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6月15日にPLANETSより発売される落合陽一さんの最新刊『 デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化された計算機による侘と寂 』についての、著者の落合さんと宇野常寛の対談です。構想・執筆に約3年の時間を費やした『デジタルネイチャー』。その制作の経緯から、本書に込めた落合さんの思いを語っていただきました。
書籍情報
落合陽一『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化された計算機による侘と寂』6月15日発売!( Amazon ) ▲この記事は、こちらの動画をもとに対談記事化したものです。
『魔法の世紀』からの約3年の変化
宇野 6月15日に落合陽一さんの最新刊『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化された計算機による侘と寂』がPLANETSから発売になります。今回は「デジタルネイチャーとはなんぞや?」とか、購入を迷っている人、若干高いんじゃないかとか、そういうことを思っている人に対して、いかにこの『デジタルネイチャー』を買わないと死ぬか、みたいな(笑)。そういう事について話していきたいと思います。
落合 死ぬんだ(笑)。
宇野 死ぬでしょ(笑)。多分死ぬ。100年以内に5割ぐらいの確率で。
落合 確かにね(笑)。『デジタルネイチャー』は、書き上がる前に、僕と宇野さんが死ぬかもしれなかったからね。
宇野 よく出たよね。
落合 よく俺たちは生き残った。ファミレス(*1)を生き抜いたよね。
*1 『デジタルネイチャー』の執筆・編集作業は連日深夜、都内某所のファミレスでの缶詰で行われた。
▲缶詰あけ、早朝の落合さんと宇野。
宇野 だってこれやり始めたの3年くらい前だもんね。
落合 3年かかった。でも、世界はだいぶデジタルネイチャーになりましたね。
宇野 もともとはPLANETSチャンネルでの動画講義だよね。それを記事に起こしてメルマガで配信してたんだけど、当時と今との一番の違いってなんだと思う?
落合 だいぶコンピュータの中が自然化してきたんじゃないですか。例えば金融市場が自然っぽいとか、ディープラーニングが自然っぽいとか、ビッグデータの成り立ちが自然っぽいというような、ユビキタスという名目でしかデジタルネイチャーは昔はなかったけれども、ユビキタスの逆パターン、つまりコンピューターの中も自然化してきたし、コンピュータの外も自然化していて。結局のところまあそうなるよねと。自然って「自ら為す」というか、そういう感じのことがありえるよねという。
宇野 編集者目線で言うと、メルマガ版と書籍版の一番の違いは、トークンエコノミーだと思うんだよね。あの話を全部入れ込んであるという。
落合 確かに、トークンエコノミーの話は、メルマガ版ではあまりなかったんですけど、でも経済については触れていて。マルクスについてからそもそも始まった話ですからね。限界費用についてももそうだし、トークンが市場原理によってある程度自然化していくというのもまさしくそうだし、なぜ機械学習、ディープラーニングをつけると収束するのかという話も、それが統計的な分布の話だよねというのも、偏微分と絡めてわかってきて……『魔法の世紀』を出したのが2015年で、その頃にはわからなかった様々なことがわかってきて、かつ、それによって見通せることも増えた。
この本のタイトルの『生態系をなす汎神化した計算機による侘と寂』の「汎神化」とはユビキタスのことなんだけれど、それが生態系を為し始めている。トークンエコノミーもそうだし、あらゆるプラットホームもそうだし、それって結局、自然と生態系のメタファーで語れる、というようなことを考えて考えて考えて3年経ったらこうなったということです。
宇野 3年経ったよね。3年前の『魔法の世紀』との一番の違いは何かというと、プラットフォーム全体主義に対してのどう抗うかというところのプランが全然違うんだよね。『魔法の世紀』の頃はGoogleが代表するようなプラットフォームの全体主義、つまり世界を画一化する力に対して、アーティスト=テクノロジストがそこに対して抵抗していかなければいけないんだと。どんどんGoogleのようなプラットフォームを相対化するようなテクノロジー=アートを発明していくことが世界を多様に保っていくんだという議論だったのが……。
落合 プラットフォームの超克。
宇野 そう。今回はどちらかというと、放っておいても、人工知能とトークンエコノミーでプラットフォームの超克を成し得ていくんじゃないかという議論に変わっているんだよね。ここが一番変わってると思う。
落合 そうそう。結局のところ、受益者にとってあまり得じゃない形態をプラットフォームがとっているとか、個人のデータ管理の話もそうですが、要はリスクとしてプラットホームが見做されてしまっている。逆に、ニッチなものの手厚いサービスーー限界費用は変わらないからあまりコストがかからなくなったときに、ローカルな価値が再評価されつつある。というのは、プラットフォームが行きまくると、結局のところそれはオープンソースになって、オープンソースが行きまくると、ニッチが増えるということですね。植物が酸素を生み出した後、多様な生態が爆発する、そういうような世界観が、徐々にデジタルエコシステムにでき始めたのは面白いことですね。
『隷属なき道』への応答としての『デジタルネイチャー』?
宇野 これをやり始めた時に、仮想敵はジェミリー・リフキン(*2)の『限界費用ゼロ社会』だって話をずっとしていたわけじゃない。それに対してちょうど去年、ブレグマン(*3)の『隷属なき道』ーー彼って29歳くらいで落合さんとほぼ同い歳なんだけど、あれはまさに、このままいくと世界はプラットフォーム化プラス人工知能によって、超格差社会になるという話で。一握りのクリエイティブクラスとその他愚民大勢みたいになっていって、その他愚民大勢に人間らしい暮らしを与えるにはベーシックインカムのばらまきと、国境を完全になくすしかないという話なわけだ。あれってリフキン的なものというか、カルフォルニアンイデオロギーに対してのヨーロッパからの応答なわけなんだよ。あれとちょうど全く同じ時期に、日本で落合陽一が近いようでもあり、まったく正反対のことでもあるようなことを言ってるわけなんだよね。
*2 ジェミリー・リフキン アメリカの経済社会学者。『限界費用ゼロ社会〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭』(2015)において、限界費用が限りなくゼロに近づくことで資本主義は衰退し、共有型経済が台頭してくると述べた。
*3 ルドガー・ブレグマン オランダの歴史家。ジャーナリストやノンフィクション作家の一面も持つ。著書に『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』(2017)がある。1988年生まれ。
▲ジェミリー・リフキン『限界費用ゼロ社会〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭』 ▲ルドガー・ブレグマン『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』
落合 そうですね。リフキンの限界費用ゼロっていう話はまさに正しくて、限界費用ゼロだったら、それはプラットフォーマーがプラットフォームを維持するコストをローカルが選択するかしないかという話になってくる。だってそれを選択しなくても、コストは安いんですから。作ればいいじゃんってなる。作る方がサービスは手厚くなるし、コストパフォーマンスもよくなるよねっていう。数の問題があまり問題じゃなくなってくるというか。その話がやはり面白いなと思って。要は全世界にいる生き物があまりいないように……種類は似ているけれど一個一個、違う種族じゃないですか。まんべんなくいる生き物はやっぱり少ないし、人間はまんべんなくいるけど、やっぱりちょっと種族が違ったりする。DNAも微妙に違う。シャチですらだいぶ違うからね。そういうことって、ニッチになるというのは自然の本質的な問題だし、限界費用と、あと逆に言うとソフトウェアプラットフォームの時間的な通信速度の向上、速度が速くなるということは、そこを一つに繋いだように見えても、実は人間も環境も文化もそして気候も、あらゆるものが多様だったわけだから。その中でコストが最適なように動くとすると、全然違う自然ができる可能性というのはあると思います。
宇野 2013年に社会学者の鈴木健さんが『なめらかな社会とその敵』を書いたときに、あれは今思うとブレグマンみたいなことを、処方箋はだいぶ違うんだけど問題意識としては先取りして言っていたんだと思うんだよね。でもあれは山形浩生さんとかから「それってただの全体主義じゃないか」と批判を受けた。「国境もないし、プラットフォームで全て画一化されているんだったら、それは全体主義だ」と批判されていたんだけど、ある意味ブレグマンは開き直っているわけね。国境をなくしてしまえ、ベーシックインカムで格差をなくしてしまえ。でも、それってある意味トロツキー的というか、世界革命論なんだよ。シリコンバレー的な価値観というか、リフキン的なものが台頭としてきたときに、ヨーロッパではもう20世紀の完遂というか、社会主義の夢のアップデートとしてのトロツキズム的な発想が出てきて、一方で東洋の島国では、落合陽一が、「いや、侘寂だ」って言っている。本居宣長対トロツキーみたいな世界に突入しているんだよ。
▲鈴木健『なめらかな社会とその敵』
落合 そうなんだよね。みんな結局のところ全体主義の話をしだして。「だから、全体主義にするにはローカルなコスト圧力が効いてきますよ」ってことを、意外とみんな無視するっていうのは……あれはなんか「そんなにマクドナルドばかり食ってるのかね」とか、そんな感じの疑問を持ってしまうんだよね。
宇野 そうだよね、単純にね。
落合 それはアメリカナイズされたーー俺はアンディ・ウォーホル好きだから「アメリカとはハンバーガーなのである」みたいな極端な結論とか、「近代マッチョ主義はハンバーガーに結像して、以後100年間はコカ・コーラを飲み続ける」みたいな世界観も嫌いではないんだけど、それでは社会が成立しないってことがわかってきたじゃないですか。たとえばいろいろな動画配信サービスもそうだし、Uberが一極になると思ったら、そうならなかったとかね。あらゆるプラットフォーマーはローカルとの戦いを強いられているわけで、二番煎じで出てきたものとサービスが変わらなくなる。いや、むしろ二番煎じの方がサービスがよくなるというような状況がいろんな国で生じているなかで、限界費用がゼロになることによってもたらされたものは何かと言うとプラットフォーマーを(国家が)統制する方向じゃん。そういう話を真面目に考えたことありますかって言うと、意外とみんな考えていないからやんないとねぇ……と思いつつ。
宇野 リフキンへの応答として、限界費用がゼロになるということは、それは自然に近づくんだと。人間と自然では単純に考えて、自然の方が多様なんだよ。人間の考えていることの方が圧倒的に画一的なわけで、そこに対して、自然の多様性について語ってる人間って意外といないんだよね。
落合 人間とは手段であり、目的ではないというのが『デジタルネイチャー』のテーゼですからね。
宇野 だから今言ったような話がおおむね書いてあります。この説明で果たしてわかるのだろうか(笑)。
落合 近代的人間存在を何のために提示したかっていうことから考え始めれば、人間は人間のために人間を定義したのではなく、社会や全体を、どうやって考えたらいいのかなという、小さいコミュニティやローカルな発想から始まってるんだよね。
宇野 だから人間概念というか、近代的な人間概念って目的ではなく手段だったんだよねって話だよね、究極的には。
落合 手段だったはずなのに、いつの間にか目的化していることで、プラットフォームとの整合性が取れなくなって「隷属」と言う言葉でしか表現できないみたいな。それは良くないし、多分ちょっとずれてるんですよ。
宇野 ブレグマンに対し、落合陽一はどうアンサーしているかというと――本書では実際にブレグマンへの言及はないわけなんだけど――「隷属への道」と彼は言うけれど、そもそも隷属しない方向に最適化していくだろうと。それが回答なんだよね。
落合 それが自然と生態系です。この本はね、絶対に買った方がいい。
宇野 絶対に買った方がいい。
落合 そうやって考えると多分相当面白い本です。
宇野 多分読み終わるのに3週間以上かかると思うけど、買って読んでください。
落合 この前、Twitterで聞かれたんですよ。「ネットでデジタルネイチャーについて収集するのと、落合さんの本を買うのはどちらがいいですか?」って。「ネットの記事は誰かが書いています。この本は僕が書いています」と答えました。
宇野 それ「言っちゃったわ」って感じだね(笑)。でも実際そうだからね。深夜のファミレスでずっと書いてたからね。
落合 それはだって記事はライターさんが書くわけじゃないですか。それ考えると濃度が全然違う。
宇野 カルピスの原液そのままなので。
落合 面白い原液だと思うので、ぜひ。
宇野 その原液に耐えうる喉粘膜を鍛えてください。
落合 確かに(笑)。
宇野 ということでデジタルネイチャー、6月15日発売。
落合 これ刷り数が少ないから、みんな予約しておかないと手に入らないですよ。
宇野 そうね。刷り数が少ない上に、直販だから取り扱ってくれる書店が限られていて、見つけたら即買う、もしくはAmazonで予約してください。Amazonで予約が一番確実。プラットフォームの同調圧力に負けてる発言なんだけど(笑)。
落合 ローカルな本屋で買えると思っている人がたくさんいると思うけど。
宇野 買えません。なぜならうちは零細企業だからです。直販だからという理由で入れてもらえない本屋がいっぱいあるから。
落合 『日本再興戦略』の10分の1以下の発見率だと思いますよ。
宇野 見つけたらすぐ、レアポケモンだと思って買ってください。
落合 発見率だともっと全然少ないと思うよ。
宇野 ウェブにおける圧倒的な目にする率と、本屋における圧倒的な目にしなさのギャップに、みんな愕然とすると思うよ。
落合 GoogleとInfoseekぐらい違うと思うよ。
宇野 それ絶望的な戦いだね(笑)。Infoseekという言葉を12年ぶりくらいに聞いた気がする。それでは6月15日発売、よろしくお願いします。
落合 よろしくお願いします。
(了)
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落合陽一『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化された計算機による侘と寂』6月15日発売!( Amazon )
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