喫煙所の岸辺露伴
去年咲いていたミモザはちょうど散り終わったところらしく、他の木と大して変わらない緑の葉が茂る普通の木になっていた。
1年ぶりの、山田玲司の個展が終わった。
今年もたくさんの人が来てくれて、じっくりと絵と対話する人や、絵は早々に玲司さんや俺や赤座さんなど在廊者と話し込む人、来た人同士でお茶をしながら仲良くなる人、様々だ。
今回も北は北海道、南は沖縄、西はトリノ、東はアメリカと、色んなところからはるばる来てくれて、玲司さんは愛されてるなぁと側で見ていて嬉しくなった。
俺はというと基本的に毎日在廊していたが、来てくれた人に話しかけられる度にどこかこう居心地の悪さを感じてもいた。
というのも今年は絵の配置などのキュレーションは玲司さんがすべてやったので、この個展自体に何かしらのクリエイティヴィティを発揮したわけでもなく、特に何もしてないからこの個展について話すこともそんなにないのだ。
だから話しかけられても個展の話はそこそこに、ヤンサンの話やその人の身の上話、またあの作品についてどう思うか、あの人物についてどう思うかなど、個展と関係のない話にどうしてもなってしまう。
そして間が悪いことに今の俺は森高のせいで「目に見えないこと」にはもうあまり興味が無くなっている季節である。
だから人と話すのは好きだし楽しいんだけど、ちょっと疲れた(笑)
「ヤンサン見てます」
「奥野さん、ぼっちざろっくの回めちゃわかります」
「小説書こうと思うんですけど何読めばいいですか?」
「氷河期回最高でした!」
「エブエブやってくださいよ」
「ヤンサンで〇〇はやらないんですか?」
「法華経は読みましたか?」
「聖闘士星矢の映画見ます?」
「エクリチュールの話もっと詳しく聞かせてください!」
まぁ、こんな感じのを1日20人くらいと話すわけで、1日ならまだしもこれが連日続くと、話題によっては毎日同じことを話すことになる。
また、ギャラリーにいるとその場で長話になるのも他のお客さんに悪いから、基本的に話しかけられても玲司さんに紹介するようにして、なるべく主役を優先にするように努めた。
そう、俺は決して主役ではないのだ。
そして隙あらば喫煙所に行き、スモーキングブレイクをするのだが、これがある意味誤算だった。