前回は、自宅を購入することも投資の一部であると申し上げました。
ここでは、投資という言葉を「個人が将来に備えて資産形成をすること」という意味で使っています。マクロ経済学や国民経済計算でいうところの「投資」は、企業部門の行う設備投資などのことを指しますので、これとは異なる意味で使っています。
伝統的な投資哲学に、「財産三分法」といって土地と株式と現金に資産を分けて持つという考え方があります。それぞれ異なる値動きをするけれども長期的には値上がりの見込める資産に分散して投資することで、リスクを抑えた資産成長を目指そうという戦略です。現金部分は、不意の出費に備え、また値下がりしない資産(逆に、増えない)というアンカーの役目を果たします。
この意味でも、自宅購入は、投資の側面と、「住む」という消費の側面の両方を持っています。
自宅購入の有利性
資産形成のために自宅を買うときに注意しなければならないのは、前回の図でも判る通り、家賃を払い続けることとの比較の中で自宅を購入することが有利かどうかを考えることです。
家を借り続ける選択をした場合の将来の家賃と、自宅を購入する場合の将来の自宅の資産価値のどちらの値上がり分が大きいか。住宅ローンの金利負担を差し引き、生涯家賃の累計額とを比較すればOKです。
でも、そんなのどうなるか分かりません。家賃も自宅の資産価格も将来の価格は不明だからです。インフレになれば、どちらも上昇しそうです。デフレになればどちらも下落しそうです。インフレになるなら、自宅を持っていた方が有利、デフレなら、出来るだけ後で買うか、買わないで済ますのが有利、となりそうです。地域によっても、人気化する場所かどうかで資産価値は変わりそうです。
また、自分が住むというのが前提なので、住み心地の良さも資産価値に効いてきます。これは経済的にカウントされませんが、例えば同じ価格の物件で、一方は周辺に駅も商店も病院も何もなく、一方は駅近で商店街が充実していて、医療体制もしっかりしていたなら、後者の方がずっと資産価値が高いと言えるでしょう。
自宅を資産として考えた時、相続の価値もあります。子供に育った家を受け継がせてやれるということです。ただ、これも一人っ子ならまだしも、2人以上子供がいたり、一人っ子でその配偶者も一人っ子なら、親の家が二軒、子供夫婦に引き継がれてしまい、一軒余ってしまうかもしれません。
地価の見通しを立てる
地価が将来どうなるかわかりませんが、基本的には需給関係と全般的なインフレ率で決まるでしょう。日本の国土はそう大きく増減しないでしょうから供給は一定、土地の需要は人口の増減で決まりそうです。そこで、日本の人口の地価の関係を図示してみました。
上の図は、不動産経済研究所と国土交通省が公表している市街地価格の歴史的推移に、人口統計を重ねたものです。人口の将来推計は、20年先までを掲載しています。将来推計の出所は国立社会保障・人口問題研究所です。
この図をみると、日本の地価は既にバブルのピーク時から6割も下落していることがわかります。今後、日本の人口がますます減っていく中で需要は減退するでしょうから、不動産価格の全般的な上昇はあまり見込めそうにありません。インフレで見かけ上は価格が上がるかもしれませんが、インフレ率を差し引いた実質の地価はパッとしない展開が続くかもしれません。
自宅購入を投資として捉えた場合、これは手を出すと損する悪手です。従って、値上がりが期待出来る特殊な土地を選び取る自信がないならば、無用に高い買い物をせず、減価するのを覚悟の上で、老後の家賃支払いをなくすため、現役時代にローンを払い終える程度に、そして家族構成と相続の観点も踏まえて、という幾つもの条件付きで検討するしかないのでしょう。
もう一つは、ローンを固定金利で借りて負債額を固定し、インフレでこれが実質的に減価することを期待、自宅の方はインフレに連動して価値の増加を期待し、比較的値保ちの良さそうな場所に購入して、状況次第では売却も視野に、保有期間中のローン支払いは家賃とみなして比較的フリーハンドを保つ、という戦略もあり得ます。
でもこれは、前回申し上げたように、所得低下リスクや、思った以上に地価が下がってしまうなど様々なリスクを抱えてしまうので、よく考えて行うべきでしょう。
いやはや、悩みは尽きないですね。