新潟県での講演が終わった。かつて通い慣れたこの地に、まさか「放射能」の話をしに来るとは夢想だにしなかった。

10年以上前、私はある政治家の実態を探るため、毎週末のようにここ新潟の地に足を運んだものだった。

訪ね歩いた家々では、メディアで伝えられるその政治家の評価とは正反対の話が次から次へと出てくる。

私は驚いた。自らの取材自体が信じられないほどの衝撃を受けると同時に、日本のメディアの報道とはいったいなんなのかという素朴な疑問に捉われていたのだ。

あれから10年余、その政治家、田中真紀子氏はまたしても閣僚となり、メディアは自らの反省も検証も行うことなく、再び、──今度は批判的だが──、彼女を表層的に報じている。

もはや私が、彼女の政治家としての資質について語ることはないだろう。それは上梓した二冊の本で十分に記したつもりだ。

そう、私はここ新潟に、田中さんの話をしにきたわけではないのだ。