シグマー神殿からの依頼により、ドラゴン・エール醸造所へ向かった一行。
そこで、ラットマンやラットオーガとの戦いをなんとか切り抜けた皆は、その地下で、高級なエールを発見した。
バルデマーはそのエールを、このミドンヘイムを治める選帝侯ボリス・トッドブリンガー伯へ献上しようと提案した。
ミドン宮殿では、祝勝会が催されるらしい。
ボリス伯が、白狼騎士団と金豹騎士団を伴って混沌の残党狩りを行い、成功を収めたためだ。
そのパーティーでは、貴族や商人たちなども、ボリス伯へ献上品を持参して挨拶することができるという。
一行は冒険者としてふさわしい装いを整え、またアンヤとグレッチェンにはドレスを着せ、ミドン宮殿へ向かった。
祝宴の食卓の上には、エンパイアの北部らしい、素朴で大胆な料理が並ぶ。もちろん、たくさんの酒も。
席についているのは大半が軍人であるが、貴族や商人、彼らの妻たち、ウルリック神殿の司祭らの姿もある。
乾杯の際には、ウルディサンは渉外使者としての役割を果たすため、エルフ王の書状をエルフの言葉で読み上げた。
なお、バルデマーらの強い勧めによって、ライクシュピールへの翻訳は専門の翻訳家に任せられた。
宴会は、礼義などにこだわらず堅苦しさのない、親しげで賑やかな雰囲気に満ちていた。
ウドーはそこで自分たちの冒険譚を語りつつ、南部人を風刺する芸を披露しては、ここ北部の人々を大いに楽しませた。
バルデマーもマンドリンをかき鳴らし、大道芸人として宴を盛り上げた。
ボリス伯の傍には、ふたりの人物が座っていた。どちらもボリス伯の身内であるようだ。
片方は、気の強さが美貌にも現れる乙女カタリーナ。男性たちがひっきりなしに挨拶をしているが、彼女はすげなくそれらをかわしている。
もう片方は青白い顔をした薄幸そうな若者、妾腹のハインリヒであった。ボリス伯にとって外聞も悪い存在ゆえ、彼がこうした場に出てくることは珍しいらしい。
いよいよ、一行が選帝侯へエールを献上する時がきた。
ウドーが朗々と向上を述べ、バルデマーが毒身をして安全性を証明する。
色といい泡といい喉越しといい、これ以上のエールはないだろうと思われた。ボリス伯も、十分に満足したらしい。
宴は一層熱を増し、はめを外す者も現れはじめた。
そのとき、宴会場へ、巨大な豚が放たれた。力試しだ。
グルンディがにやりと笑み、大声を上げて衆目を集め、豚へ張り手をくらわせて向きを変えさせた。
その先にいるのは、ドレス姿のグレッチェン。彼女は豚を掴み、持ちあげて投げ飛ばした。
会場は大いに湧き、騎士たちがグレッチェンに向けて賛辞を並べた。
勢いに乗った騎士たちが、服を脱いでレスリングを始めた。自分の力を披露するように、ボリス伯の目の前で組みつきあう。
白狼騎士団の古参兵、敬虔なウルリック信徒からの挑発に、シグマー司祭ヨハンが応じた。
組みあっては絞め上げ、離れてはまた組みつく、激しい攻防が繰り返された。
最終的に勝利を収めたのは、ヨハンだった。
その戦いは、ボリス伯の機嫌を大いに良くしたらしく、皆はボリス伯の近くに座ることを許されたのだった。
アンヤも、貴人の誰かと親しくなるべく、バルデマーに意見を求めた。
そして彼の提案に従い、カタリーナに話しかけた。ふたりの乙女はすぐに打ち解けたらしく、可憐で華やかな微笑みを並べて、お喋りを始めた。
と、そこへ鉄靴の足音が響き、また新たな人物が到来した。
ボリス伯が「特別な客人だ」と紹介したのは、かつて武勲を上げ、ボリス伯から直々に兜を賜った騎士、ゾセリン・フォンロイター。
アンヤの兄にして、死霊術研究家オンドゥリンの子息であり、おぞましい怪物を乗りこなす男である。
その憎悪に満ちた目が、バルデマーらに向けられた。