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銀河チョコさん のコメント

読んでいて、口の中が美味しくなってしまった・・・。
No.2
81ヶ月前
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”プロ客”というのは造語である。 これについては説明が必要だが 常々僕は『客として店に行ったからには 店はプロであるべき。そして 客もプロであるべきだ 。』と考えている。 ”プロ客”は、いかにして「客として、店側の考える”日常”に馴染むか」 というのを研究している。 もっと言うと「いい客だな」とも思わせない「ただの客」。 頑固な店主に「あいよ」と言わせるだけの客。 奇をてらわず、店主が用意したこのテレビドラマにおける ”客A”、”客B”、になりきるのだ。 ”日常”というドラマを崩壊させないように。 ここで「町中華」における”プロ客”とはなんなのか、という 独自の研究結果をお話したい。 「町中華」の定義は以下の通りだ。 昭和以前から営業し、気楽に入れて1000円以内で満腹になれる庶民的な中華店。 単品料理主体や、ラーメンなどに特化した専門店と異なり、麺類、飯類、定食など 多彩な味を提供する。大規模チェーン店と違ってマニュアルは存在せず、 店主の人柄や味の傾向もはっきりあらわれる。 (立東舎/「町中華とはなんだ」より抜粋) 言われてみればところどころで見かける「あの」中華料理屋のことだ。 大手のファミレスでもなければ、ラーメン屋でもない。 地方にたまにある、自動ドアの先に大きな壺が置いてあって チャイナ服のお姉さんが出迎えてくれる”背伸びした中華料理屋”とも違う。 名前がハゲかけたビニールのひさし、すりガラスの引き戸、 赤いテーブルと謎の模様の床。ラー油はS&Bので、出し口が微妙に詰まっている。 そんなありふれた「町中華」で、”客A”になるのには事前の準備が伴う。 準備とは「その日を一日休みにする」というものだ。 客Aになるためには、このくらいの覚悟が必要だと思う。 狙う時間は昼過ぎ。 12時〜13時という、ランチタイムの戦場を抜けたあたり。 客もまばらになり、出前も落ち着いたころ。 13時半くらいがベストであろう。おもむろに入店する。 この際「こんにちはー」等の声は発さない。 なるべく目立たずにコトを始めなくてはいけないからだ。 「こんにちはー」等と、あえて自分に注目させるのは まだ「ちょっと目立ちたい感」が残ってる。 役者としては野暮なわけ。 店主は、忙しかった時間もおちつき、つかの間の休息。 空いている席に座り、新聞を読んでいる。 「お、客か。せっかく新聞を広げたのにナ」などと思っている所で 僕は「瓶ビールとザーサイ」と注文を入れる。 この「瓶ビールとザーサイ」というチョイスは 「ご主人は、もう少し休んでてくださいね」というプロ客からの合図なのだ。 おかみさんだけで事が足りる選定なのである。 そして、 ここで「瓶ビール」と敢えて生ビールと区別して発言しているのにもワケがある。 単に「ビールを」と言ってしまうと「ビンにしますか、生にしますか」などと訊かれる。 お手間を取らせてしまっているわけだ。 そして瓶ビールを選んだ理由は「おかみさんが楽だから」でもあるし 町中華の赤いテーブルにはやはり”瓶ビール”が似合うという所でもある。 なれた手つきで瓶ビールの王冠を栓抜きで抜いて、おかみさんが持ってくる。 「暑くなってきたわね」などと声をかけられても浮かれてはいけない。 「そっすね」くらいの相槌にとどめ、ビールを注ぎ、飲む。 自分が”客A”であることを忘れてはいけないのだ。 ふと上を見上げると、年季の入ったテレビからは ワイドショーが流れている。 やれ「どっかの政治家がこんなこと言った」とか「支持率が〜」とか 一般庶民には毒にも薬にもならないようなニュースが垂れ流されているが そのテレビは、情報を仕入れるために見ているのではなく ビールのつまみとしての、BGMとしての価値とみなす事が重要だ。 ”客A”として、入店前に、昼の閉店時間を把握しておくことも重要である。 「そろそろ帰ってくれないかな」などと思わせてはいけないのだ。 この店のラストオーダーが14時半で、閉店が15時だとしよう。 その場合、14:15くらいに「最後っぽいオーダー」をしておくと 店主は『今日の休憩時間は少ないな』とは思わない気がする。 それらを踏まえた、昼の仕事としては最後になる、”客A”からの注文が入る。 「すみません、チャーハンで」 店主からの小声の「はい」が聞こえたらOK。 これ以上はなにも触れない。 「本日のおすすめ!ホイコーローと半ラーメンのセット(スープ付き) 850円」 という、魅力的なメニューがあるが、これは敢えて注文しない。 「本日のおすすめ」と書かれた商品は、確かに値段がお手頃で品数も多く魅力的なのだが 「おかみさんの介在によって成り立つ商品である」ことが多いのだ。 すでに夜の営業の事を考えているであろうおかみさんに スープをよそっていただいたり、漬物を冷蔵庫から出させたりはさせたくない。 静かに「…チャーハン」。 これでいい。 やがて、中華鍋と中華おたまのカンカンカンという音が店内に鳴り響く。 ビールは2本めになり、町中華という舞台における残り20分くらいの所か。 テレビからは相変わらず、テリー伊藤やデーブスペクターが 何かに対して持論を展開しているようだ。 やがて「上がったよ」を意味する最後のカーンという音が鳴り、 チャーハンが運ばれてくる。 開店してこれまで35年。 幾度と作ってきたであろう「チャーハン」。 何の変哲もない見た目の、あの「チャーハン」。 どこで何を入れるか…というのは店主の体が覚えている。 店主がストレスフリーに作れる商品。それが「チャーハン」。 この注文こそが、その店に向けた「最大限の尊(たっと)び」なのである。 白磁に赤線の、多角形のチャーハン皿。 最後の米粒が取りにくい、あのレンゲ。 奇をてらわない具材。 強い火力で一気に炒めあげるのは家庭では出来ない。 シンプルだからこそ食べ飽きない。 その店のシグネチャーモデルとでも言うべき一品を頂戴するのが ”客A”としての仕事なのだ。 うまい。 口に残った最後のチャーハンの米粒を、1杯だけ残しておいたビールで流し込み お会計をお願いする。 時間は14時半を少し過ぎた所であり、営業中の看板がひっくり返された直後が 「わざわざ呼び寄せた感」を作らないためにも好ましい。 無論、事前に1万円札などは崩してある。 「ありがとうございました〜」の声にも、振り返らない。 最後まで「空気のような客」であることを ほろよいでも忘れてはいけないと思う。 外に出ると、今日は早上がりなのか学生の帰宅が目立つ。 吐息に少しビールの香りが付いているが 「昼過ぎのお仕事、ご苦労様です」という、スーツ姿のサラリーマンに対しての 心の中だけの自慢である。(これを言うために、その日は休みにしておく必要がある。) 遠くから、選挙カーの声が聴こえる。 おばあさんが買い物のカートを押している。 (これらの人間も全てエキストラだと考える) そんな”日常”な、とある中華料理屋のインサート映像。 固定された外観映像から歩いて抜け出し、自分自身が映像から出た瞬間 ”客A”の仕事は終わりだ。 監督の「カット!OK!」の声。 長くなったがこれが僕の考える ”プロの客” である。
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