオスなるもの、既に死んでおります!!」

     アスモデウスの表情が歪む。その怒りの気に触れ、ピット・フィーンドが数体、瞬時に消し飛ぶ。だが、手遅れだ。アンデッドとなった魂は、その体にとどまり、他者には手が出せなくなる。アスモデウスが物質界とフェイワイルドとに繋いだ手がかりのひとつは、永久に失われたのだった。



     そうして物語は再びネヴァーウィンターに――いや、ジェイドたちの向かった先、ネヴァーウィンター森へと続く。

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     暗雲に包まれ、死を思わせる静けさに押し包まれた森は、かつて知っていた場所とは既に異なり果てている。木々はすべて枯れ、空気は疫病を思わせる臭気を放っている。一瞬ためらい、そして気を取り直して森に踏み込もうとしたちょうどその時――

    デイロン:「――兄さん!」

     馴染みのある感覚に、エリオンは思わず足を止めた。獣道に溜まった濁った水が突然鏡のように澄み渡り、そこにデイロンの顔が浮かぶ。“スプリング・トゥ・スカイ・ピアツー・ピア”……かつてエリオンがフェイワイルドの奥で病身を養うデイロンとの連絡手段として用いていた魔法が、この森の入り口で突然力を発揮していた。

    エリオン:「デイロン、もう大丈夫なのか?」
    デイロン:「ううん、まだ僕の身体は気を失ったまま。でも、兄さんが出発したのに気付いたから、魂だけで呼びかけてる。兄さんは――行ってしまったんだね。邪悪と戦うために。僕に体力があれば一緒に行って、兄さんの助けになれたのに」
    エリオン:「いや、お前は残れ。そしてタンジェリンと一緒にいてやってくれ。それがお前の仕事だ」
    デイロン:「……うん。タンジェリンさんは今、街の復興のためにいろいろ考えてる。それからアデミオスさんは、僕が気絶してる間に大怪我したみたいで、包帯でぐるぐる巻きになってるよ」

     水鏡を覗き込むエリオンの背後で、ジェイドたち一行、顔を見合わせる。
     そうか、アデミオスはマミーになったのか。まぁ、あれは知性も知識も記憶も保ったままアンデッドとして“生まれ変わり”できるし、それに生前神官だったものがよくなるらしいからな……

    デイロン:「兄さん、気を付けて。その森の奥には“恐怖環”がある」

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    デイロン:「サーイの支配者ザス・タムが神になろうとして――その儀式のために世界の闇の濃い場所に建てさせた呪わしい儀式の場所。結局ザス・タムの野望は失敗したけれど、闇と死の力はまだそこに残ってる。そこで死んだら魂が引き裂かれて二度とこの世に戻ってこれなくなる。だから兄さん、必ず生きて帰ってきて」

     恐るべき警告を必死に告げるデイロン。エリオンの表情が引き締まる。

    エリオン:「わかった。忠告感謝する。必ず生きて帰る。お前のためにも、我が使命のためにも……」

     そう告げるエリオンの傍に、エイロヌイがつかつかと歩み寄る。そうしていきなりエリオンの手を短剣で傷つけ、傷口から盛り上がった血の1滴をエリオンの剣――魔剣フェノルに落とした。ただ一滴の血は魔剣に刻まれた秘文の上を走り――そこに現れたのは一頭の死竜の姿。

    エイロヌイ:「使命はありません。この戦いが済めば、運命の子としてのあなたはもう用済み」

     ぎょっとした顔でエリオンが振り向く。エイロヌイはくすりと笑って続ける。

    エイロヌイ:「言い方を変えましょう。貴方の魔剣フェノルは、この地に眠る黒竜ロラガウスの精髄を享けた七匹の大蛇の力を得て生まれた剣。貴方はその運び手として生まれました。シルヴァークラウン家には数世代に一度、そのような運命の子が生まれてきたのです。貴方の運命の子として負わされた使命は、これからここでロラガウスを倒すことにこそあったのです」

     だから、と続ける言葉をそれ以上は聞かずに、エリオンは濁り始めた水鏡に最後の言葉を投げる。

    エリオン:「心安らかに待っていてくれ、デイロン。私は必ずお前のもとに帰る。その時には魔剣を失い、背負うべきものも失っているかもしれぬが――お前のために、私は必ず帰る」

     その直後に響き渡った悲鳴は、水鏡が完全に泥水に変わるのとおそらく同時だった。
     いつも通り、一行の最後尾で成り行きを見守っていたミシュナの周囲の地面から、無数の死者の手が飛び出してきたかと思うと、ミシュナの足をつかみ、地中に引きずり込んだのだ。

     一瞬。
     反応できたときには、そこには人ひとり分が立つだけの広さの、何もない地面が残っているだけである。

    ブラックモア:「くそッ……俺、何とかしてみるッ」

     残された荷物から、ブラックモアの魂を宿したブックインプが飛び出し、地面に飛び込んで消える。後に残されたジェイドたちにはどうしようもない。

     その直後、木の陰からゆらりとにじみ出てきた人影がひとつ。アサシンの白装束に身を包んだそいつは、こんなことを言う。
    ――ようやくウィザードの奴がいなくなってくれた。さすがヴァリンドラさま、手際に気が利いてらっしゃる。

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    セイヴ:「キング・トイ!!」
    キング・トイ:「よォ、エース。そろそろ決着をつけようぜ?」

     白いフードの下の顔はヒトともネズミともつかぬ。かつてはエースと呼ばれていたセイヴを育て、育った部下の力を恐れて謀殺し、そして彼がレヴナントとして甦るきっかけを作った男。死鼠団の頭領にして盗賊都市ラスカンの闇の帝王――キング・トイである。

    セイヴ:「そっちから出向いてくれるとはありがたい。殺しに行く手間が省けたぜ」
    キング・トイ:「大口をたたくのもそこまでだ。今度こそ完全にぶち殺してやる」
    セイヴ:「そうか、じゃあいいことを教えてやるぜ。ここで死ぬのはお前だ。それからこの森の中で死んだら魂ごと粉々になって二度と甦れないらしいぜ。さっぱりしたもんだろう」
    キング・トイ:「ハ、死にぞこないが。お前こそきれいさっぱり死ぬんだな。だいたいお前ばかり死人の力を貰ってるなァ不公平だ。俺もヴァリンドラ様から新しい力を貰ったのよ。知って吠え面かくな」
    セイヴ:「ほう? じゃあ貴様も死にぞこないじゃねえか」
    キング・トイ:「まさか、そんな気味の悪い真似できるものか。ヴァリンドラ様から力をもらったのは手下どもさ」

     その背後で、ずるり、と黒い不定形の塊――それも小山のような――が蠢く。そこからは無数のネズミの顔が不規則に突き出している。それは腐りかけたネズミの死体を山と積み上げたらそれが勝手に動き出したといったふう――一体でもあり、無数でもある死鼠たち。

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    具体的には――というか、データ的にはロット・グラブの大群のそれが適用されているが、それを形成するのは蟲ではなく腐りかけたネズミ――キング・トイの部下たちの変わり果てた姿である。

    セイヴの顔が憎しみに歪む。

    セイヴ:「部下をそんなふうにしやがったのか――昔からいけ好かない奴だとは思っていたが、もう生かしちゃおけねえ」

     キング・トイを睨みつけたまま、セイヴは一瞬言葉を切る。

    セイヴ:「幸い貴様と違って俺には心強い仲間たちがいてな。みんな、済まねえがこいつとの因縁をここで終わりにしたい。力を貸してくれ」
    ヘプタ:「手出しするなってことっすね、わかったっす!!」

     勢いよくヘプタが答え、引き歪んだセイヴの顔が見慣れた苦笑いに戻った。



     剣の鞘走る音が響く。
     足を踏み出しかけて、ジェイドたち一行は初めてこの場所の真の恐ろしさに気付いた。
     サーイの編み上げた死霊術の力、恐怖環の呪いが彼らの身体を縛っていた。具体的には戦闘開始時にセーヴを要求され、失敗すると動けない状態で、さらに敵に戦術的優位を与えたところからターンを開始しなければならないのだ。

    エイロヌイ:「まったく……城の地下から抜けて墓所の呪いから逃れたと思ったら……!!」

     エイロヌイが忌々しげに呟く。この場の呪いはなんとか振り払ったらしいが。
     動けなくても構わないっすよ、俺は射手っすから、と、ヘプタが放ったボルトは明後日のほうに飛んでいく。

    ヘプタ:「囮ってやつッすよ」

     うそぶく間に呪いをすり抜けたエリオン――剣士に見えるから油断されたのだろうが、彼の手にも魔法の技はある――が、死鼠の塊へと距離を詰め、一方でエイロヌイがキング・トイめがけて突撃する。剣士にとっては鼠の塊は難敵だ。鼠を一匹一匹斬っているわけにもいかない。だから、まずは頭領を倒さねば。
     ジェイドが続く。構えは戦線維持、定めた敵を逃がしはしない。ありったけの力を込めて蛮刀を叩き込む。キング・トイの顔が驚きに歪む。そこに炎をまとった妖精が突っ込む。ヘプタが嬉しげに叫び声を挙げる。

     このままでは多勢に無勢でやられてしまう。下手に斬り立てられない。手下どもが動き出すのを待とう――“キング”と呼ばれた男の、それは愚かしい判断の誤りだった。
     剣を引いた瞬間に、恨みに燃えたセイヴが突っ込んでくる。両手の剣が大きく弧を描き、キング・トイの身体を深く抉ったかと思うとその足をすくって地に這わせている。

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    セイヴ:「地下まで行った俺の力、見せてやるぜ!!」

     地べたに這いつくばったキング・トイの背中を、間髪入れず炎が舐める。エリオンは剣風で呪文を紡ぎ、双手に燃え上がった炎でラスカンの帝王とその手下どもを同時に包み込んでいる。炎が通り過ぎたと思った瞬間、さらに剣から白い光が弾け、ネズミたちの目を灼いている。

     そこでようやく死鼠の塊が戦場になだれ込んできた。ジェイドたち一行の上に黒い塊がなだれ落ちる。無数の腐った鼠にまとわりつかれた嫌悪感に思わず動きが鈍る一行――具体的にはサイキック・ショックの技なのだが。

    キング・トイ:「いい気になりやがって。さあ、俺のナイフをたっぷり味わいやがれ」

     ようやく回ってきた見せ場に、キング・トイは歯を剥きだして聞き苦しい笑い声を挙げる。強がりだ。もうその毛皮は血に染まっている――が、渾身の力で死の舞を舞う。――ナイフが打ち振られるたびに――少なくとも4回のうち3回は、血飛沫が宙に舞った。

    エイロヌイ:「……ああ、鬱陶しい」

     身体にまとわりつくネズミを振り払いながら、エイロヌイはシルヴァナスへの祈りを捧げる。自然の怒りを可能な限り苛烈な形に紡ぎあげ、死鼠の塊に叩き付ける。轟き渡る雷鳴の勢いで、ネズミの塊は大きく抉れる。もはや半壊といっていい。それを見たジェイドは振り上げかけた剣を一瞬引き、間合いを測る。その瞬間、

    セイヴ:「喰らいやがれ――あ、エイロヌイすまん!!」

     セイヴの剣――ネヴァー城の地下で手に入れたものだ――から、氷が渦を巻いて飛び散った。魔剣に封じられていた霜の力を解き放ったのだ。そして

    キング・トイ:「な、なんだその構えは。俺は貴様にそんなもの教えなかったぞ!!」

     重傷の身体をさらに深く抉られ、ラスカンの帝王は喚きたてる。

    セイヴ:「こないだ水にはまった時に覚えたのさ。ヒトは見ないうちに成長するもんでなぁ」

     鮫の構え――具体的にはレベルアップした時に使用可能な構えが増えたのだが。

     驚いたはずみがキング・トイの命取りだった。
     瞬時に距離を詰めたエリオンが剣を振るう。敵を斬り裂いた剣の紡いだ歌はこの地に密集する死の力に干渉する。地面から再び無数の死者の手が飛び出す。が、今度はその手がつかむのはキング・トイの足だ。
     再び地面に這いつくばり、“ラスカンの帝王”は情けない悲鳴を上げる。

    キング・トイ:「エースよォ、孤児だったお前を拾って育ててやったのは俺だったじゃねェか。お前が水にはまった時も助けてやったのは俺だったじゃねェか」
    セイヴ:「ああ、エースはお前に拾われ、助けられたさ。だが俺はセイヴだ。セイヴを助けてくれたのは、仲間たちと、それに死者たちだったよ」

     その言葉に続くように、ジェイドが鉄の塊をキング・トイの背骨に叩き込む。

    ジェイド:「お前のところにいたのはアタマ数だった。が、セイヴの隣にいるのは仲間だ」

     その一撃で、ラスカンの帝王は事切れた。そしてジェイドが告げた通り、死鼠の塊は単なるアタマ数であり――主を失ったネズミたちは四方八方に逃げ散りだした。
     その中に見覚えのある顔がある。

    片目のルソルク:「……ふぅ、死ぬかと思ったぜ。あぶねえあぶねえ」
    セイヴ:「待て、お前もキング・トイのところに行くんだな。ここで死にゃあ二度と生き返らずに済むそうだ。ゆっくり眠れ」

     飛びかかったセイヴは、もう動かない血まみれの毛玉に向かってこんなことを言う。

    片目のルソルク:「……エース。まさか……俺ともあろうものがここで本物の死んだ鼠に……」

     悪縁が片付いてゆく。



    戦いの終結とちょうど同じ頃。
     ネヴァー城の地下霊廟では、ネヴァーウィンター九勇士が新たな肉体を得て立ち上がろうとしていた。

    九勇士の長:「今こそ我らは甦り、真の王のもと、ネヴァーウィンターの復興のために尽くそうぞ!!」

     心強い雄叫びが上がる。
     が、それを打ち消すように冷たい笑い声が霊廟中に響き渡る。その声の主は紛れもなくサーイの高位術師、ヴァリンドラである。

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    ヴァリンドラ:「愚かな。まだ気づかぬか。そなたらの頼る復活の魔法が死者として甦る魔法に紡ぎかえられているのを……」
    九勇士たち:「……な……にィ!?」

     確かに、逞しい戦士の肉体は瞬時に腐り落ち、そこに立っているのは九人の幽鬼。

    九勇士の長:「なるほど、謀られたか。だが我らの力なくとも正義の王は必ずやネヴァーウィンターの復興を成し遂げるだろう」

     言いざま、九勇士の幽鬼たちはそれぞれに剣を己が身に深々と突き立てる。ヴァリンドラの計をすり抜けるかのように、九勇士の身体は白い灰となり、霊廟の床に散った。

    ヴァリンドラ:「……ほぅ、さすがネヴァーウィンター九勇士、見上げたものよなァ……。だが、灰となっても妾の役に立ってもらうぞ……」

     動くものとてない霊廟の中、冷たい笑い声だけがいつまでも響いている。



     恐るべきサーイの企み――だが、それをジェイドたちは知る由もない。

    森の奥に踏み込むと、そこはいきなり開け、灰に覆われた広場となっている。
     広場の中央、大きく穿たれた露天掘りの穴の底には、今まさに組みあがらんとする竜の骨――ロラガウスだ。

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    目指すはあの死せる竜。だがただは辿りつけまい。穴の周囲に無数に群れるアンデッド。
    それだけではない。灰の大地から次々に人影が――いや、亡者たちが立ち上がってくる。

     彼らの顔を、ジェイドたちは知っている。
     親切な隣人。憎まれ口をたたいてきた少年。酒場で隣り合った男……数日前の噴火で命を落としたのだろう、ネヴァーウィンターの市民たちだ。
     みな、憎しみに顔を凍りつかせ、ジェイドたちめがけて詰め寄ってくる。

     その先陣を務めるのは――軍人だ。それも人間ではない。エラドリンの軍人たちだ。
     エリオンの表情が怒りに歪む。見忘れもしない、彼がエイロヌイと共に物質界に初めてやってきたときに見た惨殺の跡――あの時の先遣部隊だ。そして彼らを指揮するのは、なんとジェイドの剣の師、サビーヌ将軍である。

     見知った顔の死者たちは、完全にサーイの死霊術に絡め取られ、憎しみの塊となっている。
    怒りに顔を歪ませ、しかし斬りかかるもならず立ち尽くすジェイドたちの前に――親しかった者たちの顔をした死の軍団が、重い靴音を響かせながら迫ってくる。



    ジェイドの決断

    第1回
    問い:エラドリンたちはニュー・シャランダーに留まるべきか、引き払うべきか。
    答え:俺が秘宝を取り戻してくる。だからしばらくこの地に留まっていてほしい。

    第2回:
    選択肢なし

    第3回:
    問い:ネヴァーウィンター全滅の原因を問うネヴァレンバー卿になんと答える?
    答え:俺のせいだ。俺にはこの惨劇を止める機会があったが止めきれなかった。

    第4回:
    選択肢なし

    第5回:
    問い:傭兵団ブレガン・ドゥエイアゼを率いるドラウ、ジャーラックスルを案内人として雇うか?
    答え:不安は残るが先には進まねばならぬ。それに放っておいて敵対勢力と組まれてはもっとまずいことになる。雇い入れる。

    第6回:
    問い:ネヴァーウィンター九勇士の試練を受ける権利をタンジェリンに譲るか?
    答え:俺が責任を取る。ここは俺に任せろ。

    第7回その1:
    問い:ネヴァーウィンターをどうするつもりだと問う王冠に対し、何と答える?
    答え:何十年、何百年かけても自分がこのネヴァーウィンターの復興を成し遂げる。

    第7回その2:
    問い:タンジェリンの剣がジェイドの心臓に迫る。その時……?
    答え:逃げはしない。そのままタンジェリンの剣に貫かれる。

    第8回:
    問い:タンジェリンに真の元凶らしきブラックドラゴンの存在を告げるか?
    答え:告げない。何も告げずに竜を倒しに森に往く。

    第9回:
    問い:ネヴァー城の地下宝物庫でみつけたかつてのイリヤンブルーエンの秘宝、“リストアラー・オヴ・ジ・アース”をどうする?
    答え:タンジェリンに預け、シャランダーにいったん返却した上で使用の許可を得るべく交渉する。



    著:滝野原南生
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