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女性たちの性への関心が高まるにつれ、昨今、自らのSEXについても赤裸々に語るセックス産業従事者・経験者に憧れの気持ちを抱く人が増えている。

しかし一方で、セックスワーカーに対する偏見が未だ根強いのも事実だ。こうした日本の現状を憂い、「セックスワーカーが生きやすい社会こそ平和な社会」と断言し、差別のない世の中作りに貢献せんと幅広く活動を展開しているのが、風俗講師の水嶋かおりんさんだ。

彼女によると、セックスワーカーの仕事は想像以上に過酷で、社会的支援も必要なもの。多くの人に、まずはその事実を知ってほしいと彼女は言う。

――セックスワーカーに関する知識普及・差別撲滅のために、国際エイズ会議などにも積極的にご参加されていますが、日本と海外のセックスワーカーに対する支援に違いはありますか?

まず大きな違いは、日本の支援はすごく縦割りだということです。たとえばエイズに関する支援ひとつとっても、「メンタルのケアはうちの管轄じゃない」「エイズ以外の性感染症の治療なら他をあたってくれ」となるわけです。

だけどこれが先進的な国だと、精神的なケアや治癒だけでなく、予防プログラムなどまですべてひっくるめてエイズと向き合うことになるわけです。

私の考えですが、それって、実は多くの日本人が個人主義だということが大きな理由なんじゃないでしょうか。積極的に自分の話をする人も少ないし、人の生い立ちや好みについて高い関心を示す人も少ないですよね。

つまり、「自分がやるべきこと以外には興味ない」って人が多い気がします。

それはなぜかというと、中流家庭の割合が多いためだと思うんです。例えばアメリカだと、ホームレスが新聞読んでるなんてありえないですから。

でも日本の場合は誰もが最低限の教育を受けることができるおかげで、本当に困った状況にある人や、差別を受けている人がみえにくいのが現状です。

だから、セックスワーカーの存在については知っていても、その人たちがどういう生活をしているか、どういった悩みを抱えているかも知らず、無条件に蔑視しがちなんじゃないでしょうか。

――かおりんさんのところに悩み相談にくるセックスワーカーも多いそうですね。

私にコンタクトをとってもらえれば、例えば私自身が解決策を提示してあげられないときでも、力になってくれそうな人を紹介できるので、一人で悩むことなく相談してほしいと思っています。そういうハブみたいな存在になることで、一人でも多くの人の心の支えになれたらうれしいですね。

最近では、都内のアトリエで定期的にエロティック英会話やアロマ勉強会も開催しているので、より多くの方と直接お話できる機会が増えました。

性産業やそれにまつわる人についてより多くの人に正しく理解してもらうために私にできることはなんだろう? って考えたとき浮かんだ答えが、誰でも出入り自由なオープンスペースを作ることだったんです。

誰でも来ていいし、誰を連れてきてもいいし、知りたいことはみんなで共有できる場所。そこに集まる人一人ひとりが正しい知識を得て発信していくだけでも、社会は少しずつ変わり始めるはず。

例えば、今、風俗で働いてる人の平均月収ってどのくらいかご存じですか? 34万円なんですよ。しかも、10万円以下の人だって大勢います。その金額だったら、無理して働き続けるより生活保護を受けて少し休憩したほうがいいですよね?

でも実際のところは、精神的な面においても、生活保護を受けるのは難しいという人も多いはず。だったらせめて、セックスワーカーの仕事に偏見を持つことなく、しっかりと話を聞いてくれる誰かがいたらなって思うんです。

「がんばってるね。身体の調子はどう?」「ちゃんと眠れてる?」ってやさしく声を掛けてくれる人がいるだけでも、疲れている人の心は軽くなるし、新たな道が拓けてくると思いませんか?

――まさに、誰もが生きやすい理想的な世の中ですね。

その通りです。以前、終末医療の現場に携わっていらっしゃる看護師さんに、終末期医療とセクシャリティ―についてお伺いする機会があったのですが、そのとき、レズビアンやゲイのカップルは、病院で過ごす最期の日々にも、家族のように付き添うことが許されなかったり、人目を憚らなければならなかったりといった問題に直面するとおっしゃっていたんです。

でも、そうしたセクシャリティ―に理解のあるお医者さんが担当医だったら、「(お見舞いに)いらっしゃれるときにいつでもいらしてくださいね」っていう言葉を掛けると思うし、そのことによって当人たちも心の底から安心できますよね。一日でも早く、そんな世の中が現実のものになればと願っています。


【水嶋かおりん Profile】
現役風俗嬢、風俗講師。無店舗型性風俗「愛情工房☆性戯の味方☆」女将兼メイクラブアドバイザー。経済的理由から母親が一人で出産、5歳の姉に産湯で洗われ、波乱万丈な人生をスタートさせる。10代のころより風俗業界に従事。ソープ、ヘルス、SM倶楽部、M性感、回春マッサージとあらゆるジャンルでの接客を経験した後、「愛情工房☆性戯の味方☆」開業。現在では、STD予防啓発活動に参加したり、メイクラブを楽しむためのレクチャーをおこなったりと、セックスワーカーが生きやすい社会の実現を目標に幅広く活動している。著書に『私は風俗嬢講師』(ぶんか社)がある。

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