前回は、世界のGDP規模の比較をしました。
GDPというのは、ある国家がある年に国内で作った付加価値の総計です。実際に総計を全部精密に数え上げるのは無理なので、多くの推計を含んでいます。
経済統計の整備された先進国では測定の精密さが高く、途上国では精度が下がります。データが捏造されているのではという疑惑のある国もあります。でも、ほとんど同じ基準で国ごとの比較ができることが大きなメリットです。
このGDPというのは、ざっくりとみると「その国の一人当たり生産性×労働人口」で決まります。労働人口は、以前にお示しした人口動態でだいたい決まってきます。
では、「一人あたり生産性」は何で決まるでしょう。これが決まってくる要因は色々あって、これ一つで決まるというものではありませんが、だいたいこんな感じです。
カッコ内の総ストックが多い国を先進国といい、それが足りない国を途上国というわけです。
では、「一人当たり生産性」を国際比較してみましょう。これも前回同様、IMFのワールドエコノミック・アウトルックから取っています。
これをみると、いくつかの傾向が見えてきます。
一つは、一般に先進国の定義と同じようなものとみなされるOECD(経済協力開発機構)加盟国がほとんどであること。それ以外はだいたいが産油国、資源国です。上に書いた式の「その他の所得」にあたる部分が資源の売り上げに当たります。
資源の売り上げはその国の国民の教育水準が高まったからといって増えるものではないので、あまり先進国かどうかの判断基準とか関係なさそうですが、資源による所得があれば、それを使って消費や投資をすることはできますし、国家として国民に対して教育を与えるための予算が潤沢にあるということですから、うまく国家経営をすれば急速に先進国化する機会があるといえるでしょう。
ただし、資源の所有者が一部の特権階級に限られていて、それらの人達が国民一般の構成水準の向上に興味がない場合、一般国民と特権階級の間に格差が生じるだけで、資源を使い果たした後には何にも残らない国になってしまう恐れもあります。
資源国と先進国の両立が達成されているオーストラリアのような国もあり、この辺は国情によるのだろうと思います。
GDPの内訳
上の表からもう一つみられる特徴として、GDP上位の国が必ずしも一人当たりGDPで上位にきているわけではないということです。
米国、日本、ドイツ、フランス、イギリス、カナダ、イタリアといったG7諸国をみると、トップの米国が10番目、イタリアは28番目です。GDP2位の中国に至っては、遥か下の85番目です。それでも中国は1990年から比べると順位を40位も上げてきているのですが。
では、資源国を除く上位陣はというと、これはおおむね北欧、ベネルクス諸国、スイス、サンマリノといった欧州の小規模国です。そこにアジアから珍しくシンガポールが入ってきています。
これらは、自国の特徴を活かした特徴的な経済運営で高い生産性を達成している国です。
逆に、経済の基幹をなすような重厚長大産業をワンセットそろえた「経済大国」を目指してはいません。シンガポールは商業の中心地として、貿易依存度が驚異的に高い国家経営を行っており、近年ではアジアの金融市場の中心地となることを狙っています。
スイスは欧州の永世中立国として、時計などの精密機器、医薬、金融といった高付加価値産業に特化しています。その他の国々も同じこと。
しかしながら、人口が5千万人を超えてくるような大きな規模の国では、ワンセットそろえた経済運営が普通になっていますので、米国以下、だいたい年間5万ドルから3万5千ドルの範囲になってしまうようです。
この中でも、米国とカナダは資源国の側面もあり、英国にも北海油田がありますので、「その他の所得」で、やや嵩上げされている気配もあります。
逆に日本は1990年比で順位を10位も落としてしまいましたが、実はこれはアベノミクスの影響で2割ほど為替が円安になったことから、ドル建て数値が下がってしまったもので、これがなければ、だいたいドイツと同じくらいでした。
これら先進国の一人当たりGDPは、かなり狭い範囲に収斂しており、各国で生まれたイノベーションも、それぞれの国ですぐに活用され、追随していくので、一人勝ちというのをなかなかしにくくなっている様子が見て取れます。
日本のアベノミクスも為替が円安になって、一見輸出環境が良くなったように見えますが、それは一時的に日本で仕事をすることの価格が安くされただけのことであって、これを元の水準まで引き上げないと、輸入物価が高くなることや高度技能者の流出などのしっぺ返しを受け、いずれ一般賃金にも上昇圧力がかかることで修正されていくだろうと思われます。
経済の発展段階によって、必要とされるものは変わってきます。先進国であればイノベーションをもたらすものか、資本装備率を上げるもの。途上国であれば、社会インフラの整備や、労働集約的なもの。中位の国であれば、消費の爆発と、経済の高付加価値化。それに各国の人口動態が加わります。
これから投資を考えていくにあたって、投資先の経済が、何を成長要因としていて、その中でどういった企業が伸びていくのか、それを見ていく際に、これら経済の体質や発展段階を踏まえておくことは、是非、忘れないようにしてください。