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山田玲司のヤングサンデー 第400号 2022/8/1

The Weight

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Kを偲んで集まった同期の寄り合いは、なんだかんだそのあと9時半まで店に居座り、2次会の話も上がったがそれぞれ仕事や家庭があるので解散になった。

それでもせっかくだから駅まではみんなで行こう、昔のように駅前で解散しようと言うことになり、またぞろ7人で向かった。

サークルで飲み明かした明け方、酔っ払って始発の電車を停めたことや、駅前で近隣の別の大学のサークルと乱闘騒ぎを起こしたことなど、決して胸を張れない若気の至りを大声で話をしながら歩いて、Oが駅前で記念写真でも撮るかなんて言い出したので1枚撮った。

建て替えられた駅舎はもうあの頃とまるで変わってしまって何の面影もなく、その前で固まって記念写真を撮る中年男女のグループは、いったい何を遺そうとしているのだろうか。


解散して同期たちはそれぞれ電車やタクシーで帰路に着いた。

Fはタクシーで帰り、 OとMはもう一軒だけ行くと言って町に流れた。

他はみんな電車で池袋に出た。

Tは山手線で駒込、Sは埼京線で赤羽へ。

神奈川組のNとAは、副都心線で東横線直通の横浜行きに。

またそのうち集まろう、1年に1回くらいは。

そんなよくある曖昧な約束をしてそれぞれ帰路についた。

Nはここで、空気が変わったのを肌で感じた。

Aとふたりになって初めて、気恥ずかしさを覚えた。

一瞬、自分は品川まで出て東海道線に乗るとか、東京駅まで山手線で行くとか、別ルートで帰るべきかもしれないという考えがよぎったが、かえって意識しているみたいだし、その方がAを気まずくさせる気がしてやめた。

腹を括るというには大袈裟だが、小さな覚悟をしたNは、Aとホームに立って電車が来るのを待っていると、かえって不思議な安堵を覚えた。

それは目をこすれば消えてしまう虹のような、なにかとてもやわらかな幻のような気がして、Nはただ黙っていた。

Aもまた、同じだった。

Nが昔の恋人であったことは彼女の中では決して暗い思い出ではなく、むしろ人生のある時期を共に生きた、かつての同志のような心強さを抱いていた。

それは長い春を共に過ごした者たちにしかわからない、甘くて苦くてさみしい季節の記憶で、ふたりは冷めてしまったスープを手のひらで温めるようなやさしさで、地下鉄のホームの壁を眺めていた。

沈黙を引き裂くように轟々と音を立てて電車が来た。

地下鉄の、妙に乾いた風が2人を吹き抜け、おさまり、ドアが開いた。

大きな岩が転がるようにどどっと乗客が降りてきて、ふたりは真ん中から裂けるように離れた。

Nは人波によろめくAを見た。

Aは迷い子を探すような目でNを見ていた。

何かがまた始まりそうな予感があまりにも自然と去来して、ふたりはすぐ目を逸らした。

懐かしさと不安をまとい湧き上がるほのかな恋情ではなく、こんな些細なことでずっと忘れていたあの情感が湧き上がってきてしまう、互いのその平凡さに。