死霊術師オンドゥリンの企みによるものか、ラットマンどもの襲撃を受けたミドンヘイム。
そこから脱出するためにバルデマーが選び取った方法は、キューゲルシュライバー式飛行機械で飛び立つことだった。
城壁の上で、一行は空を飛ぶ支度を始める。
アンヤとはウドーが、令嬢カタリーナとはウルディサンが、ともに飛ぶこととなった。
ボリス伯の娘カタリーナも、皆と行動することに躊躇はないようだ。ドレスの裾を払い、その下から連射式ピストルを取りだして見せる。
「あなたたち、これが使えるかしら?」
受け取ったウルディサンには未知のものであったらしいが、射撃ならばと、バルデマーがそれを賜った。
いよいよ覚悟を決め、皆は城壁から飛び出した。
それを武器庫の尖塔から見送る、一人の男。
「娘よ、必ず元気でいてくれよ」
呟くボリス伯の足元には、ラットマンの死体の山。
それでも、まだ敵は無数に湧いて出る。
ボリス伯は覚悟を決めたように咆哮し、松明を掲げた。
武器庫が、爆ぜた。
「お父様・・・・・・!」
爆風を背に受け、カタリーナが悲痛な声を上げる。
だが、戻るわけにはいかない。
魔力の風渦巻く中に、老魔術師の声が響く。
「奴らを逃がすな」
声とともに現れたのは、凍てつく炎の鳥、青く煌めくフェニックスであった。
一行は飛行機械で飛びながら、応戦の構えをとる。
下からは、ラットマンどもが、兵器でこちらに狙いをつけている。
ウドーは空にいても正確な狙いでスリングを放ち、フェニックスを牽制する。
一方でウルディサンは、使えるはずの魔法が発動せず、カタリーナに疑いの眼差しを向けられてしまう。
鳥はバルデマーに突進して深手を与えたが、バルデマーは怯まず鳥の背へ飛び移った。鳥の頭にピストルを押し付け、放つ。
グレッチェンも続いて飛び移り、鳥の背へ、全力を込めてつるはしを振り下ろす。
さすがのフェニックスも二人に乗られてはたまらないと思ったか、曲芸飛行で振り落とそうとする。
激しい戦場に嵐が渦巻き、海の神の怒りが猛るのを一行は感じた。と思うや、風に乗りサメが襲いかかってきた。
サメの襲来をなんとかしのぎつつ攻撃を与え続ける一行だが、鳥もそれをふりほどこうと飛び回る。
バルデマーは早抜き鞘を使ってフェニックスにしがみつき、その隣へヨハンが飛び移ってきて、翼にハンマーを振り下ろす。
ヨハンの一撃に、フェニックスは大きくよろめいた。
地面からの狙撃にウドーが重傷を負わされるが、彼は落ちず、意地を見せスリングを振り回す。
フェニックスへ向けたウルディサンの魔法がついに放たれ、フェニックスの脚を吹き飛ばし、おびただしい量の血を噴き出させた。
フェニックスは郊外の麦畑の中へ落ちて死に、一行もその農村に着地した。
ヨハンとバルデマーが皆に治療を施し、ひとまず体制を立てなおす。
村人たちが農具をもって威嚇してくるところへ、ウドーが声を上げた。
「敵が来ますよ、ここは危ない。早く逃げて!」
その声に煽られた人々は、すっかり慌てふためいて、逃げ支度を始めた。
そしてすぐに、村には誰もいなくなった。
皆は静かになった酒場で一息つき、今後の相談を始めた。
カタリーナ嬢は、皆がミドンヘイムへ戦いに戻ることを当然のものとして考えているようだ。ラットマンどもは将さえ倒してしまえば脅威ではない、と主張する。
フォンロイター城へ赴き、騒動の元である魔術師オンドゥリンを討つか、という考えも出た。
また、近くの街で、カタリーナの名のもとに軍備を整えることも考えた。しかし最寄りの街は、皆をお尋ね者として手配しているデルベルツである。
どの策にも、危険が伴う。バルデマーは決断した。
ミドンヘイムへ戻って、ラットマンたちと戦う。まだ戦っている人々もいるのだし、ボリス伯も今ならまだ助けられるかもしれない。その希望に賭けよう、と。
その言葉を聞いたカタリーナは、秘密の通路があるわ、と皆へ笑顔を見せた。スカートを破り、木の棒に括って掲げる。
「これを、今のミドンヘイムの旗としましょう」
青と白、ミドンヘイムの色を見つめ、皆は覚悟を決めるのだった。
配信やゲームへの感想は dnd@hobbyjapan.co.jp へお送りいただくか、
下記住所までお送りください。